一話 『他愛の無い会話』
「…い…おーい。湊。起きてっかー?」
聞き覚えのある声に寝ているところを夢から現実に引き戻される。
「あー…ごめん。少し寝てた。」
「また昨日の夜遅くまで作業してたのか?」
「あぁ…そうだな。」
「執行部に所属してると色々大変なこって。」
「まぁ今に始まったことじゃないけどな。それに俺がやらないとだめなことだし。」
「ふーん…。あ、そんな事よりさ。聞いてくれよ…昨日」
俺たちの会話を遮るようにメールの通知音が教室の中で響いた。自分のデバイスからだった。
差出人は…姉さん?
「おやおや…彼女からかなー?」
彼女なんて居ないのを知ってるくせにこの男、三浦厚志はむかつく顔で聞いてくる。
「早瀬先生からだよ。何の用だろ…。」
メールの内容を読んでみると『新しくこの学園に転校する事になった御影穂香という女の子を案内して欲しい。』との事だった。
「早瀬先生何だって?」
厚志が興味深そうに俺のデバイスを覗いてくる。
「どうやら俺に転校生の案内をしてほしいらしい…けど。」
「けど?」
「それなら一真のほうが適任だろ。」
「あー確かに。あいつなら誰ともすぐに仲良くなれるからそうだな。」
一条一真は俺たちのクラスメイトの一人。そして厚志の幼馴染でもある。
人と仲良くなるのに長けていて基本的に転校生の相手は一真がしてるんだが…と思いながら『一真はどうしたんだ?』と姉に送る。
そうするとものの数秒で『一条くんは今忙しいみたいだから代わりに案内してきて。それに湊のほうが安心して任せれるからお願い。』と返信が来た。
「一真は忙しい…か。」
おおかた女性絡みの事だろう。
「どうせ女子とイチャイチャやってるんだよ。羨ましい。」
―厚志もメールの内容を見て同じような考えを持っていたらしい。
「…それじゃあ行くか。」
少し気が乗らないが頼まれた以上断るわけにはいかない。
「いってらー。」
椅子から立ち上がる俺に厚志が手を振りながら言う
「…やっぱり厚志も一緒に来てくれ。」
「嫌だよ面倒くさい。」
非常に面倒くさそうな顔で言ってくる。
「一人じゃちょっと不安なんだよ。」
「メンドイ。」
「今度俺が飯奢るから。」
「良いだろう!俺が一緒に行ってやるよ。」
………。
――そして二人は転校生に会いに校門へ向かった――