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【写楽】○○しないと出られない部屋。

【写楽】○○しないと出られない部屋。



「ここは……?」

 イツキは目を瞬いた。

 寮の自室で寝ていたはずなのに気がついたら見知らぬ部屋に移動していたからだ。

 い草の薫りがかすかに鼻をくすぐる六畳一間の和室。

 見覚えのない部屋にはもう一人、良く見知った人間が寝転がっていた。

「ガクさん!?」

 慌てて身体を揺り動かすと「んがっ」というイビキが聞こえた。

 イツキはホッと肩を落とす。

(良かった……生きてる)

「ガクさん、ガクさん起きてください! ねえちょっと」

「……んだようるせえな。新しい画用紙帖なら二階の棚に……」

「違うんですってば! 起きて!」

 切羽詰まったイツキの声にガクは一つしかない眼をゆっくりと瞬くと不機嫌にイツキを認めて眉根を寄せた。

「……夜這いか?」

「ホコクさんに言いつけますよ?」

 イツキの言葉にガクは舌打ちをすると渋々と起き上がった。

 イツキは少しドキリとした。

 彼の寝起きの仕草にではない。

 ガクが眼帯をしていなかったからだ。

 前髪で隠れた右目からはうっすらと傷跡が見えてイツキはサッと目をそらした。

(そりゃ……寝るときは、しないよね)

「……ここどこだ?」

「それが私にもさっぱりで……寮の部屋で寝ていたはずなんですけど」

 二人は首をぐるりと見渡した。

 四方を土壁で囲われた和室は一枚だけはめ込み式の障子戸があった。

 その障子戸には一枚の紙が貼りつけられていて……。


 ――『ウインクしないと出られない部屋』と書かれていた。


 イツキに衝撃が走った。

「ガクさん大変です!! ウインクしないと出られないって……!」

「読みゃわかる」

「どうしよう、ということは一生この鉛筆も筆もない部屋で……絵も描けずそれ以上にガクさんと二人きりで過ごさないといけないってことで……悪夢です!」

「俺に対する配慮をもう少ししろ」

「ウインク! ウインクさえすれば……!」

 ばちん、とイツキは目を閉じた。両目を。

「あれ? えいっやあっとうっ! あれ? 出来ない……片目だけってどうやって瞑れば……?」

「お前馬鹿なの?」

 イツキは聞いてはいなかった。一心不乱に目をぱちぱちさせていた。

(……ただのまばたきを必死にしてやがる)

 滑稽で少しだけ可愛いと思ったのは内緒だ。

 通算五十回目のまばたきをしたイツキは項垂れて畳に両手をついた。

「うぅ……できない。思えば私は人生で一度もウインクなんて小洒落たことをする機会もされたこともなかった気が……」

「色気のねえ人生だったな」

「そう言うガクさんはどうなんですか?!」

「……」

 涙目でキッと睨みつけられ、ガクは少し考えた。

 すると彼は節くれだった大きな手でイツキ頭をわしゃわしゃと撫でた。

「なんです……?」

「安心しろ、俺が出してやる。こんな一筆も書けない場所にいつまでもウチの絵師をいさせられるか」

 イツキの涙にぬれた目が大きく見開いた。じんわりと胸に熱いなにかがこみ上げてくる。

「ガクさん……」

 よっとガクは立ち上がると大股三歩で部屋を横切りはめ込み式の障子戸を押した。

 ガタン、と音がして障子戸はあっけなく押し開かれた。

「え? なんで……?」

 イツキは困惑してガクの顔を見た。

 ガクはフッと笑うと自分の隠れた右目を指さし言った。

「俺、常時ウインク状態だから」


ウインクできますか?

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