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【病猫に憑かれて破滅寸前な少女】おべんとうばこの唄

 


「ノラ、フキってなに?」


 宿題をしていたまいるが突然ぽつりと呟いた。

 疑問形のアクセントで終わる語感は独り言ではなく俺に向けられたもので、キッチンカウンターの向こう側のダイニングテーブルに広げる書きかけのノートにトントンとシャープペンの先を弾ませている。



「フキ、知ってる? フキってなに?」

「さあ?」


 肩をすくめながら夕飯の仕込みの手を動かす。俺が料理をしているのに合わせてまいるは勉強の時間をとるけど、まいるがこの時間俺に対して何か質問をするというのは稀だ。


「英単語?」

「日本語」


 眉間に皺を刻んで口を尖らせている、可愛い。噛みついて吸い付いて無茶苦茶に味わってやろうか。


「料理の名前だと思うんだけど、想像ができない」

「なんの勉強してんの?」

「宿題も予習も学校でしてきちゃったから、お弁当の中身を考えてた」


 四月に進学した高校の授業内容は俺の可愛いご主人様の頭脳には些かどころかだいぶ物足りないらしい。つまんなかったら辞めてもいいのに、律儀に毎日学校に行っている。


「お弁当の唄に出てくるおかず、フキについての正体がわからないんだよね」

「ネット検索すればいいジャン」

「設問に対して自分なりの答えも出してないのに解答結果を見るの好きじゃない」


 なるほど、これはまいるにとって頭の体操なワケだ。


「どんな食べ物かなぁ、唄になるくらいだからとっても美味しいはずだよね」

「歌があるんだ」

「ノラ、お弁当のうた知らないの?」

「聞いたことない」

「えっとね……」


 鈴を転がすような声でリズムとテンポの狂ったトンチキを歌いだす。

 ほとんど日本語になっていない、かろうじて聞き取れたのは「おにぎり」「れんこんさん」そして「フキ」だ。


「それ自分で作った?」

「ホントにこういう歌があるんだって、習ったことはないけど……歌ってるのは聞いたことあるもん」

「絶対歌詞間違ってるって、弁当のなかにキジとオオカミいるジャン」

「キジとオオカミの肉がはいってるんでしょ、昔の唄だからちょっと野生的なんじゃないかな」

「数字が踊ったフキは?」

「正体不明。個人的には幻覚作用のある木の実だと思うんだよね。ほら、栗とか近い感じがしない? 二文字だし」


 文字数しか合ってねえよ。


「昔は食材の流通が困難だったから全部山の幸だとは思う」

「現代社会の流通にも乗ってないデショ」

「キジとオオカミは足の本数的に鶏と牛で代用できる」


 肉の種類じゃなくて幻覚作用のある木の実の心配をした方がいい。

 話していて、まいるは興が乗ってきたのか楽しそうにノートを書きなぐっていく。


「こんな感じじゃないかな」


 描きあがったのは弁当とは思えない奇怪な落書きだ。


(歌も絵も下手だなぁ)


 額に飾って現代アートだと偽り都心あたりのギャラリーで高い値札を掲げて飾っておけばバカが騙されて買っていきそうではある。

 本当に勉強しかできない、頭でっかち。


「作って欲しいって意味じゃないから」


 まいるは苦笑しながら頬を掻いてノートを閉じた。


「ただちょっと遊んでただけ」


 遠慮の仕方も嘘も下手、期待しているのが見え見えの浅はかさ。

 なぜかそれがとても愛おしい。


「今度作ってアゲル」

「えっ、いいよ! そんな、わざわざ……」

「幻覚作用のある木の実はナシだよ」


 その代わり食べたら乱れ狂うほどの愛情をたっぷり入れよう。


 まいるはちょっとだけ恥ずかしそうにしたあと笑った。

 そのはにかむ笑顔が大好きでオオカミでもなんでも狩ってきてやりたくなる。


 ネット検索したらまいるが歌った唄はやっぱり盛大に歌詞を間違えていて、2人で笑い合った。一週間後、食材を揃えて歌詞の通りに作った弁当を持ってまいるは学校へ行った。


 帰ってきて渡された弁当箱は空っぽ。


「美味しかった?」


 野良猫さんの愛情弁当。


「うーん、お肉がたりなかったからもういいや」

書き殴り。誤字脱字あとで直す。

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― 新着の感想 ―
[良い点] おだやかなごやかいちゃいちゃごちそうさまです(約一名の心中は不健全ですがそれはいつものこととして)。 オオカミの肉は臭そうですね。あとかたそう。 キジはおいしいらしいので、いつか感想聞きた…
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