ドリアンショー2
それは、ブリーフ一丁の半裸男が黙々と正座で作文用紙に書き綴る光景でした。
文字だけではピンとこない貴方は想像してほしい。
或いは自分自身で実践してみれば分かるだろう。
これがどんなに異常でアホな行為であるかを。
「あれ? どうして見守が…、って何で泣いてるの!?」
慌てて駆け寄るブリーフ。
腹パンをぶち込む私。
神様、これ私の元カレなんですけど?
止めのドリアンを顔に叩き込んで終わりにしたかったけど、こんなにも情けない遺体は見たくないので凶器を地面に置くと、悶絶するブリーフの顔をグニッと踏み付ける。
「固城、一体何をしているの?」
「見ての通りです」
「そう、人間を諦めたのね」
「そこまで!? てゆーかブリーフって誰!?」
そもそも高2で白ブリーフってどうなの?
ドランクスかボクサーパンツにクラスチェンジするのが普通じゃないの?
「見守、これは反省の儀です。失敗は恥ずべき事だけど、大切なのは同じ失敗を繰り返さない事だから」
「そうね、その通りだわ」
「だからこの姿で反省しています」
「うんちょっと待って、起承転結の承転が行方不明だけど? もうアインシュタインが真顔で殴ってくる酷さよね?」
反省が下手糞過ぎる!
ブリーフで反省が活かせるなら、社会人は皆ブリーフ&ネクタイ出勤って働き方改革が始まっちゃうからね!
「で、一体何を書いていたの?」
そうして固城を踏み付けたままミニテーブルに手を伸ばし、さっきまで固城が書いていた100枚程の作文用紙を見てみると…
きららちゃんごめんなさい きららちゃんごめんなさい きららちゃんごめんなさい
きららちゃんごめんなさい きららちゃんごめんなさい きららちゃんごめんなさい
きららちゃんごめんなさい きららちゃんごめんなさい きららちゃんごめんなさい
きららちゃんごめんなさい きららちゃんごめんなさい きららちゃんごめんなさい
きららちゃんごめんなさい きららちゃんごめんなさい きららちゃんごめんなさい
ベリッ!!!(100枚の紙束)
「僕の誠意がああああああああ!!!!!」
「誰も要らないわよ、こんな気持ち悪い誠意!! 大体、この作文どうする気!?」
「もう200枚書けたら、きららちゃん運営に送り…ぐべっ!!」
「出禁まっしぐらな上に逮捕まで在り得るから止めなさい!!」
気に入らない!
どうしようもなく気に入らない!!!
固城のどうしようもなさはこの際いい、何できららちゃん一色なの?
私には悪いと思ってないの???
頭にきたので、破り捨てた作文用紙を固城の口に詰めれるだけ詰めてやろうとしたら、
見守、ごめんなさい
欲しかった言葉がビッチリ書かれた作文用紙がきららちゃんの中に紛れていたのが見つかり、思わず力が抜けてペタンと座り込む。
そして私の踏み付けから解放された固城が、深々と頭を下げてくる。
「ごめん見守。あの時、見守の言葉を信じられなくて」
この率直な言葉で、私の業火が冷め上がる。
なんだ、ちゃんと反省してるじゃない。
固城一途という男は本当に真っ直ぐで、融通が利かなくて、面倒臭い事この上なくて、だからこそ去年の文化祭で失敗した私を助け出せて、否応なく気になってしまう。
それに自分の非を素直に認めて謝れる人間は、嫌いじゃない。
「固城、貴方は反省がしたいのよね?」
「はいそうです」
「じゃあ今の反省、正しいと思ってる?」
「うっ……、それは……」
目を逸らす固城。
やっぱりね。
だけどそう思えているのなら、救いはある。
「じゃあ正しい反省方法を私が示してあげる」
「本当に!?」
「私と固城の仲じゃない」
「え? だけど僕と見守は…、その…、もう彼氏彼女な関係じゃ…」
「私の事、嫌い?」
「そんな事ないけど」
「そう、じゃあ問題ないわね」
「う、うん? そうなんだ???」
これでいい。
今回の失敗で固城は深く反省中で、主導権は完全に私!
