嘘じゃないんです!
「君、ちょっといいかな?」
お馴染みの青い制服を着たお巡りさんに肩を捕まれたマグマは、お巡りさんの制服に負けないくらい真っ青な顔だ。
「いえ、あの、これは違くて、俺は――」
「小さい女の子を怒鳴りつけて泣かせて、何が違うって言うのかな?」
「うっ……」
お巡りさん特有の、論理的で冷徹な返し。これにはマグマも思わず黙り込む。
だがしかし、ここで会話を終わらせてしまえば、不審者として投獄バッドエンド一直線だ。
それがわかっているマグマも必死に言葉を紡ぐ。
「俺は此奴らに試しに怒ってみろって言われたから、実演しただけで――」
「そんな変な会話をしたと?」
事実を全く信じてもらえないマグマは、流石に可哀想だ。
いったい誰のせいでこんな事に…………って私達か。
マグマを助けるには私達の誰かが、会話に割って入るしかなさそうだ。
だが、ユウカちゃんはまだ涙が止まってないし、メロディは我関せずとオムライスを食べ続けている。
仕方ない。こうなったら私が助けてあげる他あるまい。
「第一、なぜ君は三人もの女の子を連れているんだい?」
よし。これを私が代わりに答えてあげよう。
「はい!彼とはですね、さっき偶然出会いまして……」
「偶然出会って食事……ナンパか?」
「違う違う!紛らわしい言い方するなよ!」
マグマも慌てて否定するもんだから、真実を言われて焦ってる人みたいじゃないか。
仕方ない。もう少し助けてあげるか。
「そうですね。ナンパじゃなくて、彼女のお腹が――」
――鳴ったから食事に来た。それが事実だ。
だが、これを言ってしまってはユウカちゃんを辱しめる事になるのではないか。
マグマを助けるためとは言え、ユウカちゃんを傷つけるのは良くない。
(よし、その辺は伏せて説明しよう)
そう決めた私は言葉を紡ぎ直す。
「――紆余曲折あってご飯に……あ、彼女達は断ろうとしたんですけど、彼の奢りだからと言う事でご飯を食べる事になりました」
「やっぱりナンパじゃないか!」
「どうしたらそこまで紛らわしい言い回しになるんだよ!」
紆余曲折ありすぎて、上手い説明がなかなか難しい。
お巡りさんの勘違いが加速したせいで、マグマなんてもう半泣きだ。
「こいつらを助けただけで、俺は――」
そうだ。この話の始まりは誘拐事件なのだ。
マグマはそれを助けてくれただけだと言うのに、こんな勘違いをされては可哀相じゃないか。
それもこれも悪いのは全部――
「誘拐犯なんですよ!」
「誘拐犯!?」
「違うわぁぁぁ!」
マグマの悲痛な叫びが通り中に木霊した。
――――――
「成る程、誘拐犯から助けただけと……」
「この説明をするのだけに何十分かけたんだよ……」
マグマはすっかり疲れきっている。それもこれも全部、誘拐犯が悪いのだ。
だが、せっかくお巡りさんが来てくれたのだ。
ついでに誘拐事件について報告して、捜査してもらおう。
「そう、だから捜査の方、お願いします!」
ビシッと敬礼も決めて完璧だと思ったのだが、お巡りさんの反応は芳しくない。
「悪いね。我々には捜査権は無いんだ」
お巡りさんが捜査しないなら、いったい誰が犯人を捕まえると言うのか。
その答えは、私達が話してる間にオムライスを食べ終わっていたメロディが教えてくれる。
「領内で起きた事件は基本的に領兵が捜査する。
そんなの常識中の常識よ」
「じゃあ、このお巡りさんは誰なの?」
「衛兵に決まってるでしょ」
メロディ先生の講義によると、お巡りさん達――衛兵と、領兵とは全く別の存在らしい。
衛兵は日本のお巡りさんとよく似た制服を着てる人達。
王国が雇って各領地に派遣していて、貴族や国際的な犯罪者を取り締まるらしい。だが、そんな事件が頻繁に起きる訳もなく、暇な普段はパトロールをしている様だ。
領兵はその領の紋章が描かれた鎧を着ている人達。
その土地の領主が雇っている人で、領地の警護や領内で起こった事件の捜査を行うらしい。門番さんやソプラ様の横にいつも居た人がそうなのだろう。
「えぇ~そんな警官みたいな格好してるのに捜査も出来ないの~」
「うぐっ……良いかい君、目に見える活躍が少ないからって我々衛兵は仕事をしてない訳じゃないんだ。
管轄外の犯罪でも現行犯なら捕まえられるし、それに領内に衛兵が居る事で貴族が圧政を敷く事も――」
勿論、衛兵には衛兵にしか出来ない仕事があるのだろう。それは私もわかる。
だが、せっかく警察の格好をしてるならば、私が大好きな相方の主人公達の様に、後で偉い人に怒られる事になっても市民の為に頑張るくらいの姿勢でいてほしいのだ。
だけど、そんな人は現実には滅多に居ないからこそドラマとして成り立って居るのだろう。
(仕方ない。こうなったら主人公属性の明ちゃんが直々に捜査に当たるとしますか)
私はオムライスの最後の一口を頬張り、そんな決意を固めた。