おいら、陰陽師に祓われた鬼なんだが、目が覚めたら目の前に骨がいてびびった
おいらは鬼。赤い肌に黒い角を二本生やし、鹿の皮のふんどしを身につけている。得物はおいらのじっちゃんから貰った厳つい金棒だ。
そんなおいらだが、ある日とうとう陰陽師ってやつに祓われっちまった。苦しくはなかったが、とても寂しかった。
これで、閻魔様の元に行くんだな。そう思ってたんだが……。
意識がある。
どうやらおいらは固い土の地面の上に仰向けに転がっているようだ。さっきから、背中を伝ってくる冷気が気持ち悪くって仕方がない。
でも、おいらは死んだはずなんだけどなぁ。まあいいや、もしかしたら、母ちゃんとかも生きてるかもしれない。そう思って、おいらは目を開けた。
「あ、起きた」
白い骨が目の前で喋った。
「ぎゃあああああ!」
「わあああああああ?!」
おいらは目一杯金棒を振る。それは、骨の頭に当たって――頭を吹き飛ばした。
「はー、はー……」
……この骨はなんだろう? 今、喋っていたような気がしたけど……でも、骨の妖怪なんて知らないしなぁ。でも同胞っぽいんだが……。
まあ、やってしまったものは仕方ない。おいらは、飛ばした頭へとかけよる。せめて、身体と一緒に埋葬して
「もう! 何するのさ!」
「ぎゃああああああ!」
「ちょ、たんまたんま! 二回はくどい!」
思いっきり振りかぶった体勢のまま、おいらは骨の言葉にふと我に返って投げるのを止める。だけど、くどいってなんだ?
まあそんなことはいいとして、今はこの骨のことだ。
「……お前、なんだ?」
「それは僕の台詞だよ。君こそ見たこともない、得体の知れないモンスターなんだから、観察したくなるだろ?」
もんすたー?
「なんだ? そのもんすたーって。おいらは妖怪だぞ。妖怪の立派な種族である鬼だ!」
「ようかい……? おに……? うーん。よくわかんないけど、不思議な出でだちなんだね。じゃ、ちょっとついておいでよ」
おいらは案内されるがままに骨についていく。
おいらがいつの間にか寝っ転がってたここは、大きな洞窟だった。だけど、あまり深くはないみたいで、天井からは月明かりが漏れてきている。
「今は夜なのかい?」
おいらはふとそう尋ねた。
「いいや、昼だよ」
骨がそう言うのに、おいらは首をかしげる。
「でも、上から漏れ出てるこの光は月の光だろう?」
「いいや、それは夜光石って言って、暗いところで光る不思議な石なんだ。それに、この洞窟は結構深いし。ここが中間地点ぐらいだよ」
夜光石。なんて、初めて聞く。なんだか、ここは僕がいた世界ではないような気がした。
案外深い場所にいると聞いて、少し落ち着かないけど、この骨といるとちょっと安心だ。
「止まって」
ふと、骨がおいらに向かって首を動かさずに言う。
「どうしてだい?」
おいらは、骨の隣に並んで、道の先を覗く。そこには……。
――大量の、大きくて紫色の蜘蛛の群れが。
「……この道しかないんだけどな」
骨が、肉のない顔の表情を険しくして呟く。
おいらは、そんな骨の様子を見て、ぐっと金棒を握る手に力を込めた。
「骨」
「なんだい?」
「おいら、戦えるよ?」
見れば、骨も腰にぶら下げていた奇妙な両刃の剣を抜いていた。
おいらの覚悟を察したのか、骨が一度うんとうなずく。
「じゃ、いきなりごめんね。手を貸して貰うよ」
「おいらに任せとけ!」
おいらは先陣を切って蜘蛛たちのど真ん中に突っ込む。
蜘蛛たちは、なぜか最初においらには手を出してこなかった。むしろ怯んでいたのは、おいらがこっちではいないもんすたーだからだろうか。
「おおりゃっ!」
おいらが水平に薙ぎ払った金棒が、壁に張り付いていた蜘蛛三匹をまとめて打ち砕く。割れた腹の中から、緑色の液体が漏れ出て――
「危ないっ!」
「ぎゃんっ!」
間一髪のところで、骨にふんどしを引っ張られて回避した。
代わりに、少し大事なところにダメージを負ったけど。
「さあ、行くよ!」
「あい……」
なんだか、勢いがそがれてしまった。
元の調子をおいらが取り戻している間に、今度は骨が蜘蛛に斬りかかる。
――その腕前は、すごかった。
「ふっ――」
無いはずの肺から息を吐きながら、なめらかな弧を描いて剣が蜘蛛の頭を切り落とす。その弧の軌道のまま、切り返し動作なしで次の獲物へ。
まさにそれは、いつか見た熟練の武士の刀さばきのそれであった。
おいらはその姿に一時目を奪われる。
「オニ! ほら、手伝って!」
「あ、お、おう!」
おいらも、骨の邪魔をしないように戦闘に参加する。
腹を狙ったら危ない液体が漏れてくる。
なら、骨と狙う場所は一緒だ。
「おりゃ!」
真下に豪快に振り下ろした金棒が、蜘蛛の頭をみかんを潰すかのように圧砕する。
やっぱり、あの危ない液はない。なら――
「行くぞー!」
―― ―― ―― ―― ――
「はあ、はあ……」
戦闘が終わったおいらは、あらい息を吐きながら金棒で身体を支えていた。
あんな蜘蛛、やっぱり始めて見る。不思議なところに来てしまったみたいだ。
「やるじゃん、君」
「ほ、骨もな」
お互いの健闘をたたえ合って、おいらたちは握手を交わす。
白くて硬い骨と、おいらの無骨な筋肉だらけの赤い手が交わるのは、ちょっと面白い光景だった。
「そういえば、お前、名前なんて言うんだ?」
おいらはふと気になって骨に尋ねる。
ずっと骨っていうのも、なんだか違和感があったからだ。
「僕はスケルトンって言うんだ。……でも、骨の方がいいかなぁ。長いでしょ?」
「ま、確かに! じゃ、ありがとな、骨!」
「いいや、こちらこそ! じゃあ、君をまずは僕の家に案内してあげるよ!」
おいらは、骨の後ろについて洞窟のさらに奥へと進んでいった。
この骨との出会いに、感謝しながら。