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空気が読めない空気魔法使い  作者: 西獅子氏
第三章 セイヴィア男爵領編
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バレないから平気

「あら、おかえりなさい。随分と早かったのね」


 まるで奥さんかの様な台詞でメロディに迎えられ、私達は宿の部屋へと戻ってくる。


「ただいま。途中で話を切り上げられちゃったからね。

 ……それで、なんで邪魔したのさ」


 クッキーは流石に食べ終わったので、頬に残るは不満のみ。

 クラウスのする事だから理由があるのはわかるが、教えてくれないのは嫌なのだ。


「領兵への誘いを断った直後に頼み事なんかしたら、条件を付けられるに決まってるだろ」


「条件?」


「そんなもの『アカリが領兵になるなら』。それ以外にない」


 言われてみれば、確かにそうなりそうだ。

 そもそも領兵にさえなれば捜査権なんて自ずと与えられる。

 許可なんかもらう必要はないし、向こうから見ればWin-Winの取引なのか。


 クラウスに「少し考えればわかりそうな事だろ」と言われ、ちょっと落ち込む。


 そんな私を見て、クラウスは話題を変える様にこう切り出した。


「だが、きっぱり断ったのは正しい判断だった。

 あそこで少しでも迷ったら、それこそ付け込まれるからな」


 褒められた事で、ちょっと落ちた気分も元通り。

 ここに定住は出来ない事くらいは、私だってちゃんとわかっているのだ。


「ふふん!逃亡者としての自覚はあるのだよ!」


「逃亡者?何の話かしら?」


「な、なんでもないよ!」


 そうだった。ここには私とクラウス以外も居るんだった。

 クラウスは呆れの様な視線を送ってくるが、まぁメロディに少し聞かれただけだし、ギリギリセーフだろう。



「とにかく領主様の許可は貰えなかった訳なんだけども……

 どうしようか。捜査をするにしても資料が無いんじゃ始まらないし……」


 腕を組んで唸っていると、クラウスがなんてことはない様にとんでもない案を提示する。



「そんなもの領兵の詰所に忍び込めばいいだろ」


「そっか!私の『蜃気動』があればバレないもんね!」


 とんでもない案を提示したクラウスと、それに乗っかった私にマグマが待ったをかける。


「待て待て待て!お前ら、それ普通に犯罪だからな!?

 バレたら直ぐに捕まるからな!?」


「大丈夫だよマグマ。バレなきゃ犯罪じゃないって誰かも言ってたし、私なら透明になれるから!」


「お前にその教えを説いた奴ろくでもねぇな!

 それにお前、透明になんて――なってたわ。そう言えば今日会った時、突然現れてたわ」


 私がちゃんと透明になれる事を思い出したマグマは、勢いが弱まる。

 チャンスと見た私は、格好つけて一気に畳み掛ける。



「巨悪を挫く為には、泥を被る事だって必要なのさ」


 だが、私の渾身の一撃は違う者に刺さった様で――


「アカリお姉ちゃん、かっこいいです!」


「やめろユウカ!アカリに毒されるな!」


 幼い少女に良くない物を見せてしまった気もするが仕方ない。

 今は自分の言葉を曲げる事は出来ないので、ユウカちゃんへの教育はマグマやユウカちゃんの親に任せるとしよう。



 マグマの説得も終わったし、領兵の詰所へいざ忍び込みに行こうとすると、今度はメロディが話しかけてくる


「行くなら、衛兵の詰所の方が良いわよ。

 領主館に付属してる領兵の詰所よりは警備も緩いわ」


 メロディに関しては止めるどころか提案までしてくる始末。

 彼女の教育も心配だが、今はそれよりも提案の内容が気になる。


「なんで?事件の資料なら捜査してる領兵しか持ってないんじゃない?」


 衛兵に誘拐事件の捜査権が無い事は、メロディが教えてくれた事だ。

 それなのに何故に衛兵の詰所を勧めるのか。私の疑問にメロディはチッチッチと指を振る。


「馬鹿ね。衛兵は現行犯なら逮捕出来るのよ。

 そんな衛兵が手柄を立てる為にする事と言ったら?」


「そうか!事件の情報を集めて次の犯行を予測する……!」


「そう言う事よ」


 即座に答えたのは私ではなくクラウスだったが、そんなのは些細な事だ。


 さて、帰ってきたばかりではあるが、善は急げだ。

 私とクラウスは再び宿を後にした。

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