ミニライブ・出会い編4
「お初に馳せ参じ申す!! 拙者、固城一途と申し上げ奉り候!!」
「何で唐突に武士口調? あと固城の目の前に居るのは警備員よ」
あらぬ方向に手を差し出す固城の肩を掴んできららちゃん側に向けると、急にTシャツを捲り上げて、
「これはとんだご無礼を!! 今すぐ腹を切ってお詫ぼっ!!!」
アイドルに腹筋を晒す変態ドルオタに望み通りの腹パンをぶち込んで粛清を下す。
「迷惑なだけだから止めなさい!」
「馬鹿な! このまま生き恥を晒せと!?」
「恥の上塗りが正解!! 四の五の言わずにさっさと握手!!」
「あっ、駄目!! まだ心の準備が出来てないからアイマスク剥ぎ取らないで!!」
そんな小競り合いを繰り広げていたら、
「あはははは、おもしろーい」
アイマスクを剥ぎ取るのと同時に無邪気な笑い声がして、その方向を見ると、煌びやかな衣装を纏った女の子がニッコリと微笑んでいる。
「どうも初めまして、固城一途くん。きららだよ」
固城のドルオタ部屋で見た通りの小柄な女の子なのに、目が離せない。ショートポニテの童顔なのに巨乳で魅惑的というギャップが魅力の1つで、明るく元気で親しみ易そうな印象で、何よりもこの子の笑顔は癒されるというか、この子が隣に居たら楽しそうだなって感じてしまった程だ。
「はっ、はい!! 固城一途です!!!」
そう宣言して、きららちゃんから手を差し出して固城と握手。
ニコニコ顔のきららちゃんと裏腹に固城は沈黙で、借りて来た猫の如く縮こまっている。
「あと固城くん、前のイベントにも来てくれたよね?」
「おっ、憶えていてくれたのですか!?」
「うん、また来てくれてありがとう。とっても嬉しいよ」
そうしてギュッと握手を続ける2人。
アイドル相手とはいえ、彼女としてはイラッとする絵面だ。
「あっ、あの……」
「んん? 何かな固城くん?」
「大好きです!!!」
をい。
彼女の前で他の女に大好きって言っちゃったよこの彼氏。
しかも感無量という顔で涙垂れ流しな様子が余計イラッとする訳で、なので目の前のアイドルに負けない笑顔を作ってから2人に割り込む。
「私も握手いいですか?」
「うん、来てくれてありがとう」
「いえいえ~」(ニッコリ)
そうして笑顔の応酬をしてから、
「因みに私は、たった今あなたに大好きって宣言した男の彼女で~す」
「ええええええええええええええ!?!? ちょっと何してるの固城くん!?」
「いやっ、違うんだ!! 確かに見守は彼女だけど…」
「はいは~い。とっくに2秒経過だから出ましょうね~」
「待って見守!! 研修生はもうちょっと時間がああああああ!!!」
駄々を捏ねる彼氏の両手を後ろから拘束、抵抗できない様に腕を捻り上げてから囚人を連行するかの如く移動。こうしてきららちゃんとの握手会が終了したのである。
◇ ◇ ◇
「良かったね、バッチリきららちゃんに認知されたね」
「そうだね! 最低最悪の浮気男ってイメージだけどね!!」
そうして打ちひしがれる固城に、ある質問を投げ掛ける。
「固城、私はあなたの彼女よね?」
「えっ? そうだけど、何で今更?」
「でも私、まだ彼氏に『大好き』って言われた事ないな~」
この指摘に固城が冷や汗だらっだらな顔で戦慄、これで私の正当性と過ちが理解できたらしい。
「いや……、見守も大好きだよ」
「見守『も』?」
「…………見守が一番大好きです」
「ふぅ~ん、そっかそっか~。……………ありがとぅ!!!」
ズガッ!!!(踵落とし)
ふぅ、これでストレス発散完了。
そうしてぶっ倒れた彼氏をベンチに移動させた後、仲睦まじく休憩タイムとなりました。
フィクションですが握手中に騒ぐのはマナー違反ですので。




