エルフの姉妹
お正月に体調を崩してしまいました。
修行を始めて1ヶ月が過ぎた頃、影狼は食材を探すために森で狩りをしていた。今追っているのは体長3メートルはある苔の生えた猪だ。木の枝を跳び伝いながら、森を疾走する猪を追いかける。次第に猪の速度が遅くなりいきなり倒れ始める。脚をピンと伸ばし痙攣している。先程放った毒矢の効果が出てきたらしい。
痙攣している猪に近づき、矢の刺さった場所を少し大きめに肉ごと抉り捨てる。素早く持っていた縄で後ろ脚を縛り、3メートルもある巨体を木に吊るし上げる。刀を喉元に突き立て動脈を切ると血が流れおちる。
血が抜き終わるのを待つ間、周辺に生えている山菜やキノコと木の実なども集める。森の幸を集めていると、大きな木の根元に白く輝くキノコが1本生えていた。
(珍しいですね、プラチナムマッシュルームですよ。あれは年に数本この森に生える希少なキノコです。運が良いです。良すぎです。あっ!!あっちには山菜がいっぱい生えてますよ。行ってみましょう)
楽しそうだな・・・そんなこんなで腰に下げた籠に適量に採りおわると、猪を吊るした場所まで戻ろうとする。すると、猪を吊るした木のそばに人の気配を感じた。木の陰から覗き見ると、1人の少女が吊るしてある猪を見上げている。金髪のボブヘアで、髪からは尖った耳が出ている。年齢は俺より5、6年下だろう。
「アオ、ここら辺に人間は住んでいるのか?」
ここ1ヶ月この辺りで過ごしてきたが、人など見たこともなかった。
(あ〜、あの子はエルフですね。ここから少し離れたところにエルフの集落があったと思いましたが、ここまで来ることはあまりないですね。どうしたんでしょうか?あんな小さな子がこんなところまで・・・ところで影狼、お客さんですよ)
すると、背後から女性の声がかかる。
「∇≠□◇〜,>∠〃⊥+\⊿!!」
背後を見ると弓をこちらに構えている金髪で髪の長いエルフの女性がいた。その声にビクッと震え、エルフの女の子がこちらを振り向く。よく見ると弓を構える女性と顔が似ている気がする。姉妹だろうか?
しかし、言葉が理解できない。するとアオが
(そうでした、影狼はまだこちらの言葉は知らなかったですね。待っててください。一時的に言葉が通じるようにします)
そう言うとアオは辺り一帯に青い魔力を結界状に放出する。そしてすぐに
(はい。これで大丈夫です)
とアオは言った。改めて、エルフの女性の方を見る。
「動くな!!ここで何をしている」
今度は言葉が理解できる。
「あなたは何者?1人で何をしていたの?他に仲間は?」
エルフの女性が問いかけてくる。
ん?1人?影狼はそう思った時、アオから説明があった。
(私の姿や声は基本的に影狼にしか見えませんし聞こえません)
そうなのかと思いつつも、エルフの女性がさらに強い口調で問い詰めてくる。
「黙るな。早く答えて!!」
影狼はどうするか考える。別に嘘を付く理由もないが、このエルフの性格がわからない以上下手なことも言えない。探りを入れて見るか・・・
「見ての通り、狩りをしていただけです」
「あなた1人であのビッグモスボアを狩ったの?」
「はい」
どうやらビッグモスボアとは、あの猪の名前らしい。
エルフの女性はしばらくビッグモスボアの方を眺めてから弓を下ろす。
「ごめんなさい。最近この辺に密猟者の類が多くて。時折我々エルフと鉢合わせになり争いになることがあるの。特にビッグモスボアの牙は高値で取引されているから。血抜きをしているところを見ると、牙が目当てではないことがわかるけど、ビックモスボアの数が減り森の生態系がおかしくなりつつあるから、こいつを狩るのは控えてもらいたいわ」
「分かりました。なるべく控えるようにします」
どうやら密猟者を警戒していたらしい。
「それにしても、よく1人であいつを狩れたわね。ビックモスボアは体が大きいわりに素早いから大変だったでしょ。普通は1人で狩るような獲物ではないのよ」
「そうですね。でも、なんとか狩れました」
「なんとかね・・・」
「・・・」
「・・・」
しばしの沈黙・・・
「お姉ちゃんっ!!」
女の子の声が沈黙を破るり、女性に駆け寄り抱きつく。
「リュース、驚かせてしまってごめんね」
「ううん、私こそ勝手に行動してごめんなさい」
すると少女と目が合うが少女は女性の後ろに隠れてしまう。
「ごめんなさい。この子は少し人見知りなの。そういえば、自己紹介がまだだったわね。私はリュミエール。この子は妹のリュース。見てわかると思うけどエルフよ。それであなたは・・・」
「影狼です・・・」
「カゲロウ・・・珍しい名前ね。街の人間?」
「はい、自然に囲まれて生活しようと思いまして少し山籠りをしようと思いました」
(・・・少し理由に無理があったか)
と思いつつも
「そう、人間にしては殊勝な心掛けね」
リュミエールが少し感心している。そこで、ふとリュミエールの視線が籠の中に移る。そして、少し驚いた顔をして
「カゲロウ、その籠の中のものは・・・」
「籠の中のもの?これですか?」
籠の中から先程採ったキノコを出す。
「プ、プラチナムマッシュルーム・・・」
「偶然見つけました」
「も、もしよろしければ1本譲ってもらえない?!」
リュミエールが今にでも掴みかからんかのように近づいてくる。
「実は妹と一緒にそのキノコを探しに来たんだけど、なかなか見つからなくて。お願いします!!1本ください」
頭を下げてくる。よく見ると妹も一緒に頭を下げている。話を聞くと、病気の母に美味しいもの食べさせようとこのキノコを探しているらしい。
(うぅぅ、健気じゃないですか。影狼、あげてもいいんじゃないですか?)
とアオの声が聞こえてくる。まぁ、食材は他にもたくさんあるし
「どうぞ」
「ほ、本当にいいの?ありがとう」
リュミエールはキノコを受け取ると麻の小袋に大事にしまう。そして代わりに袋から1つの石を出す。
「かわりにこの石をあげるわ」
それは黒曜石のような石だった。
(魔石ですね。魔石は魔力の補充などに使われますけど、影狼には私がいますので必要ありません。街に行って売ってしまいましょう。エルフ達が作る魔石は魔力の純度が高く天然物に引けをとらないので、高く売れるでしょう。)
とりあえず、魔石を受け取り懐にしまった。
「では、猪の後処理がありますのでこれにて」
エルフの姉妹に別れを告げ、吊るしてある猪の元に戻る。
「ありがとう」
姉妹2人もお礼を言うと森の中に帰って行った。
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森の中をエルフの姉妹が歩いている。
「良い人で良かったね」
リュースが嬉しそうにリュミエールに言う。
「そうね」
リュミエールも相槌を打つが浮かない顔だ。
(あのカゲロウって人、弓を向けた時に一瞬凄い殺気を感じたんだけど。それに1人であのビッグモスボアの巨体を木に吊るし上げたの?ちょっと怪しいけど、プラチナムマッシュルームを貰ったのに疑うのは失礼よね)
疑問を抱きつつも、今は早く母親にキノコを食べさせようと姉妹仲良く家路に着いた。
エルフの定番ですよね。