山嵐佳奈1
落ち着かない。
絶対に見つからない場所に隠したとはいえ、自室に500万円という現ナマを潜伏させての外出は想像以上のプレッシャーで、もし家族に見つかったらと思うと溜息しか出てこない。
いっそ私の銀行口座に……
いやでも私のお金じゃないし、何かもう結婚詐欺で騙し取ったみたいになってない?
だけど私が居なかったらあの500万は消えていた訳で、固城が真人間に生まれ変わるまで私が預かる判断は正しい筈だ。個人間の借金は10年で時効って法律あるけど、使う気なんて全然ないからね!!
固城との関係もちょーーっとだけ変わったけど、愛の形は色々だ。
だから今は……、貸主と借金取り?
お金だけの関係?
結構な拗れっぷりだけど、恋愛は紆余曲折あった方が絆も深まるって話もあるし、他のカップルもこれと同レベルの事件が起こっている筈だから大丈夫だよね?
「おはよう佳奈」
「おはよう優子ちゃん。ねぇ聞いて聞いて」
そう考えている内にクラス到着。
自席に座るや否や、友達が一目散に声を掛けてくる。
彼女は山風佳奈。
中学からの付き合いで、体操部で一緒に3年間頑張った仲間だ。高1では別クラスだったけど高2で同じになり、前以上に仲良くなった存在である。
因みに体操は中学で引退。
そもそも高校には体操部が無いのでどうしようもない。
「それにしても優子ちゃんはイイよね。高校から美人にクラスチェンジで」
「ただの高校デビューよ」
「えー、私もデビューしたのに全然だよ? 体操すれば大人ボディが手に入ってモテモテ美人になれると思ったのにー」
「でも体操で痩せたって大喜びしてたよね?」
「そうだけどー、独り身のままじゃ意味ないよー」
机に頬を当ててぶーぶー駄々を捏ねる佳奈。
佳奈の見た目は決して悪くないけど、身長が低くて、言動も見の通り子供っぽくて、あと髪型がぱっつんショートなので、幼く見られてしまうのだ。
表情がコロコロ変わって親しみ易いけど、女性として見られるのはもう少し時間が必要みたいだ。
「あーあ、私もアイドルみたいにキラキラ出来たらなー」
「ふっ」
「鼻で笑われた!!」
「ごめん。深い意味はないから」
何気ない一言だったけど、固城のせいで引っ掛かるワードになっちゃったなぁ。
アイドルみたいにキラキラ?
その影ではドルオタ暴走、えげつない搾取、詐欺まで横行するド汚い世界なのに。
「酷いよ優子ちゃん! 確かに高望みだったけど!」
「ごめん。でも笑ったのは別の意味だから」
「えー、どんな意味?」
―――そうね、いい機会だから第三者の意見を聞いてみよう。
そもそも私の目的は固城のドルオタ更生で、500万GETで止まったら本当に結婚詐欺に……って別に結婚してないし、いやでも結婚すれば共有資産に……、ってそうじゃない!!
そんな邪念?を振り払ってから、可愛い涙目で抗議中な佳奈に尋ねてみる。
「じゃあ質問だけど、アイドルオタクってどう思う?」
個人(友人)の借入は10年で時効ですが、銀行は5年だったりで、お金の貸し借りには色々あるみたいです。気になった方はググってみて下さい。




