疑いはまだ晴れない
「いやぁ、なんとも失礼した」
「本当だよ…」
やっと出てきたウインディの謝罪に、疲れ果てたクラウスは溜め息を吐く。
「そもそも、なんで此処に来たの?」
部屋に入ってきてからクラウスを誘拐犯と間違えた理由はわかったが、何故ウインディがこの部屋にやってきたのか。その謎は未だ解けてない。
「この中にギルドカードに印を付けられた者が居るだろう?それが発動したんだ」
「あぁ、あれか……」
額に手を当て再び溜め息を吐くクラウスは、思い当たる節がある様だ。まだ首を傾げている私に説明してくれる。
「ほら、昨日お前が門で揉め事に首を突っ込んだ時の――」
「あぁ、あれか!」
今日は色々な事が起こりすぎてすっかり忘れていたが、昨日だって色々あったのだ。
昨日、門の前で商人さんの樽の中に誰も居ないと証言したクラウスは、門番さんに保証人としてマーキングみたいなものを付けられていた。犯罪者じゃなきゃ害は無いみたいに言ってたけど、今回のは思いきり冤罪だ。
「考えてみれば、発動したのは一瞬だったしノール夫妻のどちらかの操作ミスだったのかもしれん。
我の早とちりだな。失敬失敬」
ウインディの言葉に私達は眉間に皺を寄せる。
「操作ミスねぇ……」
「なんかまたノール様の怪しさが増しちゃったね」
私のそれはクラウスに向けた小さな呟きだったが、ウインディは耳聡く拾う。
「はは~ん。お前達、ノール様に会ったのだな?
いや、皆まで言うな。わかるぞ。我もノール様にスカウトされた時、あの奇怪な仮面を見て『悪人に違いない!』と疑った口だからな」
なんと、ウインディと私は年齢だけでなく状況や考え方まで私に似ていた。
「我がその事を口にしたら、あの方は『疑うなら、君が領兵として内部から僕を探れば良い』と言われてな。迷わず領兵になったものよ」
(見事に言いくるめられてるー!)
ノール様は私が思ってた以上に誘導が上手い様だ。
私が誘われた時も、もしクラウスが居なければこうなっていたのかもしれない。
「最初は悪事の尻尾を見つけようと色々調べたんだが、調べても調べても彼は清廉潔白。
領民の事を第一に考え、私費まで投じ自らは民と変わらぬ質素な生活を送っている、素晴らしいお方だ」
目をキラキラさせて語るウインディ。
自らの手で疑いを晴らした結果、尊敬出来る人物だったとなれば、そこまで心酔してしまうのも無理はない。
「成る程な。貴族の館にしてはやけに地味だと思ったが、あれは領民に還元していると言うアピールだったのか」
「嘆かわしい事だけど、この国には私服を肥やす事ばかりに悪知恵を働かせる貴族がまだまだ居るもの。アピールとしては有効ね」
合点がいったとばかりに頷くクラウスとメロディ。
二人の言い分にウインディは苦笑いだ。
「アピールアピールと言うが、ノール様は実際に領内で採れたものだけを使った郷土料理しか口にしない。
この国で最も犯罪から縁遠い貴族と言っても過言ではない」
地産地消はあまり関係無いと思うが、流石に自分で調べてきたたけあって、なかなか説得力がある。
だが、疑いを完全に晴らすには、まだ気になる点が残っている。
今度はウインディに聞かれない様に、なけなしの魔力で『この声よ届け』を発動して話しかける。
「領兵の事は奥さんのソプラ様に任せきりみたいに言ってたのに、私とウインディの二人も誘ってるなんておかしくない?
……もしかして、私やウインディみたいな美少女が好きなロリコンで、それが悪化して子供達を誘拐したのかも!」
ウインディも、私ほどではないが美少女と言っていいレベルの優れた容姿をしているし、ちっちゃい女の子は大抵可愛い。
「美少女ねぇ……まぁ、一つの可能性として頭の片隅に置いておこう」
かなり自信のある推理だったが、クラウスの反応は芳しくない。
私が不満気に口を尖らせていると、バン!と突然部屋の扉が開かれた。
「ここか、凶悪な犯罪者め!」
つい先ほど見たような展開に、鎧の客人二人組を苦笑いで出迎える私達。
「大人しくお縄に……ってウインディ!?なんでお前が此処に!」
昔の自分を見てウインディが、顔を赤くしながらも説明を買って出てくれた。