だらけない為に
窓から降り注ぐ暖かな陽射しが私を包み込む。
こんな日はもう少しだけ眠っていたい。
「おい、そろそろ起きろ」
誰かのうるさい声が聞こえる。
私の眠りを妨げないで頂きたい。
「乙女の寝室に勝手に立ち入るとは、感心しませんわね」
「もう昼過ぎだぞ、いい加減起きろ」
駄目だ。お嬢様モードでも全く相手にしてくれない。
「クラウスの研究に付き合わされて疲れたの!
もう少し寝かせてくれたって良いでしょ!」
約束だから付き合ってるが、しんどいものはしんどいのだ。
少しは明ちゃんを労りたまえ。
「お前それ言い続けて、今日で三日目だぞ!」
「……あら?そうでしたっけ?」
ちょっと何言ってるかわからないので、明お嬢様は静かな眠りに……
「毎日夕方に起きてきて、よく夜も眠れるもんだな!
ここまでくると感心するわ!
だが、流石にもう俺を言い訳にはさせないぞ!」
そう言うと私の掛け布団を取り上げるクラウス。
「わーん、お母さん布団返してよ~」
「誰がお母さんだ!」
怒鳴り声で流石に目も覚めてきた。
二度寝とは、絶妙なコンディションで成り立つ物なのだ。
一度妨げられたら、なかなか難しいのである。
「お前は甘やかすと永遠にだらけ続ける様だな。
……よし、決めた。朝飯後は魔法の訓練だ」
なんか面倒臭そうな事を決められてしまった。
「お前はまだ若いんだから魔法を使いまくって、魔力を出来るだけ鍛えた方が良い」
「えー、でも女神様の加護もあるし大丈夫なんじゃない?」
「いつ何時危険が訪れるかはわからん。まだ伸び代はあるんだから頑張れ」
クラウスは時々正論で私の言い訳を封じる。
そういうのズルいと思います。
――――――
「とりあえず、お前の使える魔法を色々使ってみろ」
「教官、手の内は秘密にした方が良いのではありませんか?」
綺麗な敬礼を決めて問いかける。
この言い訳なら短めに終わらせられるんじゃなかろうか。
「基本的にはそうだが、教官にまで隠す奴があるか」
話に乗ってきた上で叩き潰されたので、大人しく魔法を使う。
手始めに『結露』で濡らした服を『ドライヤー』で乾かし、『スチームアイロン』をかけてみせる。
私がかっこよく服を整えていると、クラウスが質問してくる。
「空気魔法はそこまで幅広い温度変化が出来るのか?」
クラウスの質問に頬が緩む。
遂にクラウスも知らない事を私が披露してみせたのだ。
せっかくの異世界なのに何故か教育水準が高くて、今までチートやら無双要素が全然なかった。
女神様の加護はあったけど、疲れないってくらいであまり目立たない。
……いや、感謝はしてるんだけどね。それはそれよ。
「あれ?空気魔法の温度変化って当たり前じゃないの?」
ふっふっふ。やっと言えた「何かやっちゃいました?」系の台詞。
今までやっちゃった事と言えば作物泥棒くらいだったから、名誉挽回のチャンスだ。
さぁ、私の独創性に驚いたと素直に言いなさい!
「俺の知ってる空気魔法使いはプライドばかり高い奴でな、研究に協力なんかしてくれなかったからな」
……はしゃぎ辛い!
私が独創的かすらわからないの想定外過ぎる!
せめて是か非かはっきりしてほしかった。
他の空気魔法使い!自分の事だけ考えずに他人の為に行動しといてよ!
「お前のお陰で一つ判明した。感謝する」
……居た堪れない!
無双だのと夢想してたのが恥ずかしすぎる!
なんでこういう時は素直に感謝するんだよ!
「それだけの温度差があれば、光魔法みたいな事も出来そうだな」
しかも私が思い付かなかった事提案してくれた。
もう感謝するのはこっちだよ。
「温度差で光魔法って言うと……蜃気楼みたいな感じ?」
確か暖かい空気だと光が曲がるとかそんな感じだった気がする。
よし、よく覚えてたぞ私!
十分に天才を名乗れるよ!
「そうだ。自然現象だと精々浮いて見える程度だが、上手く使えば幻影魔法の領域までたどり着けるかもしれない」
成る程、天才明ちゃんならば辿り着けるに決まっているな。
「よし、そうとわかれば特訓だよ!」
クラウス指導の下、特訓に明け暮れる日々が始まった。
火が点いた明ちゃんの進化は凄まじいのだ!
(こいつの扱い方が、だんだんわかってきたな)
クラウスもある意味進化していたことを、明が知ることはなかった。