拾参:後宮での噂
楊毅と董鶚が兵部長官から所用を頼まれた帰り道、後宮に繋がる乾清門近くで宮女たちが集まっているのを見かけた。
「やっぱ女は華があるな」
横を通り過ぎる際、董鶚がぴゅうと口笛を吹く。
その隣を歩く楊毅が立ち止まった。普段目もくれやしないのに、と不思議に思った董鶚は、宮女たちと楊毅を交互に見やる。特定の誰かに見惚れている様子ではなさそうだ。
「ねえ、李梓様のお話聞いた?」
「聞いた聞いた! 公主様から李様に口付けしたって話でしょ!」
「それそれ!」
他人の色恋になると女は楽しげに話すなあ、と董鶚は若干呆れていた。
楊毅を横目で見ると、彼女たちの会話で何やら思い悩んでいるようであった。
「この前発表された研究も、陛下が大層お喜びだったんだって!」
「青銅器の話でしょ? 難しくてよくわからないけど大発見らしいね」
全てまた聞きの噂であるが、馬付馬候補に選ばれてから、後宮でも楊武への関心が高まっているのがよくわかる。
「公主様が自宮に入れたのも李様だけなんだって!」
「じゃあやっぱり李梓様が馬付馬になられるのかなあ?」
「でもまだ官職に就かれて間もないでしょう? 大丈夫なのかしら?」
ある宮女が頬に人差し指を添えて首をかしげた。
「武器庫に閉じ込められたって話あったじゃない? あれって要はやっかみってことでしょ?」
宮女が言うと、他の宮女たちもすぐに頷いた。男も女も集団になれば同じようなもんか、と董鶚は苦笑する。
「お若いし、日も浅いしってなると確かにねえ」
「でも殿下が市井から引き抜かれた以外は実力でしょう?」
「……それ、後宮でも同じこと言える?」
確かに、と宮女たちは遠い目をしていた。
「ま、どこの世界でも突出しちゃうと大変ってことよね~」
「私は李様と公主様、お似合いだと思ったけどなあ」
「本人たちだけの話じゃないしね、そういうのは」
宮女の一人が給仕に戻ると、口を尖らせていた宮女も、宥めていた宮女もそれぞれ自分の持ち場へと消えていった。
宮女たちが過ぎ去るのを見計らって、董鶚は楊毅に声をかける。
「あん中に知り合いでも居たのか?」
「あ、いや、そういうんじゃなくてだな……」
「じゃあ李梓か?」
直球に問いかける董鶚に、楊毅は顔を逸らした。
図星か、董鶚は冷静に思った。知り合いではないらしいが、武器庫での一件以降、何かしら気にかけているのは董鶚も気付いていた。
一方、親友とも呼べる男に隠し事はしたくないが、何処まで話をしてよいかわからない楊毅は、悩みに悩んでいた。しばらくしてつぐんでいた口を開く。
強い意志のこもった楊毅の瞳に、董鶚もただ事ではないと察した。
「……何も言わずに力を貸してほしい案件がある」
馬付馬…本来は馬へんに付の一文字で「ふ」と読みますが、環境依存文字のため、この通りに記載しております。




