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優男の流儀

 キティが自室で本を読んでいると、コンコンと扉をノックする音が聞こえた。本のページ上部に付箋代わりの紙切れを挟んでから閉じ、

「入れ」

 と静かに言った。

 その声に従い扉から入ってきた人物は、フェイルドマンだった。

 フェイルドマンは、キキの団の副団長にして、キティより作戦立案や資材の調達など、様々な重要案件を任されている。実質的にこの盗賊団を運営しているのはこの男だと言っても過言ではないほどだ。

 そして、キティが参謀として全幅の信頼を寄せるほどの優れた才知と魔法使いとしての力を兼ね備えている。ただ、いわゆる優男と呼ばれるような見た目なので、多くの人間は第一印象でこの男を見や誤る。


 キティは何となくきまりが悪くなるのを感じて、顔を顰める。今、あまり顔を見たくない相手の一人だ。

「夜遅くにすいませんね」

とフェイルドマンは言う。彼の顔にはいつものように優男然とした笑みが張り付いている。

「用件は?」

 キティは本を机の引き出しに入れてから、尋ねた。

「いえ、朝は時間がなくてあまり長話できなかったものですから、件の少年について話をしようと思って」

 予想通りフェイルドマンはそのことに触れる。できればあまり触れてほしくはなかったけど仕方がない。

「あっそ。なんか文句でもあるのか?」

「文句はないですけど、少し気になって。どうして奴隷になんてしたんです?しかも、紋まで使って」

(ん?思っていたよりも口調が柔らかいな)

 キティは少年を奴隷にしたことに付いて、フェイルドマンにしつこく言及され、説教されると思っていたのだ。

「ただ、殺すよりはそうする方がいい、と思っただけだけど。それとも逃がした方よかったか?」

 アジトの近くの森まで連れてきた者を生かして返すのは、基本的にはご法度だ。こう聞けば、相手も多少なり納得するだろう、と思った。

「ここまで連れてきてしまったのなら仕方がなかったと思います。ただ、最善はその場で捨ててくることでしたでしょうね」


 そう言われて、数時間前の戦闘を思い出す。なぜあの場で少年に興味を抱いたのか、と今問われても、キティには判然としない。適切な回答を探しても、それこそ「何となく」や「気まぐれ」としか答えられそうもない。

「あの場では面白そうな奴だと思って連れてきたんだよ。ただ、かなり強情で脅したとしても言うことを聞きそうになかったから奴隷紋を使った」

 キティは、赤い瞳を半分隠し、ジト目を作って、「悪いか?」とでも言いたげに投げやりな態度で答えた。それはほとんど嘘偽りのない本音だった。


 フェイルドマンにしてみれば、その態度はもうほとんど降参の合図のようなもので、これ以上キティを突いても、彼の欲するような答えは得られないのは明白だ。どころかキティが拗ねてその後の会話にも支障をきたしかねない。彼女への追及はここらが打ち切り時だった。

「その辺りの感性についてはキティ独特のものですから、僕にはわかりません。それで、これからその少年をどのように扱うつもりですか?」

 キティにしてもフェイルドマンが話題を変えてくれるのは助かる。とはいえ、具体的にどうするかまでは考えていなかったので、困ってしまう。

「そりゃあ・・・奴隷として扱うだろ。そうだな・・・なにか、雑用とかでもやらせてればいい」

「冒険者の少年でしたよね?」

「ああ、たぶんDランクくらいじゃないか?そういうクエストだったからな」

 冒険者にはAからFまでのアルファベットで6段階にランク付けされている。少年の年齢でDランクというのはかなり稀有だと言えた。ちなみに、王国の兵卒がFかDで、騎士にもなるとDからBまでの実力を有する。もちろん、冒険者の本業は『冒険』であるので、兵士に求められるような単純な戦闘能力からは評価の基準がずれることになる。

