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【冬籠り】柊、合コンする。(男にはやらねばならないときがある)前編

修正中です。

 陽光が差し込む窓に今年最初に霜が降りた朝のことだった。

 王城の奥宮、王一家の私的な生活を送るうちの一室(ひとへや)、家族がそろって食事をとる団欒の場。

 そこにある備え付けの質素な暖炉に壱琉は息を吹き付けた。

 少女の吐息に撫ぜられて小さな火種がぼうっと明るく灯る。

 パチリと薪が爆ぜたのを眺め、ぎっくり腰が治りようやく椅子に座っていられるようになった玖欄国の王、(ここの)(かみ)穂積(ほずみ)は手元に届いた手紙を読みつつ笑った。

「上手なものだ」

 併設の小さな台所で妻が手ずから作る朝食の香りに薪特有の燃える匂いが混じった。

 冬の朝の匂いだ。

「これってもっと早く点けられないかな?」

 ぼんやりと暖かくなってくる暖炉に手をかざしながら頭の上に()(いと)を乗せた壱琉が穂積に顔を向けた。

 洗いざらしの木製の卓の上に置かれた数通の手紙を吟味しながら穂積は笑い声をあげた。

「僕も昔同じことを考えたことがあるよ、それで新しい魔法を編み出した。二度とするなってお母さんに言われてしまったけれど」

「なんで?」

「城が火柱になりかけたからよ」

 湯気立つ朝食を盆にのせた葉加が呆れた声で娘に教えた。

 壱琉は物心ついた頃からある天井の黒ずんだ焦げ跡天井に目をやった。

「あれってそうだったんだ!」

「二人に話があるんだ、今年の建国祭だけど……」

 穂積は読んでいた手紙をぞんざいに卓に投げ捨て家族に顔を向ける。


「僕はバックレようと思う」




 ◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆




 西の空が赤く滲んでいた。

 冬特有の低い雲が夜色になった時間。

 奇しくも彼らの王が混乱を呼び起す宣言をした日の夜。

 なにも知らない男たちは王都の繁華街の一画、白を基調にした硝子細工雑貨の美しい一軒の店に集まっていた。

 若者達で賑わう店内は花で彩られ、虹色の蝶が給仕に忙しなく飛び交う。耳に心地の良い音楽が流れているのは鳥籠に入っている桃色の小鳥が奏でていた。

 そんな煌びやかな店の片隅で

「どういう恰好で来てんだよ。趣旨わかってる?!」

 ロットが遅れてやってきた柊の服装を見て声を荒げた。

「それいっつも着てる部屋着じゃん!」

「これしか持ってない」

 質素な麻の長袖と深緑色のズボンは以前、家族旅行中の(ここの)一家に助けられた際、穂積のお下がりでもらったモノだ。

 渋面を浮かべつつ柊は椅子に座った。

 ロットは隣に座るクチナワを指さして言った。

「蛇文をですらちゃんとキメて来てんのに」


「当然だ。講師に失礼があったら困るからな」

 クチナワは頷いた。

 仕立ての良い、それなりに流行りに乗ったカッチリとした服は彼の実直さを良く引き立てている。

 柊を呆れた目で眺めクチナワが言った。

「服くらい買ったらどうだ。壁門守衛団は衣類も買い渋る給金なのか?」

「給料についちゃアレだけど、蛇文良いこと言った」

「……別に衣食住足りてんだから必要ない」

「バッカお前、稼いだ金は楽しいことに使うんだよ」

 ロットのボヤキに柊はハッとした。

「あー……もう一緒に出ればよかった……」

「仕方ないだろう、(ごう)()が付いてきたがったんだから」

「で? 亀さんはちゃんと置いてきたんだろうな」

「いや、お前の足元にいる」

「うわっ!」

 ロットは足元を見ると思わず片足を上げた。白木の長卓の下に気配もなく収まっていた老亀がいた。

「どーしよ葵ちゃんに幻滅されたら」

 頭を抱えたロットにクチナワが首を傾げる。

「今日の講師は知り合いなのか?」

「医務官だろ、療養棟の」

 柊が呆れたようにクチナワの隣に腰を下ろした。

「は?」

 七色のガラス細工の照明に照らされた中でクチナワが訝しむ。

「乙女心の講習会だろ?」

「いや、女を口説く会だ」

「俺、葵ちゃん狙いだからお前ら他の子よろしく。コレ終わったらこっそり二人でバックレるから」

 繊細な網模様の布を敷いた長卓で横一列に座ったまま、クチナワはぽかんと正面の空いている席を見た。

「……?! じょ、冗談じゃない! 俺は帰っ」

 弾け飛ぶように立ち上がりかけたクチナワの肩をロットはガッと抑え込み、椅子に腰を落とさせた太ももの上に柊が強羅をさっと座らせた。

「っぐ!?」

「任務放棄は良くないぞ」

「騙したな! なにが乙女心の講習会だ! 妙だと思ったんだ」

 意地悪くニヤリと笑う柊にクチナワが顔を真っ赤にして怒った。ロットがクチナワの肩を叩く。

「女の気持ちは女に教えてもらおうぜ、いいじゃん蛇文。別に今まで一度もお付き合いしたことないわけじゃねーだろ?」

「悪いか! 俺は結婚相手以外とはそういう不埒な真似はせん! ましてや……こっそり二人でなんてっ、…………なにを笑っているマイルズ」

「ごめん、面白すぎて、顔にでちゃう。やばい。今までないの? 一度も?」

「貴様叩っ斬るぞ、同じ独り身のくせに」

「俺は彼女いたもん。柊は?」

「え? 俺、は………………」

 興味津々に見てくる二人から目をそらし柊は居心地悪く答えた。

「……彼女『は』いなかった」

「死ね」

「地獄に落ちろ」

 言葉の裏を読み取ったクチナワとロットがそろって呪いの言葉を吐いた時だ。鈴を転がした華やかな笑い声が店に入ってきた。

「あ、マイルズさん。お待たせしました~」

 声をかけてきたのは長い黒髪の美女。その後ろから彼女の連れの二人が顔を見せる。

 男たちの空気が変わった。



 両陣揃い踏み。


 男と女


 思惑交じりの乱痴気騒ぎが始まった。



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