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壱:一難去ってまた一報

 楊武が徳帝から呼び出され、自身の意見を述べてから数か月後。


 第三子を懐妊していた宮女は正式に周貴人(しゅうきじん)として職官を与えられ、自宮を得た。

 そして周貴人が第三子・朱 匡曄(しゅ きょうよう)を出産すると、宮中は毎日がお祭り騒ぎになった。まさにこの数か月間は、匡曄の誕生一色。

 楊武も武器庫の一件以降、変わったことは特になく平穏に過ごしていた。


 連日祝賀が続く中、先日、李梓もとい楊武が約一年半をかけて連載を続けていた『穆天子伝(ぼくてんしでん)』の連載が完結した。

 今日は皇太子・朱 央晧を含む英慶宮の人間のみでささやかな祝賀会が催されていた。


「李殿、本当にお疲れ様でした!」

「毎回俺たちが李殿を起こしたり、寝台に運んだりしていたのも報われますね~」


 郭屯が楊武の盃に自身の盃を交わした。

 その隣の劉巴は嫌みったらしく言うものの、毎回公報の連載を切り抜いて蒐集していたことは楊武も知っている。尤も、劉巴の性格を理解しつつある楊武にとって、この嫌味すら打ち解けてきた証拠だと嬉しく思っていた。


「毎日毎日お騒がせしてすみませんでした……」

「いやいや、李殿のおかげで皇太子府の好感度も、うなぎ上りですから」


 楊武の謝罪にすかさず羅浪が答える。

 彼の言う通り、楊武が皇太子府に所属してからと言うもの、楊武自身が常に話題の中心に居ることが多かった。

 中央政府から独立した部署のため、あまり話題にあがることがなかった皇太子府だが、この数年は頻繁に注目が集まっていた。


「それに……僕たちも李殿の就寝や起床によって、吉日か凶日か、とか勝手に占って楽しんでましたし」


 姫沛が申し訳なさそうに苦笑いを浮かべる。

 楊武が何事もなく寝台で眠っていればその日は吉日、紙が散乱している程度であれば可もなく不可もなく。寝ずに机に向かっている、もしくは床で眠っていた場合は凶日と決め、いつの間にか英慶宮の属官たちの間で、楊武が運試しに使われていたと言う。


 その事実を今更知った楊武は、毎度迷惑をかけていることへ改めて謝罪した。

 付け加えて「『穆天子伝』が終われば、次はゆっくりやるのでちゃんと寝ます」と英慶宮の官人及び央晧に睡眠宣言をした。


「それにしても、意外と良い話で終わってましたね、最終回」


 劉巴は、諦めた笑みと乾いた拍手で楊武の宣言を受け入れ、話題を『穆天子伝』へと移す。隣に居た羅浪も腕を組み、感想を述べた。


「そうっすね。なんだか悲しみも喜びも背負って歩んでいこうぜ、みたいな熱い展開で終わってましたね」

「ですね。様々な地を自身の足で向かい、その地の人々と交流する話でしたし、個人的に締めとして、経験は無駄じゃないよって感じでよかったと思います」


 楊武の言葉に属官たちは各々頷いた。


「道中、西王母(せいおうぼ)に会いに行った時はこの後何処に向かうのか心配でしたが……。なんとか諸国漫遊で終わりましたし」


 西王母とは、古代より信仰されている不老不死の薬を持つと言う神仙である。有名な伝説では崑崙山に住むと言われているが、この物語ではそれより更に西方に国を構えて住んでいるとされていた。


「西王母と崑崙山(こんろんさん)に関しては何とも言えませんが、穆王が巡行した地が現在のどのあたりかは興味がありますね」


 朗らかな笑みを浮かべて郭屯が言うと、「確かにー!」と劉巴が郭屯を指さす。


 楊武が皇太子府に配属される以前は、青銅器の拓本蒐集をしている劉巴以外、際立って嘉国の文化や歴史に興味を持つ者は居なかった。しかし、楊武に同行しているうちに興味がわいたのか、最近は出土資料や『穆天子伝』の話題があがることが多い。

 今も『穆天子伝』と他の地理書を組み合わせ、当時の地図を復元できないかと盛り上がっていた。


 騒がしいのはいつもであるが、今日は祝い事とあって酒が回っているのか、全員いつも以上に饒舌である。

 話のつきない、仲の睦まじい英慶宮の属官たちを、央晧は少し離れたところから見守っていた。



「失礼いたします!」


 門の外から聞こえた固い声に、ぴたりとその場が静まり返った。

 央晧の側近である鄭 博文がすかさず門外へと向かう。応対している声は遠く聞こえないが、劉巴や羅浪と言った野次馬心の強い若者は扉にぴったりとくっついて、耳を澄ませていた。


「李殿に用事があるみたいですね」

「せ、拙ですか?」

「しっ!」


 まさか自分宛とは思わず、素っ頓狂な声をあげた。劉巴に注意され、楊武は条件反射で自身の口を両手で覆うと、劉巴たちと共に外の様子へ耳を傾ける。


 背後では顔勒と班該が苦笑いを浮かべ、郭屯は肩をすくめていた。央晧もまた「はしたないですよ」と小さな声でたしなめたが、真剣に聞き耳を立てている楊武たちには聞こえていなかった。


 話し込んでいた博文は広間に戻ってくるなり、神妙な顔つきで口を開いた。


「李梓殿――、」


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