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空気が読めない空気魔法使い  作者: 西獅子氏
第三章 セイヴィア男爵領編
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まだ止まってない

 さぁ、空気魔法使いの本領発揮だ。


『マスク!』


 フォースホースの頭を覆うように空気のフィルターを作る。

 これで臭いの元がフォースホースの鼻に入る事はなくなった。


 だが、これだけじゃ足りない。

 鼻の中に入った匂いの元も全部出しきらなければ意味がない。


『換気!』

 フォースホースの気道にある空気を外の物と取り替える。


 サバイバル時代に作って、久しく使ってなかった魔法だが、名付けのおかげで簡単に発動出来た。


『換気!』『換気!』


 後は『換気』を繰り返し、強制的に深呼吸をさせる。


「落ち着け、落ち着け、落ち着け!」


 もはや落ち着いてないのは私の方だが、これは割りと命懸けの時間との戦い。落ち着いても居られない。


「止まれぇぇ!!」


 私の祈りが通じたのか深呼吸の効果があったのか、私達の方へと走ってくるフォースホースは徐々にスピードを緩め、私の鼻先で大きく息を吐き出すと漸く止まった。


『マスク』のフィルターに残っていた臭い空気を全部私の顔に吹き掛けた事は、この際見逃してやろう。


「ふぃ~」


 一仕事を終えて、私も力が抜けて座り込む。

 緊張が解けた事で気が付いたが、何故か私は汗だくの土塗れだ。

 こんな格好で領主様の所へ行くのは流石に無礼と言う奴だろう。これは一度、宿に帰って着替えるしかあるまい。


「まさか、こんな騒ぎまで収めちまうとは……アカリは凄いな」


 そんな事を言いながら此方に歩いてくるのはマグマだ。

 思いきりフォースホースに踏みつけられてたが、踏まれた脇腹を抑えてる程度で普通に歩けている。

 本当に、どれだけ頑丈なのやら……


「私が凄いのは当然だよ。なんたって誰もが認める天才美少女だからね」


「……まぁ、その、なんだ……うん。本当に凄ぇよ」


 マグマとそんな会話をしていると、馬車の中から誰かが出てくる。


「バンバ!良かった。落ち着いてくれて……」


 そう言ってフォースホースに抱き着いた事から察するに、この馬車の御者さんだろう。

 フォースホースのバンバを一頻(ひとしき)り撫で回した御者さんは、ハッと我に返ると此方に向き直り深々と御辞儀をする。


「この度は、このバンバを宥めて頂いて本当にありがとうございます」


「当然の事をしたまでです!」


 バンバに襲われた人を助けるのも、暴れてるバンバを助けるのも、等しく当然なのだ。

 だって、バンバだって突然強烈な臭いを嗅がされた被害者なのだから。


 しかし、助けたは良いが一つだけ気になる事がある。


「あの、このあとバンバってどうなっちゃうんですか?」


 人間を襲った動物に対しては、場合によっては殺処分などの対応が行われると聞いた事がある。

 それが可愛らしいペットなどではなく、魔物――猛獣より危険な存在なら尚更だ。


 そんな私の不安げな問いかけに、御者さんは安心させる様に笑顔で答える。


「今回は馬が足りなくて急遽使われただけで、この子は馬車の牽引よりも警備が本業なんです。

 流石にもう外には出せませんが、殺処分なんて事にはなりませんよ。

 それもこれも、貴女が死傷者を出さないでくれたお陰です」


 そう言って再び深く御辞儀をされ、少し照れ臭くなってしまう。


「まぁ、それは私だけじゃなくてマグマの活躍もあってこそだしね」


「おうよ!俺の怪我だって只の掠り――痛っ!」


 元気だとアピールする様に力瘤(ちからこぶ)を作ってみせるマグマ。

 だが流石に消耗していた様で、バランスを崩して私の方に倒れてきた。


「ちょっ!」


 マグマの巨体を私が支えられる訳もなく、私はそのまま下敷きになってしまい、早くどいてくれとマグマの体を叩いて知らせる。


「マグマ重い。重いってば!…………マグマ?」


 だが、幾ら叩いても話しかけても反応が無い。


 流石に消耗していて気を失ってしまったのかもしれない。

 助けてもらったし、そっとしておいてあげたい気持ちもあるが、このままじゃ私も苦しいし、何よりマグマの汗が私の服まで染みてきてて正直嫌なのだ。


『サイコ』でそっとマグマを横に下ろすと、まだ解散していなかった野次馬達が再びざわめきだす。


 いったい何かと戸惑っていると、メロディが私を指差して告げる。


「アカリ……それ……」



 私の服に染みていたのは、マグマの()などではなかった。



「……え?」



 私の服は、真っ赤な血に染まっていた。

雑補足

・バンバ

馬車を牽引する馬を指す輓馬ではなく、番犬の馬バージョン的な意味。

ただ、番馬だとまた別の意味があるらしいので漢字表記にする事はない。

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