「あの年で、Dランクですか。前途有望ですね。あなたが気に行ったのはそういうところに、ですか?」

 予期せぬところから、再び聞かれたくない質問をされ、キティは再びフェイルドマンを睨む。フェイルドマンとしてはヒントのつもりで送った言葉なのだが、意外にもキティは別の答えを用意した。

「俺は別に戦力になると見込んで連れてきたわけじゃないぞ。ただ・・・あいつの瞳、というか眼が気に入っただけだ。まあ、根性はありそうだったけどな」

 キティは、少年の引き込まれるような深い青い瞳を思い浮かべる。少なからず他人を魅了できそうな綺麗な瞳だった。実際、キティも第一印象は、と聞かれれば綺麗な瞳の少年だ、と答えるだろう。キティは、彼の瞳をそれなりに気に入っていたし、その眼に不屈の強い意志を見て取っていた。

「それなら、なおのこと雑用だけ任せておくのは辛いのではないですか、お互いに。それと絶対逃げようとしますね」

「その言い方は大分語弊があるだろ。とにかくしばらくは雑用でもさせて様子を見る。逃げないように魔法で・・・」

 キティはそこで言葉を止めて、少し考えこむ。

「いや、逃げた時は追いかけて連れ戻せばいい」

にやりと悪い笑みを浮かべて、

「逃げられると思うなよ」

と下で寝ている(気絶している)少年に向かって呟いた。

 その様子を見て、フェイルドマンは内心でため息をつく。

(かわいそうに。せめて私が逃げないようにできる限り助けてやらねば)

こうして知らず知らずのうちに、少年の奴隷生活を送る上での貴重な仲間が一人増えたのだった。



「ところでお前、酒は飲めたか?」

 キティがごそごそと棚からワイン樽とグラスを二つ持って来て言う。

「いえ、私はほとんど飲めませんよ」

「ああ、そうだったか。まあ、俺もどちらかと言えば弱い部類だ」

 そう言いながらも二つのグラスにワインをなみなみと注いでいく。

「私も飲むんですか?」

 フェイルドマンはキティがグラスを二つ用意した意図がよくわからず尋ねた。

「別にいいよ。おまえの分も俺が飲むから」

 そう言って二つまとめて煽ってしまう。あまりの飲みっぷりにフェイルドマンは少々不安になってしまう。

「今日はちょうど満月だ。酒を煽るにはちょうどいい」

 そう言ってから再び二つのグラスにワインを注ぐ。

「それならば、外に出ますか?今夜は晴れでしたから、月が良く見えるはずです」

「いや、ここでいいよ。心の目で見るからいいんだよ、こういのは。そのほうがよく見えると思わないか?」

 キティは、片方のグラスをゆっくりと喉に染み込ませてから、目を瞑る。

 だいぶ抽象的な言い方をしてしまったが、察しのいいフェイルドマンなら理解できると踏んでいた。というより、あまり細々と言いたくない気分だったのだ。たとえ理解できなくても、彼ならばそれを踏まえた上でその辺りの事情もすんなりと飲み込むだろう。

 彼は異常なほど聞き分けのいい男なのだ。そして、そのことをキティはとても気に入っていた。

 フェイルドマンはテーブルに余ったもう一方のグラスを少し飲んでから、キティを真似て目を瞑る。高級感のある芳醇な葡萄の香りは、すぐに苦手なアルコール特有の心地悪さに押しつぶされてしまう。ただ、不思議と後味は悪くなかった。

(なるほど。こういう時に飲むワインというのは悪くない)

 そんな鑑賞に浸りながらゆっくりと口を動かす。

「ああ、確かに、私にも見えてきましたよ」

 瞼の裏には、あの時に見た満月が確かにあった。


細かい設定とかは考えてないですが、取りあえず形から入ってみようってことで、幾つか伏線?を張ってみたんですが、2~3個回収できればいい方かなと気軽に考えてます。

それと、少し小説っぽく?かっこいい感じで書いてみたんですが、多分これ後で見たらすごい痛い感じになってると予想してみます。


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