妹の影
「見守の妹が僕に会いたがってる?」
制服に着替えて食卓に行くと“その女の子はもしかして彼女?”“遂にドルオタ卒業?”という両親のニッコリ視線に耐えられず、即行で朝食を済ませて家から脱出。
そうして駅に向かう途中、隣の見守がウンザリ顔で嘆いてくる。
「色々あって固城の存在が漏洩しちゃったのよ。くっ、一生の不覚だわ」
「そんなにも僕という存在は駄目ですか?」
僕の存在、一生隠し通す気だったの?
なんかもうインシデント案件みたいになってない???
「それで僕はどうすれば?」
「生まれ変わって」
「死ねと!?!?!?」
「違う。イメチェンよ。妹はイケメン好きだから」
「……………ええっと、どゆこと?」
この疑問に、見守がそっぽを向きながらボソッと答える。
「だって、妹に彼氏がダサいとか言われたくないし」
おおう、成程。
鈍い僕でも、これくらいの心情は汲み取れる。
「分かった! 僕イメチェンするよ! …………具体的にどうすれば???」
「まずは美容院、可能なら整形もしてくれない?」
「手札オールチェンジじゃん!!!」
それもう固城一途じゃない!!!
もうどっかのイケメンと替え玉でよくね!?
「てゆーか美容院は無理! 入れません!!」
「どうして?」
「だって入った瞬間『何でこんな冴えない男が美容院に? もしかして若気の至り? 君は隣の1000円カットで十分だよね?』って蔑んでくるに違いない!!!」
「偏見にも程がある!! 私も同行してあげるから今日の放課後、一緒に行くわよ!!」
「しかも今日!? せめて明日にしない?? 3時間くらい念入りにシャンプーしとかないと無礼千万だよね!?」
「髪に悪いだけだから止めなさい! とにかく今日!! 決定ね!!」
有無を言わさずスマホで美容院予約をする見守。
何でこんなにも焦っているのだろう?
そんな疑問をぶつけてみると、
「私の妹、三雲って言うんだけど、好奇心に火がついた時の行動力がヤバいの。だから昨日はもうずっと質問攻めで、気付いたら近々会わせる事になっちゃって、とにかく時間がないの」
「えっと、近々って今週末では?」
「違う。あれはもう今日の放課後、中学が終わり次第高校に突っ込んでくるわ。今朝もモタモタしたら固城の家に押しかけそうな勢いだったから」
「ああ、だから今朝」
「そういうことよ」
よく分からないけど、姉妹の色恋沙汰は大変らしい。
「分かった。じゃあ放課後になったらすぐ美容院に行くけど、一緒に来てね」
「ええ」
「絶対だよ。絶対だからね!」
「ええ」
「途中で退席しないでね! 見捨てないでね!!」
「そこまで念を押されると逆に見捨てたくなるわね」
「酷い!!!」
僕の必至な主張を愉快に笑う見守。
そうして駅前に到着すると、
背後から大きな声がもの凄い勢いで近づいてきたのだ。
「ユウ姉ーーーーー!!!!!」
「げっ! 美雲!?!?」




