顔が見れない
取り敢えず話し合いは終わったので、下で待っていた皆を呼ぶ。
部屋に入ってくるなりセバスチャンが口を開く。
「話は終わったんだな?
なら、早く領主館へ行くぞ」
少し話していただけなのに全くせっかちな男だ。
まだ時刻だって六時……六時!?
一時間近くも話していたなんて気付かなかった。そりゃ急かしてもくるわ。
「待て、俺も一緒に行く」
「領主様から言われてるのはアカリ一人だ。
当人以外の同行は認められない」
クラウスの発言をセバスチャンは一蹴する。
同行者がダメとは知らなかった。
クラウスどころか皆で行くつもりだったのに、残念だ。
「でも、未成年の場合は保護者の同伴は可能でしょう?」
常識よ!とばかりに助け舟を出してくれるメロディ。
私達はこの国の常識なんか、ほっとんど知らないから本当に助かる。一家に一メロディ欲しいくらいだ。
「……兄だけだぞ」
了承するセバスチャンの様子は渋々と言った感じだ。
これ以上ごねても可哀想なので、早速出発しようとするとマグマが話しかけてくる。
「なぁ、お前達が二人とも居なくなるなら俺達は帰った方が良いか?」
私達に気を遣っての事だろうが、そんなもの不要だ。
「マグマは消耗してるんだし、もう少し此処で休んでなさい!」
「アカリを助けてもらったしな。俺のベッドなら暫く貸してやる」
「……ありがとな。そうさせてもらう」
マグマは感謝の言葉と共に布団の中へと戻る。
「それじゃあ、行ってきます!」
「行ってらっしゃいです……!」
元気に手を振ってくれるユウカちゃんが、とても可愛かった。
――――――
辿り着いた領主館は、ドラマのロケ地に使われそうな程に豪華で大きな洋館だった。
この街で一番偉い人の家なんだから当然か。
セバスチャンに連れられて門を潜ると、何故か門番の人達にギョッとされる。
「?……どうかしましたか?」
何も知らない風に尋ねてはみたが、驚いている理由などお見通しだ。
(これは――私の美少女っぷりに照れてるね!)
天才美少女である明ちゃんに解けぬ謎は無い。
その証拠に、門番の二人は目が泳ぎまくって私の顔を見れてないじゃないか。
だが、門番の領兵さん達は私の予想とは少し違う答えを返してくる。
「い、いや…………あんまり戦える様な格好じゃないのに、顔に血が付いてるのが意外でな」
「そ、そうそう!」
そう言えば結局、顔を洗わずに来てしまった。
たが、そんなに必死に言い訳をするとは……照れ屋さんめ。
「……まぁ、今回はそう言う事にしておいてあげます」
「何を偉そうに言ってるんだ。
ほら、こっち向け」
クラウスに呼ばれ振り返ると、アツアツのおしぼりを顔に当てられる。
「ふぉっと!」
「ホット?少し拭くだけだ。我慢しろ」
クラウスに顔を拭かれながら、私達は領主館へと足を踏み入れた。
「なんであいつが……」
「何にせよ後で報告しなきゃ不味いだろ」
そんな門番二人の会話は明達には聞こえなかった。
――――――
応接室に通されると「暫く待っていろ」と言ってセバスチャンは部屋から出ていってしまった。
かなり質素で友達の家のリビングより退屈な部屋だが、クッキーを置いていってくれたので良しとする。
すると、クラウスはクッキーを手に取り、じっと見つめだした。
『鑑定』
成る程。知覚魔法で毒がないか調べてるらしい。
「…………どうやら毒の類いは入ってない様だな」
「サク……ほうだね……サクサク」
「ってお前!なに既に食ってんだよ!」
クラウスは大声をあげるので、私はクッキーを飲み込み丁寧に説明してあげる
「ゴクン……心配し過ぎだよクラウス。
ここは領主館だよ?領主様が毒なんか盛る訳ないし、誘拐犯だって手は出せないって」
此処は例えるなら警察署のど真ん中みたいなものだ。
こんな所で犯罪を犯したら当然しょっぴかれるに決まっている。
「お前は自分の命が狙われた自覚を持て!
どんな肩書きだろうと悪事を働く事は出来るんだ。領主が誘拐に噛んでる可能性だってあるんだぞ!」
確かに、そう言われてみればそうである。
刑事ドラマでも「黒幕が警察幹部でした」なんて良くある展開だ。
「ごめんクラウス。私が間違ってたよ……」
「わかれば良いんだが――」
「犯人は領主様だったんだね!」
「そこまでは言ってねぇよ!」
やんややんやと騒いでいると、セバスチャンが誰かを連れて戻って来た。
「お前達、静かにしろ。この方こそ――」
その人物はセバスチャンの紹介を手で制すると自ら名乗る。
「やぁ、初めまして。
僕はノール=セイヴィア。この街の領主だ」
その異様な姿に、私もクラウスも口を開けて呆ける。
「すまんアカリ。これはお前が正しいかもしれない……」
現れた領主様の顔は、怪しげなピエロの仮面で隠されていた。