袋小路に光はない
領兵二人が居なくなり、新たな領兵がやってくる気配もないとわかるとウインディも扉に向かう。
「うむ、では我も去るとする。色々と失礼したな。
次会う時は刃を交えるのではなく、是非とも肩を並べて戦いたいものだ」
ウインディはそんな事を言うが、クラウスの相方は私だ。そこを譲るつもりはない。
「悪いが、勝手に突っ走る奴なら間に合ってる」
「そうそう、勝手に突っ走る奴なら――って、ねぇ!それ誰の事!?」
ウインディはそんな私達を見て微笑みながら立ち去る。
扉が閉まるのを確認すると、クラウスは私の言葉は聞かなかった事にして話を始める。
「さて、賑やかし共も全員帰ったから、本題に戻るぞ」
「そう言えば、別の線から考えるとか言ってたわね」
メロディの言葉でクラウスが話途中だった事を思い出した私は、少しの不満は飲み込んで話の続きを促す。
「プロが調べても分からなかった事を俺達が解決出来るとしたら、アカリ達が新たに齎した情報から辿るしかない。
そして、それは被害者が獣人と言う情報の他にもう一つだけ存在している」
もう一つの情報と言うのを考えてみるが、ピンと来るものは思い浮かばない。
他の三人も同じ様子で、特に勿体ぶる必要もないのでクラウスが早々に答えを告げる。
「それは、麻袋だ」
「そうね。確かに、誘拐した子供を麻袋に入れて運んでいる事は、私達が助け出されたから明らかになった情報ね」
メロディは頷いているが、私は納得出来ていない。
「だけど、それは冒険者に偽装する為でしょ?
そうなると目撃情報も頼りにならない訳だから、そこから調べるのは無理じゃない?」
この情報からは、通行人に怪しまれずに運べる事が分かっただけで、何かを絞れるどころか寧ろ連れていかれた可能性のある場所が広がっただけだ。
だが、クラウスはそうは考えていなかった。
「いや、誘拐犯の目撃情報は必要ない。
重要なのは、麻袋に納品する物を詰めた冒険者は何処に向かうかだ」
「何処ってそりゃあ、納品するんだから冒険者ギルドに……って、そっか!」
クラウスに思考を誘導される事で、漸く私も理解した。
「そう、冒険者に偽装するなら冒険者ギルドに向かうべきだが、誘拐犯が子供を持ったまま行く訳がない。
あそこは受付で袋の中身を査定するからな。受付で開ければ人に見られるし、受付に直行しなければそれはそれで目立つ」
「空き家や、そのまま街の外に運ばれた可能性も低いわね。冒険者が納品前の帰りで寄り道なんて非常識すぎて、下手したらそのまま通報される恐れもあるもの。
つまりは、冒険者ギルドを通さずに直接、納品依頼をしてる場所が怪しいって言いたい訳ね」
ちょっと皆の思考が速いが、なんとか追い付けてる。
とにかく、完璧に偽装しようとした誘拐犯の行動のおかげで、逆に候補を絞れてると言う訳だ。
「ああ、この厳戒態勢の中で再び誘拐を試みたって事は、偽装に隙はない筈だ。
そうなると怪しいのは普段からギルドを通さずに依頼してる場所だから、そこを調べれば――」
だが、クラウスが結論に差し掛かった所でメロディが口を挟む。
「惜しかったわね」
この推理の行き止まりを意味する言葉に、私もクラウスも動きが止まる。
そんな私達の反応も我関せずとメロディは淡々と解説する。
「ギルドを通さない直接依頼は、揉め事が起こっても自己責任で依頼主側にも冒険者側にもリスクが大きいのよ。
だから、誘拐の偽装になるほど普段からやってる場所なんて有る訳ないわ。
発想は悪くなかったけど、このくらい常識よ」
直接依頼は私達もフルート村で受けた事がある。
それは義理人情による口約束で確実性は無かったし、報連相が上手くいってなくてクラウスとリリさんが戦う事になると言うトラブルも起きた。
そう考えると、確かに冒険者ギルドのあるこの街で、態々そんなリスクを負ってまで自然に直接依頼をし続けられる人なんて居ないのだろう。
「また振り出しだね……」
溜め息にも似た私の呟きと共に重い沈黙が訪れる。
当然だ。地道に探す事は出来るが、この人数じゃ結果も目に見えてる。
そして日数がかかればかかる程、拐われた子供達を取り返せる確率も低くなる。
だが、ずっと俯いて考えていたマグマが顔を上げ、その沈黙を破る。
「……いや、直接依頼をやってる所なら、1ヶ所だけある」
八方塞がりの暗闇に、一筋の光が差した。
雑補足
・報連相
報告、連絡、相談の略
世の中のトラブルの半分くらいは、これらが足りない事が原因と言っても過言ではない
どんな人間関係でも重要。ちゃんと話すべし