見ている事しか出来ない人
「――と、その時!クラウスお兄様が帰ってきて、今に到るのであります!」
「成る程な。大体はわかった」
私の心情は言わない様に、事実だけを簡単にクラウス説明し終えた。
これは以前クラウスに注意された事を律儀に実行してるだけだ。
決して、自分から首を突っ込んだ事を恰も巻き込まれたかの様に伝えるためではない。
「要約すると、腹を空かせて困ってるユウカとメロディを助ける為に偶然出会ったマグマも連れて食事し、ユウカが寝てしまったから部屋に連れてきたと」
「そ、そうなのであります!」
誘拐の話とか暴れ馬の話とかを、多少省いた事にも深い意味は無いったら無いのだ。
「つまり、大した問題は起こらなかったと。
お前は言い付け通り危ない事はしなかったと。
そう言いたい訳だな?」
「そ、そうであります」
クラウスは「ふ~ん……」と腕を組むと、私の決定的なミスを指摘してくる。
「……なら、その頬に付いてる血はなんだ」
「ギクッ!」
しまった。着替えた事ですっかり安心していたが、そう言えばあれから顔も洗ってない。
「見たところ、お前の怪我じゃなさそうだが……今までの話の中に、他人の血が付く様な事があったか?」
「…………はな――」
「まさか自分の鼻血だなんて言わないよな?」
不味い。私が「ギクッ!」とか言っちゃったせいで、クラウスは何かしら確信をもって問い詰めにきてる。
しかも、話を始める前にクラウスが「兄妹水入らずで話がしたい」なんて言い出したから、他の人は今は下の階で待っている。
つまり、ここには私に助け舟を出してくれる様な人は誰もいない。
そんな時、ガチャリと扉が開く音がする。
「……あれ?アカリの相方兼、兄の――」
「これはこれは……アカリ達と一緒に食事をしただけのマグマじゃないか」
丁度クラウスに隠れて扉は見えないが、どうやらマグマがトイレから帰ってきたらしい。
助けを求める為に、私は身を乗り出してマグマに話しかける。
「マグマ!丁度良いところ帰って――あっ」
そして、私はまた忘れいた。
マグマがまだ血塗れのままだと言うことを……
「さて、マグマ。今日何があったのか、じっくり聞かせてもらおうじゃないか」
「え?お、おう……」
マグマの口から真実が語られていくのを、私はただ見ている事しか出来なかった。
――――――
「何考えてるんだ、お前は!!!」
先程までとは打って変わって、感情的に怒鳴るクラウス。
「危ないどころか、本気で死にかけてんじゃねぇか!」
クラウスの想像よりも余程危険な事をしていた様で、物凄く怒られる。
「自分一人守れないで、他人を助けようだなんて考えるな!」
クラウスの言ってる事は尤もだ。
未来の誰かを救う為には、今の自分を守らなきゃいけない。
自分を犠牲に誰かを助ける事は、愚か者のする事だと誰かが言っていた。
「ごめんなさい……」
クラウスの言い付けを破った事、それを軽視して隠そうとした事。それに、クラウスがこんなに感情的になるほど心配をかけてしまった事への謝罪だ。
私が謝った事で、クラウスも落ち着きを取り戻し、お説教も締めに入ろうとする。
「わかったんなら、今後は――」
だが、私の伝えるべき事はまだある。
「でも、もしまた同じ事が起こっても、私は迷わず同じ選択をするよ」
私は、目の前で助けを求めてる人を、ただ見ているだけの人ではありたくない。
それが例え、どんなに愚かだと言われようとも、例えクラウスに諦められ見捨てられる事になったとしても。
私の言葉にクラウスは何かを言いかけたが、私の意思を込めた瞳を見て、その言葉は溜め息にして流す。
「はぁ……今回の事は、お前がここまで馬鹿だと思わなかった俺のミスでもある」
「お互い様だね!」
何故かデコピンをされた。割りと痛い。
「……お前が、もし同じ事が起きても同じ事をすると言うなら、もし同じ事が起きても死なない様に、俺が明日から鍛え直してやる。
辛くても怪我しても文句は言うなよ」
ぶっきらぼうに言い放つクラウス。
私の意思を尊重してくれたその言葉は何よりも嬉しかった。
「ありがとう!けど文句は言うかも!」
「いや、それは我慢しろよ」
次回から偶数日更新(ほぼ隔日更新のまま)にしようと思います。
つまり次回は一月二日です。
ペースは落ちても失踪だけはしないつもりなので、来年もよろしくお願いします。