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センパイ 勘弁してください!?

作者: オカタヌキ

初投稿、なおかつ季節外れがすぎるネタです。


石間ハジメ16歳、これと言って何の変哲もないスタンダードな男子高校生である。

異世界召喚の経験もなければポンコツ女神に転生させられた経験もなく、中学校の時のトラウマもなければ妙に達観した捻くれた思考もない。卒業アルバムを開いたとき、「ああ、そーいやおったわ、こんなやつ」と、ふと思い出されるような、そんな感じの印象の男だった。


そんな彼は現在、ジャージに身を包み玉のような汗を浮かべて、崩れ行くつり橋の上を全力疾走していた。


「いぃやあああぁぁぁぁぁぁ!!!聞いてた話とちがああああああああああうぅぅ!!!?」







遡ること午前6時、おおむね桜も散った春の日のこと。土曜の朝、ハジメはたまたまこれといった理由もなく朝早くに目が覚めてしまい、持て余した時間の中、着のジャージ着のまま気まぐれに朝の散歩へ繰り出していた。


「あ゛ぁ~~~………ねっむ。散歩これ意味あんのかなぁ?もうちっと有意義な時間の使い道なかったかなぁ~」


寝ぼけまなこを擦りながら、あてもなく早朝の町を徘徊していると、やがて河川敷へと差し掛かった。水面に反射した日光が目に染みる。


「おや、そこ行く君は石間君じゃないか」

「うぇあ?」


唐突にかけられた声に気の抜けた声が出る。振り向くと、そこにはタンクトップタイプのスポーツウェアを着た、いかにもなスポーツ少女が足踏みしながら立っていた。


彼女の名は阿須チヒロ17歳。体育委員会委員長にして学生の身でありながら現役のトライアスロンの選手でもある。その明るく溌溂としたバイタリディ溢れる性格から男女共に人気の高いハジメ憧れの先輩だ。


「ハジメくん、朝の散歩とは健康的じゃないか。感心感心」

「先輩こそ、朝からジョギングなんて流石っすね」

「いやいやぁ、それがちょっと違うんだなぁこれが」

「はい?」


よく見ると、チヒロは背中にリュックサックを背負っており、そこから取っ手のついた棒のようなものが生えていた。


「ぬっふふ~♪」


チヒロは含みのある笑いをして背中からその棒を引き抜く。それは折り畳み式のスコップだった。


「ちょっとばかし、冒険に行こうとね。」




「はぁ、タケノコっすか」

「そおそお、ウチの私有地の山に生えてるんだ~」


チヒロはスコップを揺らしながら説明する。毎年この時期になると、チヒロの家が所有する裏山で自生している竹林のタケノコが旬を迎えるので、これから掘りに向かうのだそうだ。


「あんまり日がたつとアクが強くなっちゃうからね。今が一番おいしいトコなんだ」

「へぇ、そんなところが……」


「何なら、きみも一緒に行くかい?今日は予定もないんだろ?」

「え?い、いやぁ……」


いくらヒマでも朝っぱらから山登りは気が引ける。けれど、ついていけば先輩とお近づきになれるやもしれない。そんな考えが寝起きの頭をめぐる。


「なーに心配するな。私の毎日やってるトレーニングに比べれば楽なもんさ。ちょっとしたハイキングとでも思えばいい」

「はあ……」


「何なら、採れたタケノコをつかって料理をご馳走……

「はい!!行きまっす!!!(先輩の手料理ッッ!!!?)」

「おうっ……それじゃ、きみの分のスコップを取ってこようか」


こうして、青い下心を胸に、ハジメはチヒロのタケノコ刈りに同行することになった。


この時、すっかり浮かれた彼は失念していた。学年は愚か、全国でも屈指の運動神経とバイタリティをもつ現役アスリートである彼女のトレーニングが、普通なわけがないということを。






~~30分後~~


「……あの、先輩。段々と草木がうっそうとしてきたんですけど……」

「スコップで搔き分けながら進むんだ。草で切らないように気を付けて」

「あ、はい」





~~1時間後~~


「先輩、この川、やたらと流れが速いんですけど……」

「ゆっくり岩の上を渡るんだ。足滑らしたら身体ごと持っていかれるぞ」




~~さらに30分経過~~


「先輩、ここ完全に獣道……」

「しっ、静かに。背を低くしてゆっくりと進むんだ……!」





~~2時間後~~


「ウキャーーッッ!!」「ムキャホーーッッ!!」「キルユーー!!」


「先パーーーイ!!大量のサルが襲ってきたんですけどーーー!!?」

「この先のつり橋まで走れ!!追いつかれたら身ぐるみ剥がされるぞ!」


草を搔き分けわき目も降らず藪を走り抜ける。そこにあったのは、両端に打ち込まれた杭に縄で結ばれているだけの手すりもない吊橋だった。


「ちょっ!?これ渡るんすか!?ウソでしょ!嘘だと言ってぇ!!」

「早く行くんだ!ここは私が食い止める!!」


一筋の願いを込めてハジメはチヒロに振り向くも、チヒロは男前な返事を返して担いでいたスコップを構える。その先には、歯を剥いて目を血走らせた猿の大群が、木の枝、ハンガー、ヌンチャク等を振り回しながら押し寄せてきた。


