表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
3/30

握手会・練習編2

「僕は中3まで勉強するだけの退屈な人生で、テストで満点を取っても全然嬉しくなくて、熱くなれるものが見つからなかった。だけど高校受験後に友達の気まぐれで連行されたアイドル会場で、きららちゃんに出会いました。

 君は集団の1人に過ぎなかったけど、踊っている姿から目が離せなくて、笑顔を絶やさず、何よりも本当に楽しそうで、輝いて見えた。しかも調べたら僕と同い年で、自分にはない物を持っている同世代の女の子。そんな君に惹かれてファンになりました」


「ふーん、そういう事ね」

「え? 何か言った?」

「別に何も」


 気持ちが伝えられて固城は大満足だが、その気持ちは練習台の見守が受け止めた訳で、今度は見守が喋り出す。


「私達、高1で出会ったよね」

「そうだね」


 見守とは高1で同じクラスになり、今年も同じ。

 しかもクラス委員長だったから、バイトで居眠りし放題な僕を気に掛けてくれたのだ。


「私、最初は固城を苦学生だと思ってた。バイト漬けで出席日数もギリギリなのに赤点回避で、頑張ってるなーって同情してた。なのに話をしてみたらアイドルで唖然よ。他の皆には絶対に言うなって警告も守って、おかけで周りは苦学生だと誤解したままって有様よ」

「補習でバイト不可は困るからね。それに見守には感謝してる。何だかんだで助けてもらったから」

「そういう固城も私が慣れないクラス委員で困っていた時、たま~に助けてくれたわね」

「手が空いた時だけだよ。恩はちゃんと返すべきだし、助け合い精神は大事だから」



   *  *  *



 そう宣言した屈託のない固城の顔に、私の心がざわつく。

 こういう愚直で素直な所、卑怯だなぁ。

 だからアイドルなんかに騙される。


 そんな愚痴を心の中で溢しながら握手を解き、お互いに大きな溜息を漏らす。


「ありがとう見守、参考になった」

「そう、それは何より」


「よしっ! これできららちゃんと上手く話せるに違いない!」


「……………本当に好きなのね」

「ああ、恋は盲目ってやつだ!」


 あはははは、自分で言っちゃうんだ。

 固城は馬鹿で間違いないけど、それなら私は何なのかなぁ。

 そんなしんみり気分に浸っていたら、固城が神妙な面持ちで私を見て、


「軍資金が減るのは忍びないけど、お礼として1割の金額を…」


「…………え? ちょっ、まさか50万!?」

「うん、今すぐには渡せないけど、帰りに銀行に寄って明日…」


「要らないわよ馬鹿!!!」


 やっぱり固城は底抜けの馬鹿だ!

 しかも金銭感覚までおかしくて、このまま放置する訳にはいかない!!


「お金は要らない。けど1つだけお願いを聞いてくれる?」

「分かった。僕に出来る事なら何だってするよ」


 そうして私が出した答えは、



「私の彼氏になりなさい」



   *  *  *



 …………………………………………あれ?


 おかしい、見守の答えが理解できない。


 何で?

 どうして?

 もしかして聞き間違え?


「ごめん。もう一度だけ聞かせて…」

「あーでも言いふらすのは絶対禁止。もし喋ったら500万没収だから」

「何で!?!?!?」

「彼女だから。そういう権限が彼女にはあるの」

「マジかっ!! すげーな彼女!!!」


 確かに我が家の財布の紐も母が握っていて、まさかこの法則は彼氏彼女な関係にも干渉してくるのか!? ヤベーよ全然知らなかった!!


「なので明日のCDも1枚だけ。アイドルも趣味の範囲ならいいけど大金は禁止」

「そんなっ!? それじゃきららちゃんに会えない!!」

「1枚で当てる自信がないの? 固城の愛はその程度?」

「そんな事ない! 前は1枚で当てたし!!」

「なら1枚で決定」

「いやでもそれはマイナー時代で、最近は結構人気で競争率が…」


「守れ」

「は、……はい」


 余りの迫力にYES回答。

 てゆーか何これ、何だコレ?


 見守は僕の彼女になったの?

 だけど全然実感が湧かないし、ドッキリって宣告された方が安心できるレベルだ。


「ごめん見守、しつこい様で悪いけど…、って居ない?」


 目の前に居た筈の見守が消失。怒涛の展開からの強制終了に自分はまだ熟睡中の白昼夢だったのではと思ったが、叩かれて手形クッキリな左頬、踏まれた脇腹の上履き跡、そして見守の手を握った感触、それら全てを夢と言い張るのは不可能だ。


「とりあえず帰って、1枚だけ予約しよう」


 もう思考が上手く巡らず、呆けた顔でそう呟いてから、ふらふらな足取りで固城は帰路についたのである。



   ◇   ◇   ◇



 魔法を唱えた瞬間、体内から爆発的に噴き出してきた感情を全力で無視。表情筋が1mmたりとも動かない様に全神経を集中したのにモヤモヤの増大は収まらず、体もどんどん熱くなっていき、もう喋る事さえ難しくなって、逃げ出してしまった。


 全力で走った後、人気のない場所を見つけて小さくうずくまってから、もう熱くて熱くて仕方がない顔をうずめて、さっきまでの自分を振り返る。


「あんな最低な告白だったのに、何でドキドキしちゃうかなぁ」


 今の自分がどんな顔かは分からないけど、きっと外には出られないし、誰にも見られたくない。だから下校時刻ギリギリまで粘ろうと決めてから、ポツリと呟いたのだ。


「ほんと、恋は盲目だなぁ」

 現実恋愛日間5位ありがとうございます(困惑)

 当初はここで終了予定でしたが、続けてみます。蛇足かもしれませんが、2人の物語にこれからも付き合ってくれたら嬉しいです。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