僕と彼らと
今日もいつも通りの日常を過ごしている…と言いたいところだがある小さな事件が起こっているので言えない。
その事件とは、あの馬鹿犬が、本を忘れて行ったという事である。
これで僕も噂がたつのはどうだって良いが、あいつは嫌だろうし、増してや家に帰るのが遅れてしまうのが一番の汚点だ。
どうして汚点なのかをは後で説明するとして、爺ちゃんに連絡を入れて荷物と本を持ち、図書館へと向かった。
僕はこの時に考えを変えていればと思うべきだったのだろう。
そんな事を一つも考えずに図書館の前までくる。ここまでくれば誰1人もいない。この廊下は誰も使っていないかのように静かだ。
僕はノックをしっかり三回して、ドアを開け、すぐに閉めた。
僕は見てはいけない物をみた。
いやいや、つかれているのか⁈
なんだ、疲れているなら帰って改めてくるか、あいつにわたすか。
僕が180度回転して、元来た道を歩いて戻ろうとしたいと思うが、叶わなかった。
僕の襟を掴んでいる何かによって。
「うわぁあ⁈」
ドンっ!っと尻餅をつき、前をみると扉の閉まった図書館へと入り込む。
「イテテッ。襟を離せ!」
「あっ、すいません。」
謝った声はあいつではない。そこはどうでも良い。声の距離が明らか遠い。
急いで振り返った先に見えたのは過ごし、クシャッとなった文字の書かれた紙の手が浮いていたのだ。
さっき、僕がみた紙のウサギが解かれ、手の形になったかのように。
「君がしたのか?旭原 数騎。」
「ひっ⁈」
僕がすこし睨むと怯えた声をあげ、縮こまる。
その瞬間、首もとに軽く何かが添えられる。
刃物のようなものだ。とても綺麗な紫陽花の描かれている。
「あなたは何者?どうして驚かない。」
「僕の家は道場で、剣術を少々習っている。」
「っ!だからって、非科学的な事がおこってるのよ⁈」
後ろから聞こえる声は女性のようだ。とても荒げた声をあげ、焦っているようだ。
僕が彼女の立場でも同じことをするだろう。他の人だと慌てて逃げるだろうから。
僕は「それなりに経験者」とでも表されて良いだろうところだから。
「何事だ?」
「夜空先輩!」「夜空さん!」
彼らは声の方を振り向いたと同じように僕も振り向く。
「⁈そういう事か。覇夜美、剣を下せ。」
「はい。」
カシャンと下ろし、手元の刃物は徐々に縮んでいき、本の栞になった。いや、戻ったと訂正しよう。
「何の用だ。」
殺気のある強い眼差しで彼女は僕を睨んでくるので、本の持っている方の手をあげる。
「本を返しに来たんだよ。誠は…いない様だから帰ろうと思う。この事はもちろん漏らさない。」
「誠だと?」
ガラガラと扉が開いて、
「ん?呼んだ?…えっ、咲見⁈なんでここにいるんだ⁈」
「貴様のせいだとは思わんのか、馬鹿。」
僕は持っている本をひらひらと揺らす。
すると、やっと気付きたのだろう、ピクッと反応をみせる。
「あれ?忘れてた⁈ご、ごめん。」
「別にいい。この状況をどうにかしろ!」
「えっ、もしかして、ばれた⁈」
「そのまさかだ。」
彼女は凄い怒りのオーラに包まれながら、見事なチョップを食らわす。さすが、幼馴染というかの様に容赦がない。
馬鹿は涙目になりながら、「ごめん」と手を前で合わせて、その手よりも深く頭を下げる。
「ど、どうしたらいいかな?」
「…。」
「くっ!」
「夜空!」
彼女は無言で僕のもとへと歩みより、僕の前で本を開いたと同時に文字が僕を壁に押し付ける。油断していた僕はもろに背中に痛みを覚える。
そんな姿にあたふたする、馬鹿。
「…さよなら。死んで詫びて。」
その言葉と同時に文字は一つの縄のようになり、首に巻きつく。何もかも一瞬で理解した。
…死ぬんだ。
僕はそっと目を閉じ、きつくなる縄を感じながら、苦しさを味わっていた。
死の世界とはどんな世界なのだろうと。
バタン!
「イテッ!」
苦しさとは違う痛み。
また、尻もちをついた痛みだ。
死ななかった?なぜ?彼女の殺意は本物だったのに…。
彼女の方を僕は見た。
彼女もまた、唖然として、ぼーっと立っていた。
「貴様が…。」
ノイノーなのか?と。