弱者の主張と強者の理屈
小説を書くのはほんとに難しいですね。楽しそうだから、と思い付きでやってしまったんですが、普通に書くの、面白いですね。
読んでくれる人が一人もいなかったら寂しいけど・・・
キティは地面に積み上げられたその日の戦利品を眺める。そこには盗賊団の一週間分にも及ぶ食料と大量の塩と、それと小さな樽があった。樽の外装に書かれた文字からして、その中身は赤ワインだとわかった。
そのすぐわきを、大柄な男たちが荒っぽくそれらを運んでいく。しばらくして、戦利品はあらかた運び出され、小さめの樽だけが残った。
そして、そこから少し離れたところに一人の少年がいる。少年は縄で縛られながら、喜びの表情で小さなワイン樽をしげしげと眺めているキティを、恨めしそうに睨らんでいる。
少年が気絶から覚醒した時には、すでにこの状況が出来上がっていた。
キティは、少年に睨まれることなどこれっぽっちも気にしていない。ここに連れてきたのもほとんど気まぐれに近かったのだ。少年のことなど目の前の樽に比べれば些末なことのように思えていた。
初めのころは、しばらくは少年を眺めていたのだが、今ではすでに彼女の関心の多くは、小さな樽の中身へと移っている。それは貴族が所有していた上物のワインで、彼女にとっても思わぬ収穫だ。
(取りあえず、この酒は俺の分で決まりだな)
キティが、「これはかなりの上物だろうな」と辺りをつけて、後で自分のご褒美にでもして楽しもう、と上機嫌で考えていると、少年が口を開いた。
「おい、お前。俺をどうするつもりだ」
キティはその言葉を聞くと、一度視線を少年に移した。
「どうするつもりと言われても、なあ?子供を殺すのが忍びないから生かしておいただけだし・・・」
は腕を組んで少し考える素振りを見せた。
(こいつ・・・あれだけのことをしておいて、なんて白々しい奴だ)
少年は、怒りに身を震わせる。彼にしてみれば、あれだけの人を殺しておいて一切の動揺を見せず、おまけに自分のことを眼中にないと言わんばかりのキティの態度が、許せなかった。
「おい。こんなことをしてタダで済むと思うなよ。お前が襲った貴族はあの町の領主様だ。すぐにでも軍がやってくるぞ。覚悟しろよ、悪党!」
実際、少年の主張は痛いところをついていて、これからしばらくはやってくる可能性の高い王国の軍隊をどう対処するか、について盗賊団で議論になるだろうことはキティにもわかっていた。
ただそれとは別に、少年の分を弁えない態度に、少しイラッと来たキティは彼に立場をわからせることにした。
「殺さない、と言った覚えはないはずだが?」
「っう」
キティが目を細めて静かに睨むと、少年は押し黙るしかない。盗賊団の男達でさえ、彼女の真っ赤な瞳で睨まれればほとんどが竦みあがるのだ。
しかし、それでも少年は屈しなかった。
「殺せるもんなら殺しても見ろ!山賊に情けをかけられる覚えはないぞ!」
(こいつ・・・)
キティは、腰に掛けた剣に手をかけたところで、ひと月前に奴隷商を襲った時に手に入れた奴隷紋が一つ余っていたことを思い出した。
(最悪、あれを使えばいいか)
キティはすぐに、その場で結論下すことを諦めた。近くにいた手下の男を一人呼んで、言伝を一つ頼む。
そして、樽の方へと歩いていくと、樽を片手でヒョイと持ち上げて、人差し指でくるくる回して遊びながら、森の奥へと姿を消す。
その山の森の中には、盗賊団のアジトがあり、少年も大柄な男に担がれて、戦利品と共に洋館の倉庫へと運び込まれていった。
キティが山の、森の奥に立っていた洋館の自室で、ワインを嗜んでいると、ドアをノックする音が聞こえた。
キティは椅子に座ったまま、短く言った。
「入れ」
盗賊の男がドアを開け、先刻捕らえた少年が連れられてくる。
少年は先ほどと違い、だいぶ落ち着いているようだった。
男は、手に持っている物をキティに渡すと、無言で一礼して、部屋を出た。
その一連の動作を眺め終わった少年が口を開く。
「俺をどうするつもりだ?」
「少なくとも、殺すのはやめにした」
とワインを一口飲みながら言う。
「俺の仲間をあんなに殺しておいて、どの口が言うんだ」
「俺は盗賊だぞ。あの場であいつらを逃がしてどうしろと言うんだ」
少し語気が荒げてしまったのを自覚して、ため息をついてグラスを自室のテーブルの上に預けて立ち上がった。手には男から受け取った物が収まっている。
「じゃあなぜ俺を生かした」
「気まぐれだ」
キティはつまらなそうに言う。
「クソが」
と少年はそう叫ぶと、後ろ手に縛られたまま、キティに肩でタックルをかまそうとするが、ヒラリを横にかわされ、壁に激突する。
「血の気の多い奴だな。そもそも、あそこにいた冒険者は本当の意味でのお前の仲間、とは違うんだろ?」
キティが言った「本当の意味での仲間」というのはここでは冒険者として旅を共にするパーティメンバーを指していた。そしてそのことを少年も察した。
「そりゃあ、パーティを組んだことはないが・・・何度かギルドで顔を合わせた奴だっていたぞ!」
と叫んで再び突っかかるが、今度は力ずくで地面に組み伏せられた。少年にとっては直前の質問だけで激怒するに十分だったのだ。
組み伏せられても、必死で抜け出そうともがくが、キティの身体はピクリとも動かない。
(なんて力だよ。ほんとに女かこいつ)
その力の差を目のあたりして、愕然とする。
少年は、まだまだ新米と呼ばれはするが、少なくとも心はれっきとした冒険者のつもりだった。自分より遥かに強い強者と呼ばれるような人たちがいることも弁えているつもりだ。
だからこそ、目の前の女こそがまさにそれなのだとすぐに理解することができた。
理解すると、不思議と今の状況にも納得できた。結局、弱者が強者に狩られただけなのだと。
「もういいだろ。殺せよ」
震える小さな声だった。
キティは少年のそんな様子を無感情な瞳に映しながら、小さきため息を零し、言った。
「最後に一つ聞くぞ。お前は俺に屈服するくらいなら死を選ぶんだな?」
少ししても、返事はない。
キティは手に持った奴隷紋の魔石に魔力を注ぎ込み、小声で言った。
「お前がもう少し従順だったならこんな手は取らなかったと思うんだが・・・悪いな、これを使うのは自分でも嫌になるけど、一番手っ取り早いし、お前になら使ってもいいような気がする」
その瞬間少年は意識を失う。部屋では、大きな魔力の奔流がうねる様に二人の周りを覆っていた。
その日、少年は奴隷となった。
色々手直ししないといけないな、と思いつつも取りあえず思いついたことを書くような感じで進めてみます。色々手探りで試して、ダメだったら後で直します。
行き当たりばったりな方が、色々設定こねくり回すより書きやすいんじゃないかと思ってるので、どうせサイトの片隅で消えていくさだめだと思うので気にせずに書こうかなと。