説明は端折らない
なんとか大混乱の場を収め、ユウカちゃんが気絶した後から今までに起こった事を説明し終えた。
「そ、そんなに大変な事が……」
ユウカちゃんはマグマのシャツを捲り、全く跡のない傷口だった場所をペタペタ触って確認している。
喫茶店での一件でマグマに怯えちゃったかと思っていたが、そんな事はなさそうだ。
まぁ、気絶してて知らないとは言え二度も助けられた訳だし、怖いよりも優しい奴って印象の方が強まったのだろう。
「成る程。ありがとなメロディ、助かったぜ」
「はぁ……なんで言っちゃうのかしら……」
二人に説明してる流れで、ついうっかりマグマを治したのがメロディだと言ってしまったのだ。
頭を抑えて溜め息を吐くメロディの姿は、なんとなくクラウスに似ていた。
「それにしても、まさかメロディが治癒魔法を使えるなんてな」
マグマが随分と感心しているし、きっと珍しい魔法なんだろう。
「改めて三人とも、私がこの魔法を使える事は秘密よ。
……でないと、私は此処に居られなくなるの」
そう言ってメロディは悲しげに俯く。
恩返しに来た鶴なのか、はたまた絶望の未来から過去を変える為にやってきたヒーローか。
理由はわからないが、メロディの為にもこの秘密はもう絶対にバラさない。
そんな決意を込めて、私達は返事をする。
「わ、わかりました!」
「当然だ」
「明ちゃんにお任せだよ!」
「あんたが一番心配なのよ……」
話が一段落するとマグマはおもむろに立ち上がり、部屋から出ていこうとする。
「駄目だよ、まだ寝てなきゃ」
怪我を治しても、減った体力が戻る訳じゃない。
安静にしてるべき、とベッドに戻そうと引っ張るが――
「……便所だ。
起きてからずっと行きたかったのに、話長いからよ」
「ああ、いってらっしゃい」
それは悪いことをした。
説明は端折らず正確にと思ったのだが、裏目に出てしまった様だ。
――――――
マグマが出ていってから直ぐに、部屋にノックの音が響く。
まだ一分も経ってないのに男子のトイレは早いものだ。
「おかえり、早かっ――」
何も考えずに扉を開けた私の前に現れたのは、マグマではない別人だった。
「お前がアカリか?」
そう問い掛けてきたのは、なんとなく見覚えのある茶髪の男性。
紋章付きの鎧を着てる事から見るに、領兵だとは思うのだがイマイチ思い出せない。
確実に見覚えがあるのに、思い出せないむず痒さたるや。
「領主様からの呼び出しだ。直ぐに領主館まで同行を願おう」
目の前の人物は何か言ってるが、魚の小骨が喉に引っ掛かった様な微妙に不快な感覚をどうにかする方が先だ
(う~ん。どっかで会ったと思うんだけどなぁ……)
「……おい、聞いているのか!」
私が話を聞かない事にイライラしたのか、男が剣の柄に手を掛ける。
その動作で思い出した。
「あ、いつもソプラ様と一緒に居る人だ!」
「ああ、その通りだ。名をセバスチャンと言う」
なんともまぁ執事っぽい名前だ事で。
騎士にしておくのが勿体ない気さえする。
だが、そのソプラ様の騎士が居ると言う事は――
「え、ソプラ様も来てるの?」
「来てる訳がないだろう。私一人だ。
寧ろお前が今からソプラ様も居る領主館に行くんだ」
「え、そうなの!?」
「先程、言っただろう!」
申し訳ないが、全く聞いていなかった。
元々、領主様に直談判をするつもりだったので、それは願ったり叶ったりなのだが、今は考えなしにホイホイ付いていく訳にも行かない。
「アカリお姉ちゃん、領主様の所に行くんじゃないんですか?」
「行くのは行くんだけど、もうすぐ帰ってくる兄に言い訳を考えないと」
そうなのだ。そろそろ時間的にクラウスが帰ってくる事も考えなければならない。
クラウスが帰ってきた時に、部屋で血塗れの男と女の子二人だけが居たら、それはもう質問攻めコースだろう。
「お、お兄さん怒ると怖いんですか?」
私の説明を聞いてユウカちゃんはアタフタしている。
必死に言い訳を考えてくれてるのだろう。その姿はとても可愛くて微笑ましい。
(さて、私もさっさと考えて、さっさと行かねば。
こんな状況を見られるのが一番まずいからね)
私が腕を組んで考え始めた途端、ドタドタと階段を駆け上がってくる音が聞こえた。
足音で誰かを特定する様な力は私には無いが、今回ばかりは直感が囁く。
(あ、終わったわ……)
「アカリ!」
勢いよく開かれた扉から現れたのは、勿論クラウスであった。