まだ消えてない
部屋から衛兵さんが居なくなった事でクラウスは資料を読み始めるが、ここで新たな問題が発生する。
「ねぇクラウス、とんでもないこと言っても良い?」
「……今言う必要があるなら言え」
クラウスはとても嫌そうな顔をしているが、これは間違いなく必要な事なので伝えなければならない。
「私の魔法、もうすぐ切れそう」
「はあぁぁぁ!?!?」
クラウスは大声を上げて驚いた後、眉間を叩いて考え始める。
「……いや、それもそうか。そう言えば今日は誘拐犯だのフォースホースだので派手に魔法を使った後だったな。
いくら元気そうに見えても消耗してる事は考えておくべきだったか……わかった。取り敢えず今は誰も居ないから『防臭』以外は切って、小声で喋れ」
クラウスは直ぐに思考を切り替えて指示を飛ばしてくれた。
今は頭が余り働かないのでとても助かる。
(普段なら私の天才的な閃きで、シュパパッと解決してる所だけどね。今は疲れてるから。うん、仕方ない仕方ない)
誰かが来る前に此処を去らなきゃいけなくなった為、クラウスは凄い速度で資料を読み進めていく。
私は『防臭』を出来るだけ長く維持する為に、目を閉じて胡座を組んで集中する。
すると、目を閉じて集中していたせいか、普段より研ぎ澄まされた聴覚が、何人かの足音が此方に向かってくる音を拾った。
クラウスはもう読み終わりそうだが、読み終わったとて今からじゃ誰にも気付かれずに脱出するなんて不可能に近い。
(ど、どうしよう……!)
近づいてくる足音と回らない頭に慌てていると、そんな私を落ち着かせるかの様に肩に優しく手が置かれた。
「お前の力で此処まで来れたんだ。
帰りくらいは任せろ」
『ゲート』
ガチャリと扉が開かれる直前、私達は誰も居ない路地裏へと落ちていった。
――――――
宿に戻ってきた私達は、クラウスの頭に記憶された資料から事件の詳細を聞いていく。
「現在行方不明なのは三人の獣人。
アルマジロに、ワニに、オウム……連続少女誘拐事件と言っているが、ユウカとメロディを合わせても狙われたのは全て獣人の少女だな」
「そうね、五人にもなれば獣人も大きな共通項であるのは間違いないわね」
「そうそう。共通こー共通こー」
クラウスとメロディの話に合わせて取り敢えず、うんうんと頷いておく。
マグマがジト目で見てくるのは気にしないったらしないのだ。
「臭いが強いだけのコリオーバーをやけに使うのも、最初から嗅覚の優れた獣人を気絶させる為と考えれば説明もつくか」
成る程。人並の嗅覚しかない私達には顔を顰める程度の臭いでも、獣人にとっては確実に気絶する程の臭いって事か。
言われてみればフォースホースが暴れた時も、気絶した人達は獣人だけだった様な気もする。
(……あれ?でもそう考えると――)
「メロディは?」
「何かしら?」
「どうしてメロディは気絶しなかったの?」
メロディだって猫耳があるんだから猫の獣人の筈だ。
コリオーバーの煙に包まれた時、ユウカちゃんは気絶していたのにメロディは私にアドバイスをくれる程ピンピンしていた。
「わ、私はその……鼻を塞いでたから平気だったのよ」
「でも、特に手で押さえたりしてなかったよね?」
「何でそこはハッキリ覚えてるのよ!
え~……そう、見えない魔法よ!貴女のと同じようなものよ」
成る程。私の『マスク』なんかは正に見えない鼻を塞ぐ魔法だ。
メロディも同じような魔法を使えるのか。意外だがマグマの傷を治せる程の魔法使いだ。きっとそのくらい朝飯前なのだろう。
「そっか。話を逸らしてごめんね。続けて続けて」
私が促すとクラウスは微妙な顔をしながらも話を戻す。
「まぁ良いか……獣人を狙って拐ってるとなったら、そこには必ず理由が存在する」
「理由……ですか?」
自分が狙われる対象となってるユウカちゃんはその理由が気になる様子。
「ああ、例えば……獣人に大して強い感情を持ってる様な組織や金持ちに心当たりはあるか?」
クラウスの質問に対する反応は微妙だ。
まぁ、そんな簡単に見つかれば苦労は――
「組織なら一つだけ心当たりはあるが……」
言い辛そうに口を開いたのはマグマだ。
「え、もうそんなの犯人それで決まりじゃん!なんて名前の組織?」
犯人候補がいきなり見つかりそうでテンションの上がった私がマグマに詰め寄る。
マグマも「ここまで言いかけたからには、最後まで言うしかないか……」と腹を括り、その大きすぎる組織の名前を告げる。
「その組織の名前は……ペイン帝国だ」
次回、ペイン帝国の龍人達回!