姉妹の晩餐 3
「自首しよ! お姉ちゃん!!」
そう叫びながら涙目で抱き着く妹。
いや、自首って何処に?
てゆーかこの500万円、固城から取り上げた奴だよね?
「待って美雲、誤解だから」
「ごめんなさい。最近のユウ姉から男の気配を感じて、これは絶対に何かあるって部屋を漁ったら、これが……」
「うん、普段なら激オコだけど、この際全部許すから私の話を聞いてくれない?」
「突然の札束にビックリしていたら家の電話が鳴り響いて、出てみたら……、けっ、警察からで」
「えっ、何でっ!?」
これには本当にビックリ。
警察にお世話になる覚えなんて無いし、関わった事だって………………
あっ
「“先日の詐欺事件の話が聞きたいから署に来てほしい。あと報道の件で…”って所で怖くなって、電話線ごと切って、それから、それから……、
おねえちゃ~~~~~~~ん」
泣き出してしまった妹を抱きしめながら、冷や汗噴き出しっぱなしな私は天を仰ぐ。
説明するまでもなく、その500万は固城のがアイドルに使おうとした件で間違いなく、警察の事情聴取で名前と電話番号を伝える場面あったけど、こんな事なら言わなきゃ良かった。
そしてこの状況証拠で正気を保てる家族が居る訳もなく、美雲の心は不安に押し潰される寸前に違いない。
「美雲、実は……」
「嘘だよね!! 詐欺はお姉ちゃんじゃなくて電話の方で、詐欺って言った方が詐欺だよね!!」
「うん、最近は警察官を装った詐欺もあるからね」
「じゃああのお札も偽物だよね??」
「いや、あれは間違いなく本物で、てゆーか偽なら偽で問題だから」
「そっ、そんなぁ」
肯定したせいで泣き崩れる美雲。
「ううっ、ユウ姉は男に免疫なくて、きっと騙されてこんな事になっちゃったと思ったけど、こうなったらもう自首するしか」
「いや、だから話を」
「最後の姉妹の晩餐、楽しかったよ」
「いや、だから」
「大丈夫、お母さん達にはユウ姉は男と駆け落ちしたって伝えてお…」
「聞きなさいって!!!!!」
遂にブチギレて締め技炸裂。
ギブギブ!と呻く妹を強制的に黙らせてから、お互い正座になって向き合う。
「美雲、説明する前に1つだけ誓って」
「うん」
「私は神に誓って真実を話します。だからそれを信じる事」
「分かった」
数年ぶりの指切り拳万までした後、私はコホンと咳を付いてから、
「その500万円は私の彼氏がアルバイトで貯めたお金だけど、詐欺で騙し取られそうになって、それを私と警察で止めて、何だかんだで詐欺グループ逮捕。きっと電話はその件で、500万はまた馬鹿な使い方をしない様に私が預かってるだけだから」
「お姉ちゃん」
「美雲」
お互いに微笑んで、また握手をしようとしたら、
ぺちん!(悪手拒否)
「そんな下手な嘘つかないで!!」
「あー、やっぱりねー」
ほーらね、だから言いたくなかったのよ。
洗い浚い白状したのに、こんな馬鹿っぽい真実のせいで信じてもらえないならどうしろと???
「ユウ姉、大丈夫だよ。パパ活でもAV出演でも受け入れるから」
「美雲、あなたとんでもない誤解してるよね? お願いだからそれ以上喋らないでくれる? 嫌いになっちゃうから」
いっそもう固城をここに呼ぶ?
いやでもあのドルオタを召喚した所でどうにもならないし、ならもう美雲と一緒に出頭すれば……、って私は無実だっつーの!!!
「あーもう、とりあえずテレビでも見て落ち着かない?」
と、本当に何気ない機転でテレビを付けてみると、表示されたのはニュース番組で、そこに表示されていた文字は、
“おてがら女子高生、彼氏と詐欺グループを一網打尽”
『アイドル詐欺グループが逮捕されました。先日、500万円を奪われそうになった男子高校生の彼女が警察に通報し、通知された待ち合わせ場所に警察が張り込んで逮捕。そこから情報を引き出し、主犯格10人の逮捕となりました。なお…』
まさかの答え合わせに、私達姉妹は硬直。
そして私を見る妹。
目を逸らす私。
「ユウ姉、これって」
「いや、違うから」
「でもユウ姉の言い訳と同じで」
「いや、違うから」
「でもこの警察署、近所だよね?」
「いや、違うから」
「いや、この警察署が近所は事実だよね?」
右に回り込んで凝視な美雲に私は左を向き、
左に回り込んで凝視な美雲に私は右を向き、
そんな事を延々と繰り返した末に両親が帰ってきた所で、この話は一旦終了となりました。
なお、この報道で私と固城の実名が晒される事はなく、警察に電話したらマスコミが是非インタビューしたいと申し出たとの事で、なので私は全力で拒否。もし実名を晒したら、お腹にダイナマイト巻き付けて警察署に特攻すると釘をぶっ刺しておきました。
腹マイト:昭和の仁義映画で流行ったヤクザ流交渉術。交渉に応じなければ纏めて自爆という、単純であるが故に効果抜群な説得法である。




