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拾漆:真相―王氏の独白

「王礼部長官。國維は自白してもうたが、お主はどうだ?」


 獲物を捕らえる目つきで徳帝が王氏を見下ろす。中和殿内に居る全ての人間が、王氏の言葉を待った。


「……どこまでも私の邪魔をするのですね、孫太子太傅(たいしたいふ)は」


 王氏が力なく項垂れた。

一瞬、罪を認めたことに対して殿中が騒がしくなったが、王氏が口を開くと途端に静まり返った。


「ええ。李太子中庶子(たいしちゅうしょし)も孫太子太傅らの殺害も、全て私が企てました」


 これ以上、どう弁解しようとしても無駄だと、王氏は思った。実際、楊武と央晧の方が上手だったのはよく理解している。

 孫師父の弟子、彼らと自分はあまりに違う世界を生きていると実感した。


「遊説の食客が殿下の教育係である太子太傅に選ばれたことも、国史編纂の命を受けたのも、何もかも、疎ましかった」


 緩んだ髷からほどけた髪が痛ましげに揺れる。ぽつり、ぽつりと王氏は独白を始めた。


「学問を司る礼部の長でありながら、後ろ盾もない男に全てを掻っ攫われた……。屈辱でしかなかったよ」


 一族で初めて礼部の長官に選ばれたと言うのに、徳帝からの信頼は一向に傾くことはなかった。それを一族はたしなめてくる。自分たちのことを棚に上げて。


「だから国史編纂に携わっていた一番弟子に声をかけ、情報を聞きだそうとした」

「一の師兄に、ですか?」


 楊武が口をはさむ。国史編纂には一の師兄と楊武が関わっていたため、聞き逃すことはできなかった。


「ああ」

「あの人がそう軽々と口を割るなど……」

「その通り。買収したつもりが逆に虚を掴まされた」


 続けて楊武が問いかける。


「では『前寛抹殺論』についても?」

「ああ。従者に一番弟子の動向を探らせた時に知った。彼に直談判したところ、拒絶された。今思えば当然だろう。それに逆上したんだよ、私は」

「……それで、火を?」


 静かな声で央晧が問いかける。

 自嘲する王氏が顔を上げると、遠い過去を見つめ返しているようであった。


「ええ。騙されたとわかった翌日、早朝の儀で孫太子太傅が自身の宴を弟子がしてくれると嬉しそうにしていた。それがまた、どうしようもなく妬ましかった」


 高官の子として生まれ、相応に育てられた自分と、何が違っていたのか。求めていたものを全て奪われ、哀れんだ目で見てくる部下へ作り笑いをする日々に嫌気がさしていた。


「そして自分にようやく全てが回ってくると思った矢先、李殿が入れ替わりでやってきた」


 楊武に目を向け、気まぐれで選ばれたであろう若者が、偶然竹簡の発見をしただけではないかと鼻で笑っていた頃を思い返す。


「若造が、宮中のことも知らずに思い上がっただけでなく反発しおってと見下していたはずが……」


 王氏の力のない視線を、楊武は決して逸らすことなく老臣を見つめ返した。

 その姿は凛々しく、人前であたふたとしていた男と同一には思えなかった。


「完璧にしてやられたよ」


 瞼を伏せた王氏は思う。「これは、覚悟の差であったのだ」と。

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