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空気が読めない空気魔法使い  作者: 西獅子氏
第一章 龍の領域編
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予兆のない死

温かい目で見てやって下さい

 夏の夕暮れ。汗ばむのも気にせず道端で口論する、制服姿の学生が三人。

 実に元気なことだ。これを青春と呼ぶのだろう。


 ……まぁ、私もその三人の内の一人なんだけど。




「貴方が浮気するから!」


 そうヒステリック気味に叫ぶ黒髪ロングの女の子は立島さん。

 そんな彼女と私は先程会ったばかりの初対面。なのに何故名前を知ってるのかって?

 それは勿論、彼女のシャツの歪んだボーダー(よこしま)を見て(よこしま)な気持ちになった私が「よこしま……」と呟いたら「立島(たてしま)よ!」と返されたからである。

 胸は大きければ良いという物ではない、全く。


「いや、誤解だよ!」


 そんな浮気者しか言わなそうな台詞を言う男は、七海理(ななみおさむ)。私の幼なじみだ。

 人付き合いは得意で、地味だけど顔も悪くない。誰にでも優しく、多少モテる。オタクの理想系(僕が考えた最強の僕)みたいな存在である。

 別の高校に通いだして、はや数ヵ月。まさか本物の浮気野郎として覚醒してるとは……


「いや、こいつは前科があるんで。確実に浮気してますぜ姉貴」


 ついついそんな下っ端口調が出てしまう茶目っ気溢れる女子高生。それこそ私、天才美少女の日野明(ひのあかり)ちゃんである。

 人一倍の正義感を活かして、今日も今日とて偶然見かけた痴話喧嘩を仲裁しに来たら、男の方が幼なじみで驚きだ。

 ここで私の自己紹介を長々と語りたい所ではあるが、飽きられたらそこで試合終了である。

 生きていれば語る機会は幾らでもあるのだ。また後日にでも聞いて頂こう。


「誤解を深める様な事を言うなよ、明!それふたりティ(アニメ)の推しの話だろ!」


「いーや。プリティホワイト派だと言ったのに、二期になった途端ブラック派だと翻す。これを浮気と言わず何と言う」


「だとしても!だとしても、それは今言うべき事ではない!」


 往生際の悪い奴め。

 私も普段なら穏便に事を進めてる所だが、幼なじみが道を違えたなら正してやらねばなるまい。

 決して、ホワイト派の同志だったのに裏切った事を、根に持っている訳ではない。


「それに浮気もなにも、僕はそもそも立島さんとは付き合ってない!」


「ひどい!私とは遊びだったって言うの!?」


 理のあんまりな言い分に、涙を流してしまう立島さん。

 幼なじみよ、お前がここまで墜ちているとは思わなかったぜ……


蛞蝓(なめくじ)を見る様な目で僕を見るな!」


「悪いが私は罪人と交わせる言葉は持っていない。」


「違うってば!そもそも立島さんと会うのは、今日が二度目だよ!」


 ん?二度目ましてで彼女みたいな事を言っている……?

 あれ?もしかして、罪人は理の方じゃない?


「た、立島さん?理殿がこうおっしゃておりますが……?」


 予想外の事態に口調がおかしくなる私。

 ……いや、最初の台詞から口調おかしかったわ。いつも通りかもしれない。


「真実の愛を前にして、語り合いの回数なんて些細な事よ」


「いや、一回お財布拾ってあげた事以外の接点無いよね!?」


「愛が芽生えるには、それで充分よ」


 あ、これダメだ。

 そもそも関わっちゃいけないタイプの人だ。


 溢れ出る冷や汗を抑えつつ、何とか言葉を紡ぐ。


「ちょ、ちょっと理君、私喉が渇いたわ。近くの交番でお茶しませんこと?」


「なんでお嬢様口調なのさ。まぁ、確かに道端で話すのも迷惑になるし、少し場所を変えようか」


 私の口調なんて気にしてる場合ではないだろうに。


 ツッコミに集中しすぎている為、こんな状況でも異常に落ち着いてる幼なじみの手を引っ張って移動する。


 この時、私ももう少し落ち着いていれば、こんな致命的な失敗をしなかったのかもしれない。

 そう。私は立島さん(ストーカー)の前で、



 ()()()()()()()()形になってしまった。



「あら、貴女が浮気相手だったのね」


 そんな悪魔の呟きが耳元で聞こえた。

 振り返る間もなく、勢いよく背中を押される私。

 顔から転んでアスファルトとキスを交わす。


「うぇべし!」


「明!!!」


 少し恥ずかしい声が出てしまったが、押されただけで良かった。

 幼なじみが大袈裟に叫んで駆け寄ってくる。余りに大声なもんだから近所からも人が続々と出てくる。

 押された背中の辺りが結構熱い。近所の人に言って保冷剤わけてもらいたい。


(理くんや。私が押されたくらいで、そう慌てなさんなや)


 そう言って何事もなく立ち上が……れない。

 あれ?声も出てない?


「―――!」


 幼なじみが何か言っている。

 何故聞き取れないんだろう?



 これじゃあ、まるで……



 私が思ったことを肯定する様に、赤い液体が流れて来る。

 それを認識するのを待っていたかの様に、どんどん体から体温が失われていく。


(ああ。私、死ぬんだ)


 そう理解した途端に色々な思いが溢れてくる。


 最後の言葉が「うぇべし!」かぁ。こんなことなら「南無三!」とか言っておけば良かった。


 幼なじみが目の前で死んだら、トラウマになるだろうなぁ。理に悪いことしちゃったなぁ。


 長々と自己紹介するんだった。今から回想で小中学生編を始めても良いかな?


 登場してないお父さんお母さん、先立つ不孝をお許し下さい。



(あ、明日ふたりティの最終回だ。見たかったなぁ。)



 私の意識は深く沈んでいった……

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