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空気が読めない空気魔法使い  作者: 西獅子氏
第三章 セイヴィア男爵領編
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消えない傷

「うわぁ!」


「ど、どきなさいよ!」


 人通りが多かった為に多少の混乱は発生したが、逃げられる人は無事に逃げている。



 そう。「逃げられる人は」だ。



「おい、どうしたんだよ」


「お客さん、大丈夫か!?」


 馬が暴れると同時に、あちらこちらで人が気絶したのだ。

 それを起こそうとしてる人、あとは突然の事態に腰を抜かした人。

 理由はどうあれ逃げ遅れた人はまだ沢山居る。

 そして、暴れている馬はそんな人達を踏みつけかねない。


『プロト!』


 壁を作り馬と気絶した人達を遮断する。

 だが馬は一度ぶつかり、其処に壁があるとわかると、前脚を上げ思いきり踏みつけてくる。


「ぐっ、重い……!」


 それは予想以上の威力で、全方向に『プロト』を張りながらじゃ防ぎきれない。

 他の全てを解除し、馬に触れている部分だけに集中する。


「何でこんなに重いの」


 魔物や盗賊と散々戦ってきたのに、まさか馬如きにここまで苦戦するなんて。

 それに混乱して暴れてるだけにしては、やけに真っ直ぐ人に向かってきた気がする。


 不思議に思っていると、メロディが答えを教えてくれる。


「アカリ、あれは特別に飼い慣らされた魔物よ!

 名前はフォースホース。力が強いから気を付けなさい」


 成る程、人に攻撃しようとするのは混乱で思い出した本能か何かか。

 重そうな馬車を一匹で軽々と牽いてるだけの事はある。


 魔物と理解し、その力の強さも肌で感じた今、もう一切の油断はしない。


『プロト!』『サイコ!』


 踏まれそうな人を『プロト』で守り、『サイコ』で安全な所まで飛ばす。

『サイコ』のコントロールにまで力を割く余裕はないから、ほとんど投げ飛ばしてる様なものなのは許してほしい。



 ―――マグマ視点―――


『プロト!』『サイコ!』


 アカリが魔法を使うと、フォースホースの攻撃は阻まれ、倒れてる奴は遠くで見守る野次馬の辺りまで吹き飛んでいく。

 名前も変わっていて詠唱も無い為、どんな原理の魔法かもわからないが、とにかく全ての人をアカリが守っている。


「凄ぇな……」


 その姿は、小さい頃に絵本で読んで憧れた英雄そのもので、思わず見入ってしまう。

 だが、今はそんな場合ではない。


「棒立ちしてないで手伝いなさい!」


 メロディの叱責で漸く目が覚めた俺は直ぐに動き出す。


 ユウカをはじめ、まだ多くの人が気絶し逃げ遅れている。

 そんな人達を安全な場所まで運ぶくらいなら俺にだって出来る。


 アカリにばかり負担はかけさせない。



 ―――明視点―――


 ユウカちゃんも気を失った様で、マグマとメロディが安全な所まで運んでくれた。

 それと同じ様に、他の動けなかった人々も回りの人々が助けて離れていく。


 そんな皆の協力もあって、遂にフォースホースの近くに残ってるのは私だけになった。


 攻撃する標的を失ったフォースホースが此方に向かってくるが、あとは私が逃げ続ければ良いだけだ。

 力はあるがフールウルフと違いスピードは無い為、それくらい余裕だ。


 タイミングを計り、私が『フライ』で逃げようとした瞬間、誰かの叫び声が耳に入る。



「まだ子供が!」



 咄嗟に振り返ると、私の数メートル後ろの物陰で小さい男の子が(うずくま)っている。

 このまま私が避ければ、あの子が襲われるのは間違いない。


『サイコ!』


 私は迷いなくその子を野次馬の方へ飛ばす。かなりの勢いになってしまったが、野次馬達が協力してしっかり受け止めてくれた。


 それを見届けて安心した瞬間、私の背後で何かが振り上げられる気配がした。

 恐らくフォースホースの前脚だろう。

 今から『フライ』を使ったんじゃ間に合わない。


(あ、私、また死ぬんだ……)


 覚えのある死の予兆に、足が(すく)む。

 考えれば方法はまだあるかもしれないが、上手く頭が回らない。



 だが、恐怖に唇を噛み締めた瞬間、突然真横から突き飛ばされる。



(クラウス!?)


 咄嗟にその名前が口から出そうになるが、この場にクラウスが居る訳がない。

 地面を転がり急いで顔を上げると同時に、私を助けた男がフォースホースに踏みつけられる。


「ぐぁ!」


 私を助けてくれたのは、マグマだった。

 幸い、直撃はしてない様だが、あの威力じゃ大怪我をしても不思議じゃない。


『サイコ!』


 考えるよりも早く魔法でマグマを此方に運ぶ。

 標的を失ったフォースホースは直ぐに此方にやってくる。


 マグマの容体もまだ確認していない。

 もし大怪我をしていた場合、悠長にフォースホースの相手をしていたら命に関わる。


 こうなったらフォースホースが此方に来るまでの数秒で、一気に全部解決するしかない。



(『サイコ』で浮かび上がらせる?……いや、あれは上昇気流で持ち上げる魔法。大暴れする馬を制御するには向いてない。

 なら……えっと……もうっ!()()()思考が――そっか!)


 頭が働かずイライラしかけた事で、私の天才的な閃きが炸裂する。


(暴れてる原因はこの()()だ。

 なら、それを取り除けばフォースホースも落ち着いてくれる筈!)


 それさえ分かれば、あとは簡単。



 さぁ、空気魔法使いの本領発揮だ。

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