「ヒャッキャーーッ!!」「ホヒャキャーイ!!」「ガッデーーム!!!」

「さあっ、早く行くんだ‼大丈夫、私もすぐにあとを追うから!」

「チクショオオオオオオオ!!!」


ハジメは半ばヤケクソで橋を渡った。仮に留まったとしても命はないことは直観していた。


一方、チヒロは襲い来る猿を次々と薙ぎ払いながらも、ハジメの様子を伺う。


「よしっ、そのまま走り続けてろ!絶対にたちどま立ち止まるなよ!!」


チヒロはハジメが橋を半分以上渡ったことを確認すると、猿をまとめて薙ぎ払い、橋の上へと飛び移ると、


「よっと」


杭に繋がれた縄を切り落とした。


「ウゾオオオオオオオオッッ!!!??」


支えを失った吊橋は重力に従い、端から緩やかに降下していった。


「私は気にするな!そのまま全力で走り続けろ!!」

「いぃやあああぁぁぁぁぁぁ!!!聞いてた話とちがああああああああああうぅぅ!!!?」


支えをなくしていく足場のなか、ハジメは決死の思いで走り抜いた。






「ぜひゅー、ぜひゅー……ッッ!」


ハジメは走った、走り抜いた。これから先の人生一生走れなくなってもいいくらいに走り切った。


「よっ、ほっ、ふっ、と。到ー着っ」


そしてハジメが息を切らして這い蹲っているところへ、チヒロは落ちた吊橋の縄を伝って、岸へと昇ってきた。向こう岸では猿達が奇声を挙げて地団駄踏んでいる。


「ヴァッキャーーッッ!!!」「キャホーーウ!!!」「ホウァッキューーーッッ!!!」


「ふう、これでやつらも追ってこれん。毎年毎年困った奴らだ」


チヒロはあっけらかんと言い放つと、ハジメの手を引いて立ち上がった。


「さて、ここまで来たならあと少しだ。気合入れていくぞ石間クン!!」



「・・・・・・・せ、せんぱい、僕ぁもう、あんたの言うことは信用しません……ッ!」

「え、なんで?」




こうして、数々の困難を乗り越えながらも、ついに二人は目的の竹林へとたどり着いた。


「こ、これが……!」

「そう、これぞ隠れた珍味、“特産黄金タケノコ”だ!!」


それは、通常のタケノコの二回りはおおきかった。一抱えはあるタケノコが竹林の至る所から生えている。


「さて、それでは手頃なところをいただいていこうか」


そう言ってチヒロはスコップを抱えてタケノコを物色していく。それを見たハジメも慌てて後に続く。


「あっせ、先輩!これなんてどっす!?大きさもなかなかで……」

「あ、まてそれは……!」


ギューーーーーーーン!!!


「ひいいいいいいい!?」


突如、ハジメの抱えていたタケノコが急激に伸びあがり、その先端はハジメの額を掠め、Tシャツの生地を三分の一程持って行った。


「ここの土壌はとても豊富でね、このタケノコはその栄養を限界までその身にため込み、一気に急成長するのさ。面白いだろう?」

「ほんとどうなってんすかこの山ぁ!!?」




30分後、二人は掘ったタケノコが小山になるほどに収穫していた。


「はっは、随分掘れたな。ありがとう石間くん。私一人じゃこんなには掘れなかったよ」

「あ、はい。どういたしまして(はじめて褒められた)……けど、調子に乗ってこんなに掘っちゃいましたけど、さすがにこれ全部持って帰るのは無理っすよ。それに、そもそも橋、落ちちゃってますし……」


「ああ、その心配はない。もうそろそろ着くから」

「着く?」


バリバリバリバリバリ!!!


突如、けたたましい騒音が鳴り響く。見上げるとヘリコプターが上空で旋回しており、中から中年の男性が顔を出した。


「チーちゃーーん!!迎えにきたよーー!!」


「あ、パパー!お迎えありがとー‼」

「ヘリあんならさいしょっから使えばいいじゃないっすかっっ!!!?」





「うわっうま!なにこれ本当にうっま!!?」

「ふふっ、喜んでくれて作ったかいがあるよ」


日もすっかり暮れた夕飯時、ハジメは約束通り、チヒロ宅にて彼女の作ったタケノコ料理に舌鼓を打っていた。タケノコの煮込み、刺身、バター炒め、炊き込みご飯等、まさにタケノコ尽くしである。


「……しかし、私有地云々言ってたあたりからまさかと思ってましたけど、まぢでお金持ちだったんすね、先輩ん家」

「何、たいしたことはないよ。アスリート時代にため込んだ金で始めた投資がたまたま上手くいっただけさ」


タケノコの刺身をつまみながらチヒロ父が答える。どうやら彼女の両親共に元アスリートらしい。


「……しかし、逆に僕はチヒロについていける学生がいることに驚きだよ。放っておいたら週末に県内一周とかやってのけるからね、この子は」

「この前なんて両手にダンベル持って走って来ようとしてたのよ?正気じゃないわ」

「え~~?イケると思ったのに」


ハジメは阿須家の会話に戦慄する。彼女のスペックは想像の遥か上をいっていた。


「ふふっ、今日は本当に助かったよハジメくん。またよろしく頼むよ!!」

「は、はは、いや、もうしばらくは………」


勘弁してください。というハジメの言葉は、キラキラとした屈託のない笑みを浮かべるチヒロの前に飲み込まれて行き、乾いた笑いを零すだけであった。







(………あり?てか今先輩、俺を名前呼びした?)







~~一か月後~~


「ハジメ君っ!今初カツオが旬なんだ!ボートで一本釣りに行こう!!」

「もう本当に勘弁してくださいッッッ!!!!!」

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