意味が無い事
我々と同じ地球ではないです。
「では、この魔導具達を片っ端から使ってみろ」
そう言ってクラウスは大量の物を並べる。
掃除機、シャワーヘッド、扇風機、マイク等々……
こんな大量に何処にしまってあったんだ。
「お、多くない?」
結構広いリビングだったが、今は足の踏み場もない。
「軽く発動させた時の疲労感を調べるだけだ。すぐに終わる」
軽くとはいえ量が量なので、かなり憂鬱だ。
とは言え、見ていても終わらないので、さっさと始めるぞい!
――――――
「これは、ちょっと疲れる。これは……そんなでもない」
ほとんど試し終わり、少しずつとはいえ疲労が溜まってきた。
この世界にMPなんて物は無いらしいので「魔法使いすぎて疲れたらどうするの?」と聞いてみた。
そしたら「脳を働かせたんだから糖分だ」と言って普通の飴を渡された。
飴は美味しいが、即時回復なんてしてくれないので気休めだ。
もっとも、即時回復のマジックポーションなんかが存在したら、仕事量が倍どころの騒ぎではなくなりそうだが。
遂に最後の一個を手渡される。紙が張ってないポイみたいな物だ。
最早何に使う物かすらわからないが、とにかく発動するしかない。
持ち手に魔力を込めると、円の内側から風がくる。
成る程、小型の扇風機の一種か。羽が無いなんて流石ファンタジー。
「……あ、これが一番楽!」
私の喜び様を見て、クラウスがニヤリと口角を上げる。
こいつの事だ。喜ぶ明ちゃんの可愛さを堪能してるとかではない。
何か発見したか……いや、多分今回は予想が当たったんだろう。
「やはり、予想通りか」
クラウスの言葉が予想通りだよ。
「で、何が予想通りで私は何をやらされてたの?」
私が溜め息混じりに尋ねると「よくぞ聞いてくれた!」と言わんばかりに話始めるクラウス。
「今行っていたのは女神の加護による効果の検証だ」
「検証って、女神様の加護は魔力がめっちゃ凄くなるってわかってるんじゃないの?」
「いや、そう考えられていたが、お前を見てある一つの仮説に辿り着いた。
女神の加護は《適性がある魔法への魔力のみを強化してる》という説だ」
ん?適性のある魔法のみって、元々適性のある魔法しか使えないんだから一緒なのでは?
「……今ので伝わらないのか。
お前、魔導具は何の為にあるかわかってるか?」
ふむ。何も考えずに使っていたが、何でだろう?
魔導具は作った人の魔法が込められてる、みたいな話を以前クラウスに聞いたし、名付けみたいな感じかな?
「えー……名付けみたいに魔法を楽に発動できる様にする為?」
クラウスの表情を見ると、渋い顔をしている。
正解ではないらしい。
「……それもあるが、今言いたいのは適性の無い魔法が込められた物も、魔力を込めれば誰でも扱えるという事だ。
そして、お前に最後に渡したのは空気魔法が刻まれた魔導具だ。
つまり空気魔法以外が刻まれた魔導具を扱う時、お前は女神の加護が発動せず、人並みの疲労感を味わうという事だ」
成る程成る程。
……え?それだけ?
「それを発見したのはわかったけど、それが何になるの?」
「何ってお前、発見した事自体が素晴らしいんだろうが」
わからん。
それが何だと言うのだ。
私はそんな事の為に眠い中で疲れながら頑張ったの?
「まぁ、そんな顔をするな。この発見を早速役立てる事も出来る」
「な~んだ、先に言ってよ。ただの徒労かと思ったじゃん」
安心した。約束なので研究に協力はするが、意味が無いことだと気持ち的に嫌すぎるからね。
「さっきまで使ってもらった魔導具のほとんどは、俺と死んだ先代所長の爺さんが作った物なんだ。仕組みは全部わかってる。
二人とも空気魔法なんて使えなかったからな、エアコンの魔導具も俺の熱魔法と空間魔法の組み合わせで作ってる」
エアコンは空気魔法じゃなかったのか。
だから私が魔法使うよりも疲れたんだな。
「普通、魔法を使ってる所を見ただけじゃ、その種類まではわからない。
それは魔導具も同じだ」
あれ?クラウスは私の空気魔法は一発で見抜いてなかったっけ。
あれは何かが普通じゃなかったのかな?
「そして、お前は空気魔法の魔導具だけは「一番楽!」とはっきり答えられる便利な加護を持っている」
待って、なんか嫌な予感してきた。
女神様の神聖な加護を、便利とか言ってるんですけどこの人。
ふと、見回してみれば先程使った魔導具達が一つも残っていない。
そう、先程使った魔導具は一つも残っていないのに、先程よりも散らかっていて足の踏み場は全く無い。
「あの~クラウスさんや。
魔導具が散らかってるし、そろそろ片付けを……」
「使い終わったらきちんと片付けるさ。
この込められた魔法がわからない魔導具をな」
クラウスがニヤリと笑う。
本日二度目の、悪魔の囁きだ。
「さぁ空気魔法判定機君、第二ラウンドといこうか」
その日は疲れてぐっすり眠った。