つまりここから上手く誘導できれば……
「そうね、じゃあ反省として、きららちゃん断ちをしましよう」
「何で!?!?」
「暴走した原因、きららちゃんよね?」
「そっ、それは、その通りですが……」
「だったら反省として相応しいわよね?」
「ですがっ、これは余りに……」
「楽な反省に価値ってあるの?」
「うぐっ……」
「返事は?」(ニッコリ)
「…………………………分かり、ました」
苦渋に満ちた表情で了承する固城。
まるで罪もない子供達を虐殺しろと命じられた新兵の様だけど、それと裏腹に私はニヤケそうな顔が崩れない様に注意しながら、ちゃんと「はい」が言えた固城の頭を優しく撫でながらニッコリと微笑む。
「安心して固城、これは暫くの間だけで、反省が終わればきららちゃん三昧に戻っていいから」
「本当に!?」
「ええ、何ならまた一緒にライブに行ってあげてもいいし、この試練を乗り越えられれば、きっときららちゃんも喜んでくれるわ」
この発言で目をキラキラさせる固城。
もう少し!
頑張って私の表情筋!!
「分かった! 僕頑張る!!」
「そう、偉いわ固城」
女神の様な笑顔に涙ぐみながら私に抱き着く固城。
そして心の中でガッツポーズをする私!!
飴と鞭とは正にこの事で、人間には希望が必要だ。
相手の趣味を辞めさせるには、条件付き・限定的でも構わないので、まずはその趣味を隔離。そうすれば大なり小なり冷める筈で、そこに新たな楽しいを植え付ければいい。
逆にただ単に趣味を禁止するだけではストレスになるだけで、下手すれば反動でより酷くなる可能性がある。ゲームを取り上げたがるお母さんと同じ理屈だ。
だからこのミッション、絶対に成功させてみせる!!
え? 暫くの間?
きららちゃんが喜んでくれる?
うん、そうだといいね。
期限が未定で、きららちゃんが喜ぶ根拠が何1つ無いけど、本人が「頑張る」って了承したから何も問題ないわよね?
「じゃあ具体的なきららちゃん断ち計画をどうするかだけど、その前に片付けね。そして固城はまず服を着なさい」
「分かりました!」
なので私が破いた作文用紙を片付けようとしたのだけど……
「固城、何か物音しなかった?」
「そう? 僕は気付かなかったけど」
「それはそうと、1つ聞いていい?」
「ん、何?」
「この作文、私ときららちゃんに謝罪してるよね?」
「そうだけど」
「割合は?」
「ええっと……、8:2くらい? 因みにきららちゃんが8で、見守が2…がっ!!!」
履いている途中のズボンの裾を引っ張られてすっ転ぶ半裸固城に、再び足蹴りをプレゼントする。
「私の割合低すぎっ!!」
「いや! 見守にも悪いと思ってるよ! けどやっぱりきららちゃんと比べたら…」
「五月蝿いこのドルオタがっ!! やっぱりこれで反省しなさい!!」
「って何そ…、またドリアン!?!?」
「これを喰らって反省するがいいわ!!」
「待って見守!! ちゃんと反省するから食べ物を凶器にするのは止めよう!! 食べ物は大事にしなきゃ勿体無いお化けが出るんだよ!!」
そうしていがみ合う両者。
私が固城を押し倒す構図で優勢だけど、やっぱり男子の力はそれなりで、てゆーか意外にも固城の体は引き締まっていて、あとこれ私が固城を襲ってる様に見えちゃってない? 固城はズボン脱ぎ掛けのブリーフ丸見えな半裸で、もしこれを第三者に見られたら…
ガチャ(部屋のドアが開く)
「一途? お母さん早めにパート上がれたけど、さっきから何を騒いで…」
下着丸見えの半裸息子。
それを押し倒す見知らぬ女子。
言葉を失う母親。
そして気まずい静寂がこの空間を支配した所で、
すっ(そっとじ)
「いやお義母さん誤解です! てゆーかその対応でいいの!?」
その後、固城君がお休みだったのでお見舞いに来ただけという趣旨を説明して、見舞い品のドリアンをお義母さんに贈呈しておきました。
アインシュタイン:ドイツの物理学者、相対性理論を唱えた歴史的天才。




