【異界辺境のソルプレーザ】友チョコ
これはまだ、彼らが『あの岩山』にたどり着く前の一幕。
「腹減った」
寝床である大岩の割れ目のそばで、タケルは大の字に寝転がった。
空腹が身体を襲ってきてガス欠だ。
グーっという腹の虫が鳴くが、幸いなことにそれはタケルのものではなく、同じく大地に寝転がる親友のモノだった。
「サイ、腹の音どうにかならんの」
「どうにかできるならしてるよ」
「あー……カレーが食いてぇ」
「言うな」
「ハンバーグ……」
「言うなって! 余計腹が減る!」
「んだらおめえはから揚げ食いたくねえんか?!」
「食いてぇにきまってるだろ! ホットドックも追加するっての!」
「じゃあ俺はチャーハンにラーメンつける!!」
「じゃあそれに俺は餃子もつける!!」
「なに騒いでんだお前ら……」
キヌが戻ってきた。少年たちの怠惰な様子にゴーグルの下のまなざしが険しくなる。
「おい、焚火熾しとけっていったよな」
薪は組まれているだけで一向に煙を上げていない。
「だってまったく点かねぇんだもんよ、火打石」
言ってタケルは足元に置いておいた火打石と打金を持ちカッカッ、と鳴らす。音だけはそれらしいものだった。
「なんっつー不器用な……あのな、これからずっと火起こしも出来ませんじゃシャレにならねえんだよ」
キヌの言葉はタケルでなくサイにぐさりと突き刺さった。
「ごめん」
右手のせいで力加減の微妙な仕事ができないのは彼の目下の悩みの種だった。
「こういうのは、タケルじゃなくて俺のほうがホントは得意なんだけど」
「無いものねだりしてもしょうがねーだろ、ほら、貸せ! 見てろ!」
キヌはタケルから火打金と石を取り上げる、枯草で包みカッカッカと打金で石を叩き、ふうっと息を吹き込むと、白い煙が手の中でこもった。
「おおー!」
と少年たちの歓声が上がる中、キヌはサイが簡易で作った小さな石の薪に火種を入れた。覗き込むように息を吹きかけるとあっという間に炎が上がった。
タケルが歓声をあげる。
「すげーなキヌ! 火の妖精に愛されてんじゃねえの」
「つぎそれ言ったら俺は永遠に火起こししないからな」
「なんで?」
キヌはタケルを無視してドカリと座りこむと、2人に「ん」っと木の皮をはいだものを差し出した。
「なにこれ?」
「いいからかじってみろ」
そう言って、キヌが木の皮をかじりだした。それを見守りながら、タケルとサイも木の皮をかじる。
しばらくして木の皮が唾液で柔らかくなると舌の上に変化が起きた。タケルが驚きの声をあげる
「甘い!」
「だろ?」
「これ、樹液か?」
「正解、向こうの木で見つけた、まあ、満腹にはならないけど」
「気分が全然違う、やっぱ甘い物ってすげーんだな」
タケルが感心したようにため息をついた。
サイが味わうように口に木の皮を咥える。
「友チョコならぬ友樹液だな」
「おい!」
眉根を釣り上げたキヌにサイは肩をすくめた。
「今どきは男同士でだってチョコやり取りするんだぜ、なあ?」
「そうだっけ? どっちみち俺あんま関係ねーし。サイは去年コソコソもらってたよな」
「へーぇ、おモテになるこって」
木の皮をたばこのように加えて笑うキヌとからかうタケルにサイはふてくされて答えた。
「こっちのほうがずっといいよ」
味も、差出人も。
それを言葉には、しないけど。