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【冬籠り】ひまつぶし ※R15 下ネタ注意

突然始まってすぐに終わります。

お年頃の男同士の夜の会話劇

 

 それは仕事も終わり、夕食も入浴もすませ、さあ寝ようかという就寝の時刻にロット・マイルズが突然言ったことに始まった。

「女体について語らないか?」

 休日前の浮足立った前夜、自分の寝台で寝ころびながら頬杖をついて提案する彼に、同じく自分の寝台でゴロゴロとしていた灯寄が逃げるように布団をバフンと被った。

 壱琉が置いていった恋愛小説を読んでいた柊は読みかけのそれをパタンと閉じるとキリッとした端正な顔で言った。

「腹が極端に減ると性欲が増さないか?」

「あるある!」

 ロットがけらけらと笑う。

「灯寄は?」

「僕を巻き込まないでください!」

 布団の中から顔だけだした十五歳の少年兵は顔を真っ赤にして叫んだ。

「えー、いいじゃん。男同士なんだしさぁ。お前も興味あるだろ? 女体」

「ありません!」

「枕の下に風俗小説隠しているのに?」

「なんで知っているんですか?!」

 ロットの暴露に柊はあんまりだと思って灯寄を擁護した。柊の同僚で一カ月だけ先輩の上段の住人はまだ十五歳なのだ。

「違うぞロット、ちょっと性描写が強いだけの小説だ」

「うわああああああああ!! この部屋に個人の自由はないんだああああ!」

 少年は頭を抱えて叫んだ。柊は至極まじめな顔で助言した。

「ロットのように箪笥の引き戸を二重底にしておくといい」

「なんでお前、俺の大人の絵本の場所知ってんの?」

「動きの気配と音でわかる」

「怖いわ! そういうお前はどこになにを隠してんの?」

「持っていない」

 柊の寝台には壱琉がたまに遊びに来る。

 子供の情操教育の悪いものはなるべく置かないようにしていた。

 ロットは口をとがらせる。

「つまんねー」

「まあ、頭のなかは自由だからいいんだ」

「お前って涼しい顔してたまにぶっちゃけるよな。なに妄想してんの?」

「貧乏な絵描きと成金の娘の物語」

 灯寄が羞恥に叫んだ。

「さりげなく僕の本の話をしないでください!!」

 ニヤニヤとロットは灯寄をからかった。

「灯寄純愛系が好きなんだー。へ~」

「なんですかっ、いいじゃないですか! そういうことは好きな人同士でやらなきゃいけないんです!」

「お子さまだなー、イケると思ったらとりあえず手を出してこうぜ」

「あなたは最低だ」

「据え膳って言うだろ」

「じゃあロットさんは女の人なら誰でもいいってことですね」

「可愛くなきゃイヤだ」

「最低だ!」

「あとおっぱいが小さいのもちょっとなー」

 ロットは自分の両手をかざした。

「こう、触ったときにちょっと零れるくらいが一番グッとくる。あと後ろから抱きしめた時、腕に胸が乗る感じがよくない?」

「小さいなら小さいなりの良さがある」

 まじめな顔で柊は語る。

「気にして恥ずかしがっているのが可愛い。小さかろうが大きかろうがめちゃくちゃにしてやりたくなる」

「それ特定の誰かの話じゃなくて女の子全体の話としてだよな?」

「全体の話としてなら掴めればなんでもいい」

 真っ赤な顔で信じられないと灯寄は言った。

「お二人は素面ですよね?」

「灯寄は?」

 ロットはワクワクと尋ねた。

「興味ありません」

 柊は意外だと驚いた。

「尻派か」

「そういう意味じゃありません」

「太もも?」

 思案するようにロットは顎をかく。

「鎖骨とかうなじ? 二の腕とか?」

 柊が割り込んだ。

「うなじは噛みつきたくなる」

「だから女体全体の話をしろ。誰か特定の個人にしたいことだと際限なくなるじゃん。んなこと言ったら俺だって葵ちゃんの膝枕に顔面つっこみてーよ」

 柊は自分の場合はどうだろうと少し考えた。

「膝枕なら俺はされたいよりしたいな」

「いや、絶対されたい。太もも堪能しながら頭なでてもらいたい。匂い嗅ぎたい」

 二人の話に灯寄はいまや茹で上がってしまいそうだった。

 まったくついていけない。

(経験があればいいんだろうか、それともちゃんと好きな相手がいれば……)

 少年は自分の熱に息苦しさを覚えた。

「な……なんでそんなあけすけに話せるんですか」

 恥ずかしくないのか。

 羞恥に震える灯寄にロットは当たり前だと笑った。

「まあ、信頼してるし。な?」

「そうだな」

 柊はうなずいた。

「信頼関係がなければこういう話はできない」

「そうそう」

(……そうなんだ!)

 灯寄は目からうろこが落ちたようだった。

 お互いを知らないとこんなことは話せない。

 ロットも柊も自分を信頼してくれているから話せるのだ。

 灯寄は勇気を出して深く息を吸い込んだ。

 この部屋にいる人間は、生死を共にする仲間だ。

 誰も少年の下心を馬鹿にする人間なんていない。

「ぼ、僕は……僕は大きなおっぱいが好きです。大きければ大きいほどいいと思います」

「うわ、お前見かけによらずムッツリ~!」

「……そういうことにこだわる男だとは思わなかった」



 からかうような笑い声と冷ややかな視線に、少年は少しだけ大人になった。







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