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空気が読めない空気魔法使い  作者: 西獅子氏
第三章 セイヴィア男爵領編
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止められない感情

「我が名は疾風のウインディ!

 ――覚悟しろ、誘拐犯め!」


「はぁ?誘拐犯だぁ?お前どんな誤解を――」


「黙れ極悪人め!我が愛剣カットラスの錆びにしてくれる!」


 言うが早いか、ウインディは一歩踏み出しクラウスに斬りかかる。咄嗟の事であったがクラウスもしっかりと反応し、魔力を込めてないムラマサを抜刀して受け止める。


「俺は只の、冒険者だ!」


「戯れ言を。少女が三人、言い逃れは出来んぞ!」


 噛み合ってない会話を交わしながらもクラウスとウインディは刃を交え続けている。

 そんな戦いを呆然と見つめながら、私はウインディの言葉の意味に思い当たり、メロディとユウカちゃんに話しかける。


「……ねぇ、ひょっとしてウインディが言ってる『少女が三人』って私達の事?」


「あの子、拐われた少女が全員獣人だって事すら知らないみたいね。領兵としてどうなのかしら」


「ご、誤解を解かないとですよね。

 ……あの、その人は誘拐犯じゃないんです!」


 私達の言葉が聞こえたウインディは、一歩下がると此方を向いて微笑む。


「心配は要らない。君達は我が助け出すからな」


 そして再び踏み出し戦いへと舞い戻る。

 話を聞いてくれないと言うか、都合の良いように解釈されると言うか、とにかく埒があかない。


「……貴女の魔法でなんとかしなさいよアカリ」


「そうしたい所だけど、今は魔法使えないし……って言うかマグマはなんで無視されてるんだろう」


 私達、美少女三人は誘拐された女の子と言う解釈だとしても、マグマは誘拐犯一味と思われてないのだろうか。

 強面だからクラウスより誤解されそうなものなのに。


 そんな私の独り言にも、ウインディは律義に答えてくれる。


「小者は後回しだ!」


 あんまりな言い分だった。


「小者……」


 ウインディの言葉に少し落ち込んでいるマグマの背中に手を置いて慰める。


「仕方ないって、クラウスが強いから分かりにくいけど、あの子かなり強そうだし。寧ろ狙われなくて良かったよ」


 そう、彼女の振るう剣はとても速い。盗賊のボスだった剣舞のハチャをも上回っている様に感じる程だ。


「疾風を名乗るだけあって、かなり強いわね……頭は弱いけれど」


 そんなメロディの嫌味に、クラウスが「プッ」と吹き出した。

 その笑いによって生まれた隙は、ほんの僅かではあったが達人同士の戦いにおいては致命的なものだった。


 クラウスの脇腹にウインディの剣が吸い込まれる様に流れていく。

 次の瞬間に舞う血飛沫を想像し、思わず目を閉じる。



 ガッ!



「…………()()?」


 何かが斬れたにしては不自然な鈍い音を疑問に思い、目を開ける。

 目の前には、クラウスの脇腹で止まったカットラスがある。

 一瞬、クラウスが頑丈すぎて切れなかったのかと思ったが、よく見るとカットラスの刃が、刃物と言うより鈍器に近いほど太くなっていた。あれでは斬れるものなんてないだろう。


 訳が分からず首を傾げていると、俯いてプルプル震えていたウインディが勢い良く顔を上げてクラウスを睨む。


「おのれぇ……まさか、我が愛剣カット()()の力の源が()()だと知っていたとは!」


「いや、今知ったよ」


 クラウスの言葉に、はっとして口を覆うウインディ。

 プルプルと震えるその顔は心配になるくらい真っ赤だ。


 だが、私にはまだウインディの言葉の意味が分からない為、メロディに解説してくれる様にアイコンタクトで頼む。

 きちんと伝わったのか、溜め息を吐きながらも教えてくれる。


「はぁ……恐らくは、感応魔法よ。術者の感情の度合いに応じて、物体を対応する状態に変化させる魔法ね。

 彼女の剣の場合、怒りに応じて刃が鋭くなる魔法が刻まれてるって所かしらね」


 メロディの解説を聞いてマグマが考察を口にする。


「なら、あの女は怒りより笑われた恥ずかしさが勝って、剣が(なまく)らになったって事か?」


 途端にウインディが更に赤くなり、それが何よりの証明になった。


「うぅ……無念!」


 真っ赤な顔を隠す様に蹲ってしまうウインディ。


「誘拐犯め!煮るなり焼くなり好きにしろ!

 だが、私がやられても第二第三の領兵がお前を捕まえにやってくるからな!」


 自棄(やけ)気味に叫ぶウインディに、堪忍袋の緒が切れたクラウスが(まく)し立てる。


「だから誘拐犯じゃねぇつってんだろ!

 よしんば誘拐犯だったとしても煮ねぇし焼かねぇよ!

 と言うか感情をコントロール出来ないならそんな武器使うなよ!俺が本物の犯人だったら、どうするつもりだったんだよ!」


 クラウスの怒濤のツッコミに、ポカンと口を開けて見上げるウインディ。


「もしかして……誘拐犯じゃないのか?」


「そうだよ……」


 体力よりも気力が尽き果てたクラウスが頷く

 ウインディは確認の為に此方を見るので、私達四人も首を縦に振りクラウスの言葉を肯定する。

 それを見たウインディはホッと溜め息を吐く。


「なんだ、それならそうと最初から――」



「言ってるんだよ!!!」



 クラウスの悲痛な叫びは、隣の建物まで届いたそうな……

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