プロはアマくない?
新たにやってきた領兵二人には、ウインディが説明する事で直ぐに解決すると思われたが、そうは問屋が卸さない。
「だから、彼の冒険者カードの印に対しての操作ミスだ!
彼はいきなり斬りかかった私に反撃する事なく対応してくれた。
そんな者が誘拐犯な訳がないだろう!」
「いや、操作ミスだと我々が勝手に決めつけるのは不味い。
彼等が潔白だと言うのなら、同行を断る理由もないだろう?」
取り敢えず任意同行を求める二人。
流石は警察組織の本職。情で動きまくるウインディとは訳が違う。
「そうだ。こいつらが誘拐犯でなかったとしても、他の犯罪を犯してる可能性はあるんだ」
その言葉にギクリと反応してしまうが、幸いにも領兵の三人には見られていなかった。
私とクラウスは衛兵の詰所に忍び込んだばかり。悪人ではないが犯罪者ではあるのだ。
「彼は犯罪者などではない!我が保証する!」
何の根拠もなくクラウスの為に言い切ってくれるウインディ。
感情で動くなんて領兵としては二流だろうが、刑事ドラマ好きの私から見ればとにかく格好いい。
そんな彼女の信頼を実は裏切ってるのが申し訳なくて、彼女から目を逸らし二人の領兵の方を見る。
二人とも顔つきは厳しく、なんだか少し焦ってる様にも見える。
それもそうだろう。連続誘拐なんて大事件が起こってるのに、未だ解決出来ていないのだ。
(事件の糸口になりそうな存在を見つけたとなれば必死にも…………って、あれ?)
二人の顔を見ていると、見覚えがある事に気が付く。
「ひょっとして、私の事が好きな門番さん?」
「「「は?」」」
私の言葉に、ユウカちゃん以外の全員の声が揃う。
流石に説明が足りなかった。
「ほらクラウス、さっき領主館に行った時の――」
「……あぁ、確かにあの時の門番だな。
と言うか、お前よく覚えてたな」
彼等は私を見てドギマギしてるのを見ていたので印象に残っていたのだ。
寧ろ、大して印象に残ってないだろうに、私に言われただけで断言出来る程はっきり思い出すクラウスの記憶力の方が凄い。
私の言葉に領兵の二人も、今思い出したとばかりに激しく頷いている。
「……さ、さっきのお前達か!いやぁ気が付かなかった!」
「領主様に呼ばれてたな!そうだそうだ!」
そのテンパり具合から見て、少なくとも私の事はわかっていたのだろう。
そう言えば、この二人はずっと彼ではなく彼等と私も含めて呼んでいた。
もしかしたら、取り調べと託つけて、私とお話がしたかっただけなのかもしれない。
「全く……会った事があるなら最初から言ってくれ。
そもそも、お前達もこんな格好の二人組を忘れるな」
呆れる様にヤレヤレと首を横に振るウインディ。
こんな格好の二人とは、私とクラウスの事だろうか?
片や日本の高校のセーラー服。片や白衣の下に作業着を着たモノクル。
……うん、こんな格好の二人だわ。
「なんにせよ、これでアカリ達の疑いは晴れたって事ね。
……それとも、領主が直々に館に招待した者を無理矢理にでも連行するのかしら?」
メロディの言葉にプルプルと首を横に振る領兵二人。
「あれ?でも疑われてたのはクラウスで、招待されたの私だから、そこに直接の関係は無いんじゃ――」
そんな私の呟きを遮る様にメロディが大声を出す。
「さぁ!今すぐ帰るか帰らないか、どちらか選びなさい!」
「「か、帰ります……」」
スタコラと小悪党の様に駆けていく領兵の二人。
メロディは小さいのに威厳や迫力があって、将来は舎弟を束ねてそうだ。もし道を踏み外したら、私が全力で更正させてあげよう。
そんな未来を想像して頷いていると、ユウカちゃんが首を傾げて呟く。
「……甘い匂い?」
見ている方向から、去っていった領兵二人を指した言葉だろう。
私にはそんな匂いは感じられないが、嗅覚が優れている獣人のユウカちゃんが言うのだから間違いない。
「香水か何かつけてたんじゃないのか?」
マグマの推理に私は頷く。
彼等が私に会うにあたって小さなオシャレをしてきたと考えれば合点がいくと言うものだ。
「全く、素直になれば良いのに……」
クラウスが何か言いたそうに此方を見ているが、気にはしない。
「もう少しで思い出せそうな匂いなんですけど……う~ん」
ユウカちゃんは匂いの正体が微妙に思い出せなくてむず痒そうだが、こう言うのは忘れた頃に思い出すものだ。