面は割れてない
「とにかく、誘拐事件の事は私が領兵に連絡しておくので、君達は人気のない所へは行かず、気を付けて帰る様に」
「はーい!」
「それと君は街中で大声を出さない様に」
「はい……」
マグマに念を押して、衛兵さんは去っていった。
やっと落ち着けたマグマは、冷めきったオムライスをかき込みながら告げる。
「モグモグ……まぁ、事件の事は領兵に任せて良いみたいだし、俺達は食べ終わったら帰っ――」
「よし、私が捜査するよ!」
私がそう発言すると、突然マグマが噎せる。
「グッ!……ゴホッゴホッ!
お前、急に変なこと言うなよ!危うく喉に詰まる所だったわ!」
何も変な事はないだろうに。
喉に詰まるのは、よく噛んで食べないからだ。
「マグマを置いていったりはしないから、ゆっくり食べなよ」
「俺も巻き込む前提かよ!
素人が首を突っ込むには危険すぎるだろ」
(うっ……)
確かに大抵の人は「危ないから止めろ」と言うだろう。クラウスに知られたら怒られるのは間違いない。
だが、ここまで首を突っ込んだ事件を放っておく事は出来ない。
それに、クラウスが帰ってくるまでに解決してしまえばバレる事もない筈。だからマグマを早く説得して捜査を始めねば。
「……私とマグマは誘拐を阻止したし、もう十分に恨みを買ってるよ。
それに、ユウカちゃんとメロディが狙われた理由もわからないんだから、放っておいたらまた狙われちゃうかもしれないよ」
「それは確かにそうだが――」
「もうね、さっさと解決しないと私達に平穏はやってこないんだよ」
「成る程……」
私お得意の嘘から出た真面だ。
正直、犯人の顔すら見てないし、私達が狙われる様な事なんて恐らく起こらないだろう。
マグマを巻き込んでしまうのは悪い気もするが、私達はもう誘拐事件の当事者なのだ。一蓮托生ソウルメイトって事で夜露死苦☆
「大丈夫、捜査の基本は頭に叩き込んであるから。
明お姉ちゃんにお任せだよ!」
刑事ドラマや探偵漫画は沢山見てきたのだ。
その辺りの抜かりはない。
「アカリお姉ちゃん……!」
胸を叩いてポーズを決めた私を、ユウカちゃんは目をキラキラさせて見ている。
尊敬の眼差しと言うのは、やはり気持ちのいいものだ。
「さて、マグマは私に付いてくるとして……」
「あ、もう本当に決定事項なんだな」
「二人はどうする?
お家に帰りたければ送っていくよ?」
嫌がる年下を無理やり連れ回す趣味は私にはない。
二人の希望次第では捜査の前に送り届け様と思ったのだが――
「あの、今日はパパもママも帰りが遅いので……一緒に居ても良いですか?」
潤んだ瞳でお願いしてくるユウカちゃん。
彼女を安心させる為にも早く事件を解決せねば。
「私も付いて行くわ。
……アカリと言ったかしら?貴女と居ると面白いもの」
「面白いって……」
さっきまで拐われそうだったのに、メロディはそんな事を言ってのける。
落ち着いてるのは良いけれど、流石に危機感が無さすぎて心配だ。これは私が付いてあげないと駄目だ。
「それじゃ、出発だよ!」
かくして会計を済ませた私達は、捜査の為に街へと繰り出したのであった。
「特製オムライス四人前で、四千八百Mになります」
「いや、高っ!」
――――――
アカリ達を陰から見ている男が三人。
「あれが例の邪魔者か?」
三人の内、二人は件の誘拐犯だが、この男は違う。
誘拐犯達が連れてきた助っ人だ。
「ああ、顔を見られた可能性がある」
アカリ達はローブに隠された誘拐犯の顔は見ていない。
だが、誘拐犯達はそれを知らないのだ。
「男の方は新人潰しのマグマだ。弱いと噂だし、実際に俺の一発で軽くのしてやったぜ」
「だが、女の方の正体は不明だ。
使う魔法も奇怪で訳がわからない」
助っ人に事情を説明する誘拐犯達。
アカリと言う未知への警戒を促すが、助っ人の男は首を横に振る。
「いいや、俺はあの女を知っている」
真の危険に晒されている事を、明達は知らなかった……