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捌:翌日、正殿にて

 翌日、朝の謁見後。

 英慶宮の属官たちと楊武は、正殿から英慶宮の道中をいつもように列を成して歩いていた。


「もー、昨日はほんっとうに肝が冷えたんですからね!?」

「お騒がせをしてすみません……」


 劉巴が楊武に言うと、楊武は肩を落とした。

 責めたわけではなかったのだが、思ったより本人も気にしていたらしい。ため息をつく楊武に、劉巴がしまったと顔を顰めた。

 羅浪が劉巴に白い目を向けると、言葉を補った。


「巴は口ではこう言ってますが、医務室に運ばれてから李殿のことめちゃくちゃ心配してたんですよ」

「誰よりも狼狽してましたからね。それに、結果的に言えば李殿も被害者ですし……」


 後ろを歩いていた姫沛もひょっこりと顔を出した。

 楊武が央晧と親密なのは属官たちもよく理解している。誰が見ても今の楊武は、昨日の件に思い悩んでいるのがわかる。

 羅浪と姫沛はどう声をかけるべきか、顔を見合わせていた。


 その時、絶妙な間合いで柱の外から楊武を呼ぶ声が聞こえた。


「お、李殿ではないですか」


 声のする方を見ると、兵部の官人を連れた兵部長官が片手を挙げていた。


「兵部長官殿、昨日はお騒がせしました」


 楊武が頭を下げると、兵部長官は豪快に笑った。


「いや~、お前さん、なかなか肝が据わっててよかったぞ。顔の怪我すら男前にみえるぜ?」

「は、はあ……」

「昨日の件は宮城内みんな知ってるだろうからよ、色々言われるかも知れねえが……。一番気を付けるのはまた同じようなことが起きかねないってことだからな」


 笑みが消え、兵部長官は小声で助言をする。それを聞いた劉巴が一歩前に出た。


「そうっすね。例の紙だって、結局俺ら英慶宮の筆跡ではなかったみたいですし」

「まあ、代筆させることはできるけどな」

「そうやって身内を疑わせるなよ!」


 羅浪が煽ると劉巴がすかさず言い返す。


「大丈夫です! 僕らの中で李殿を失脚させようとする馬鹿は居ないと思います!」

「確かに。少し前の太子を知っていると、ね」


 姫沛と郭屯も兵部長官に詰め寄り、後ろに控える班該と顔勒も頷いた。

 いつの間にか英慶宮の従者が前に出ており、楊武を囲う形となっていた。


 兵部長官は、属官たちが楊武を庇う姿を見て笑いだした。

 政敵だらけの宮中では珍しい、同部署内での助け合いに、根っからの体育会系である兵部長官は心を打たれた。



 昨日の読書会で、各長官たちは李梓の失態を笑い飛ばしたが、あくまで表向きの話である。腹の内ではどんな呪詛(じゅそ)が巻かれていたか定かではない。

 特に長年、陰謀の渦中に居る老臣たちの心中など、想像もできない。


 李梓の立場に詳しくない兵部長官でさえ、昨日の嫌がらせの犯人はあの中に居ると想像がついた。――おそらく、王氏の差し金であることも。

 それでも彼らはあえて動かない。下手に首を突っ込むと自分や部下の立場に関わるからだ。

 そうして策略を巧みに使って生き残った者が、今日の中央政府を担っている。

 武官である兵部長官には、文官たちの足の引っ張り合いが到底理解できなかった。


「いいねえ、皇太子府は仲がいいと見た! 久しぶりにいいもん見せてもらった。なんかあれば兵部も助けるぜ」


 兵部長官が上機嫌な声で「あれも居るしな」と振り返った先に、目を輝かせた楊毅の姿があった。

 連日遭遇する有名人の姿に、英慶宮の属官らは唖然としていた。


「聞いたら昨日初めて会ったんだってな? あいつも心配してたぞ」


 「呼ぶか?」と兵部長官が尋ねたが、楊武は首を横に振る。


「楊職方司殿に、改めて感謝していますとお礼を伝えておいてください」


 兵部長官はおう、と笑った。

 仲の良い皇太子府の面々を見渡すと、「またな」と楊武に告げて満足そうに部下の待つ方へ戻って行った。


 兵部一行が通り過ぎる際、楊毅がこちらに手を振っていたが、楊武は小さく会釈を返して足早に英慶宮へと踵を返した。

 楊武の早歩きに追いついた劉巴が「いつの間に仲良くなったんです!?」と楊武を問い詰め、いつものように劉巴の暴走を羅浪と姫沛らが止める。


 ――いつもの英慶宮の六人と楊武が楽しそうに帰路を歩いていた。


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