モーニングコール2
久々に更新。
「昨日全部片付けたけど、ほんとアイドルグッズ以外は何もない部屋ね」
見守の言う通り、きららちゃんグッズで埋め尽くされていた空間は巨神に焼き払われたかの様な焦土と化し、最低限の家具しか残らない殺風景なものに成り果てている。
「とにかく、さっさと起きて着替えなさい」
そうして見守がガバッと布団を剥ぎ取ると、寝起きだった事が災いして、ポロっと巨大な棒状のモノを見守に晒してしまったのだ。
きららちゃん抱き枕(等身大)
げしっ!!(見守キック炸裂)
睡眠中は後生大事に、それでいて時に激しく抱きしめていたきららちゃんの分身が露呈した瞬間、凄まじい衝撃が腹部にめり込み、くの字を飛び越えた見事な海老反りが体現。そうしてベッドから転げ落ちて悶える最中、子供なら泣いて土下座するレベルの蔑み視線がバシャバシャと噴射される。
「アイドルグッズは全て封印って約束だよね?」
「いや…、昨日の掃除で封印されなかったから、セーフかな~って」
「ふ~~~~ん。まさか布団の中にそんなものが潜んでいるとは思わなくて、うっかり見逃しちゃっただけなんだけどね~~~~」
重い!!!
見守の視線がビックリするほど重いんですけど!!!
「あと私は抱き枕越しに蹴りを入れようとしたのに、何で体勢を変えたの?」
「え? だって大切に思っている女の子が襲われそうになったら、身を挺して庇うのは男として同然…」
ゲシゲシゲシッ!!!
「きららちゃんの顔を念入りに踏みつけないで!!」
そんな僕の嘆きも空しく、顔が激しく凹んだきららちゃんが完成。更にきららちゃんの髪が鷲掴みにされ、引きずる様に押入れに向かう見守に、僕は即座に見守の足に抱きつき、縋る様に頭を垂れる。
「お願いします離してあげて下さい! そんな乱暴に女の子の髪を引っ張ったらダメ!」
悲痛な嘆きを無視して突き進む見守。
「僕はどうなってもいいから彼女だけはっ!! 毎晩ずっと一緒に過ごしてきた仲なんです!!」
と、全身全霊で弁護していたら、
「ただの綿袋を女の子と誤認しそうな言い方は止めなさい!!!」
固城の台詞だけを抜き取れば完全に修羅場だが、実際は綿袋を抱えた女の子が縋りつく男をゲシゲシと踏みつける意味不明な絵になっている。
「とにかく! この抱き枕は他のグッズ同様、押入れに封印します」
「そんな! 毎晩ずっと一緒だったのに居なくなったら僕眠れなくなっちゃうよ!!」
「それなら私が子守歌を歌ってあげるけど?」
「手刀を振り上げながらの笑顔で言われましても!? それ子守歌じゃなくて鎮魂歌だよね???」
と、この指摘が気に入らなかったのか見守が僕の机にあるハサミを手に取り、あろうことか突き付けてきたのだ。
きららちゃんの首筋に!!!
「待て見守! 早まるな!!」
「それ以上近づいたら、分かるよね?」
ヤバい!!
どうして見守が不機嫌なのか皆目見当つかないけど、このままじゃきららちゃんが危ない!!!
ここは完全服従で安全確保を最優先にすべきか、それとも一か八かの特攻で救い出すべきか……
まるで人質を捉えた犯人・説得する警察官という一触即発な空気となり、お互いが睨めっこの硬直状態となり、見守が僕に問いかける。
「この抱き枕、返してほしい?」
「はい」
「そう、じゃあ返してあげる」
ほっ、良かった。
やっぱり見守は何だかんだで優しいというか、本当に嫌がることはやらない性格だ。
そう安堵して気を許した瞬間、
スポッ(抱き枕カバー剥ぎ取る)
「うぎゃああああああああああ!!!!!」
「はい、お望み通り返してあげる」
そうして抱き枕本体の無地棒がポイっとぞんざいに投げ返され、それを強く抱きしめながら僕の膝が崩れ落ちる。
「酷い! どうしてこんな事に…」
涙ながらの訴えも空しく、見守はきららちゃん抱き枕カバーをおしぼりの様にクルクルと丸めて自分のカバンに収納する。
「これは私が預かるから、さっさと着替えなさい」
そう言って部屋を出る見守。
あられもない姿に成り果てたきららちゃん。
打ちひしがれる僕。
これも試練なのだろうか?
そう固城は痛感したが、これが序曲に過ぎない事を、まだ固城は知る由もなかったのである。




