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拾伍:真相―壱

 楊武の言葉に静まり返っていた場が騒がしくなる。


「孫師父だと……?」


 王氏だけでなく、徳帝や董鶚も目を丸くしていた。央晧の隣に並んだ楊武は服装が全く同じうえに、背丈もほぼ変わらない。唯一異なると言えば髪の長さぐらいだろうか。


「はい。楊一族の四男にして、そこに居る兵部・職方司、楊毅の弟にあたります」


 楊武がゆったりとした動きで一礼すると、楊武だけでなく楊毅にも注目が集まる。

 楊毅は視線を気にすることなく、相変わらず胸を張って立っていた。


「長話になりそうですので、場所を移しませんか?」


 そろそろ日も落ちますので。央晧が言うと、我に返った徳帝が場所を用意するよう従者に命じた。

 みな、平静な行動をとっているように見えるが、内心は李梓の正体について未だ受け入れられずにいた。



 場所を中和殿へと移し、非公式ながらも王氏と國維の糾弾が始まった。

 央晧と楊武以外にも、その場を取り仕切った楊毅、董鶚、そして数名の衛士らも同席していた。


「まずはわたくし共からお伝えいたします」


 宝座に座り、徳帝が南面する。

 対面している楊毅と董鶚が、何故自分たちが後宮で衛士を取りまとめていたかを話し始めた。


「先日、兵部宛にある嘆願書が届きました」


 董鶚が言うと、衛士の一人が董鶚に嘆願書を手渡した。


「内容は後宮内の衛士の配置変更でしたので、おそらく別の書類に紛れて兵部に届いたものと思われます」

「ですが、その内容に気になる点がございました」


 間髪を入れずに楊毅が董鶚に続く。

 嘆願書を董鶚から受取り、徳帝の従者へと差し出した。


「東六宮を含む東側に配置された衛士全員の交代を希望される嘆願書です。これは部署を通さずに國維殿の単独で嘆願されておりました」


 従者が手渡すと、徳帝が目を通す。項垂れた國維は顔を上げることすらままならなかった。


「確かに、この規模であれば理由を添える必要もあるだろうな」

「はい。正規に申請をするのであれば、礼部を通して王長官の名前で提出されるべき規模の嘆願かと思われます」


 徳帝は楊毅の言葉に頷く。

 緊迫した殿中に呼吸がままならない。逸る気持ちを抑え、楊毅は大きく息を吐きだした。


「おそらく知り合いの衛士へ通し、交代させる予定だったのでしょうが、偶然にも兵部に届いていたため、こちらで一度、殿下に連絡をさせていただきました」

「何故、央晧に取り次いだ?」

「それは本宮主宰の読書会の件があったからですよ」


 徳帝の左側で西面して座る央晧が口を開いた。


「あの時、李師父(しふ)を閉じ込めたのも國殿です」


 弾かれたように國維が顔を上げる。


「……!」


 断定して話す央晧と目が合ったが、國維は色の見えない瞳を見つめ返すことが出来ず、また項垂れた。


「ですよね? 董庫部司殿?」


 董鶚は央晧に声をかけられて虚を付かれたが、すぐに証言を述べる。


「は、はい。あの日は鍵の貸し出し予定はありませんでしたが、鍵が一つ足りず探しておりました。その後、夕暮れになって國維殿が返却に来られまして……」


 懐から一枚の書面を取り出し、またしても従者に手渡した。


「その際に書いていただいた貸出証です」


 本来、貸出証は貸す際に書くものであるが、事後報告となった旨も記されていた。


「彼らはこの時、既に王氏と國殿のことを察していました。故に今回の件、本宮のところへいち早く伝えてくださったんです」

「なるほどな」

「衛士を総替えするとなると、何か大きな事件になりかねないと言うことで、みなには引き止められましたが、身丈が似ている本宮が成り代わったのですが……。まさか殺されそうになるとは思いもしませんでした」


 央晧が困った風に眉を寄せて笑う。その姿は身震いがするほど様になっていた。


「……で、殿下」


 王氏が掠れた声で央晧を呼ぶも、央晧はにこりと微笑むのみ。


「ちなみに先ほど引き連れて来た衛士は、王氏と繋がりのない禁軍より人選しております」


 王氏と國維が顔を強張らせているのを横目に、楊毅は淡々と衛士らの報告を行う。徳帝は即座に心当たりのある人物の名前を挙げた。


「楊勝か」

「はい。父上に掛け合い、信用のおける衛士だけを集めていただきました」

「あやつが何名か衛士を貸せと言っていたのかこのことか。流石だな、楊一族! 軍警に関われば何処にでも居るわ」


 細かな装飾が施された肘置きへ拳をぶつけると、徳帝はその場にそぐわぬ笑い声をあげた。


 楊武と楊毅の父である楊勝は禁軍に属しており、その中でも皇帝の私的軍備である北衙禁軍(ほくがきんぐん)を取りまとめていた。先ほどの捕り物には、楊勝が選んだ皇帝直属の衛士が配置されていたので、当然、王氏の通謀者など居るはずがない。


「父上にはまだ楊武のことは説明しておりませんので、後日お伝えしておきます」

「早急にな。仏頂面だが、息子が生きていたと知れば少しは眉間の皺が消えるだろうよ」


 徳帝が自分のことのように声を弾ませると、楊毅は「ありがたく」と深く頭を下げた。

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