観客席(演劇部にインタビュー!)
今回は少し趣向を変えて、インタビュー形式でお送りします。
森林高校には『新聞部』が存在し、定期的に校内新聞を発行している。
面白おかしく学内の事件や豆知識、お役立ち情報を掲載した新聞は、その内容の豊富さと凝ったレイアウト等から、手にするのを楽しみにしている者は多い。
中でも人気な記事は、毎月一つの部をピックアップし、部員たちにインタビューする『突然となりの部活動』のコーナー。
多種多様な部が存在する学校だからこそ、注目を集めるそのコーナーは、新聞部部員たちも特に気合を入れて取材している。
そして今回。
選ばれたのは学内でも屈指の変人……いや、有名人が揃う、実力派集団。
過去に新聞部調査の『敵に回したくない部ランキング』、『バカやってるバカな部ランキング』、『騒動を起こす回数が多い部ランキング』などなどで堂々一位を獲得した、生徒の話題にもよく浮上する部。
『森林高校演劇部』であった。
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ケース① 演劇部のリボンの騎士様
――――今日はインタビューにお答え頂き、ありがとうございます。新聞部所属の一年、白風亜美と申します。
「どうも、演劇部所属の二年、水無月湖夜です」
――――流石は、女生徒に人気の水無月さん。身長も高く凛々しくて、カッコいいですね。
「そう? ありがとう。まぁ高身長なのは舞台映えするから、役者として素直に嬉しいよ……って感じの、演劇部っぽいコメントあった方が、記事書きやすいでしょ?」
――――こちらにまでお気遣いを……! でも、このインタビューは部のことだけでなく、部員さんたちの私生活や恋バナ、普段の様子や恋バナ、あとはそう、リクエストの多い恋バナについてを聞いていくので、どうぞ気楽にお答えください。
「……なんか一気に不安になってきたんだけど」
――――私は芸能ゴシップみたいなのが一番の大好物ですので! ……さて、イキナリですが水無月さんは、藤堂朝陽さんと仲良しですよね。お二人はいつ頃からの付き合いなんでしょう?
「朝陽? アイツとは、小学生の時に同じ子供劇団に所属していたのよ。私はその頃、男の少ない劇団で男役ばっかやっていてさ。キャーキャー言われるの好きだし、楽しんでたんだけど。あいつが後から来たせいで、私の男役は獲られちゃって。最初は悔しくて、アイツのことかなりライバル視してたなぁ」
――――ほうほう。
「一度役決めで、王子様役を私がするか、アイツがするかで揉めたことがあったのよ。結局やっぱ本当の男だよねってなって、朝陽に役を持っていかれてさ。私も子供だったから、朝陽に『アンタより私の方が上手く演じれるのに!』って当たっちゃったんだよね。でもそしたらアイツ、『湖夜は俺より上手いんだから、たぶん男役じゃなくてもやれるだろ。お姫様やればいいじゃん』って言ったのよ。それで、私は初めてのヒロイン役をしたの」
――――それが意外に楽しかった……とかですか?
「そうそう。今までは男担当だったから、自分には演じれないと思ってたんだけど。ゆるふわお姫様もやったら楽しくて、周囲にも好評だったの。それで演技の幅も広がって……それからね、朝陽とつるむ様になったのは。アイツのアホさに突っ込むのは大変だけど、まぁ、一緒に居て一番楽で飽きないのよ」
――――幼馴染の微妙な関係萌っ! ……失礼しました。素敵なお話をありがとうございます。これはもっと少女漫画チックにして、記事に載せておきますね。
「堂々と捏造宣言とはやるわね。……でもうちの部には、もっと面白い鈍感演劇部バカ二人の恋バナが転がっているから、そっちの方を根掘り葉掘りよろしく。あと私と朝陽は、あくまで只の幼馴染だからね? 勘違いしないように……ってちょっと、鼻息荒いけど大丈夫?」
――――幼馴染関係の定番台詞、『ただの幼馴染発言』ご馳走様です! 間違えました! インタビューにお答えありがとうございました!
ケース② 演劇部の照明担当
「あれ? 次は私でいいのかな? 順番的に朝陽君かと思ったんだけど」
――――はい、大丈夫です、浦井灯さん。藤堂さんはあまりにも『俺を取材してくれアピール』が鬱陶しかったため、今回はスルー案件になったので。それより本当は、音無響介さんに取材したかったのですが……。
「ごめんね、響介君はこういうの苦手だから」
――――くっ、取材お断りなら仕方ないですね。ミステリアス音楽少年が、普段なにを聞いているのかなどの質問が寄せられていたのですが……。
「あ、それなら私が代わりに答えるよ。あれね、ジャンルは本当にバラバラで、ポップスも洋楽も演歌も何でもなんだけど。最近は映画のBGMにハマっているみたい」
――――なるほど! 浦井さんは音無さんと仲良しなんですね。
「うーん、仲良しっていうか、照明と音響で必然的にセットになっている感じかな? 私が一番仲良しなのは空花ちゃんだよ。彼女に助けられたのがきっかけで、私は演劇部に入部したしね」
――――これはスクープの匂いか? 一体どんな事件があったのでしょう。
「部活動勧誘の時に、私が男子に絡まれて困っているところを、空花ちゃんが風紀の演技で助けてくれたの。あの時の空花ちゃん、カッコ良かったなぁ。そこから演劇に興味を持ってね。そういえばあの絡んできた人たち、この前の公演に最前列で見に来てた気が……」
――――なかなか面白い経緯ですね。でも浦井さんは大人しそうだから、また男子に絡まれたりとか、そのへんは大丈夫なんですか?
「スタッフでも演技は勉強したからね。私も空花ちゃんみたいに、演技で撃退しているよ。撃退といえば、この前は私がサッカー部の彼を、血を吐く演技で追っ払ったんだっけ。……あ、ここはカットしといてね」
――――ち、血ですか? 一体何が……それにサッカー部の彼って……いえ、ここは空気を読んでスルーしておきます。お答えありがとうございました!
ケース③ 演劇部の期待のルーキー君
「は、はじめまして! ゆ、ゆうきみちゅる……うわ、演劇部なのに噛むなんて! 滑舌練習やり直さないと……。えっとえっと、結城充と申します!」
――――そんなに緊張しなくていいですよ。舞台では人が変わると噂の、期待のルーキーな結城さんも、緊張はするんですね。
「舞台とはまた違った緊張感があるというか……。それに僕は、そんな凄い役者じゃないです。高校から演劇を始めたばかりの、初心者同然ですから」
――――そうなんですか! どんなキッカケがあって演劇部に?
「空花先輩の演技に惚れたからです! 新入生歓迎会の時、先輩は男を騙して最後に高笑いする、超悪女な役をやっていたのですが、それがもう大迫力でして……っ! 普段は僕、ドラマとか感情移入出来ないタイプなんですけど、あれは魂が震えました! 劇が終了したあとの、素の先輩とのギャップにもやられましたね。本当に空花先輩は素晴らしいです!」
――――きゅ、急に熱いですね、結城さん。彼女のことを尊敬していることが、良く分かりました。それにしても、ワンコ系の後輩に慕われるシチュエーションか……私も萌で魂が震えそうです。
「あ、ちなみにその時の悪女の演技は、空花先輩は妹さんを参考にしたそうですよ」
――――ん? 時里空花さんの妹といえば……あれ? 何かの間違いでしょうか……いや、ここも深入りは止めた方がいいと、記者のカンが言ってます。お答え頂きありがとうございました!
ケース④ 演劇部の副部長さん
――――さて、お次は副部長の小折芹香さんです。ちなみに残念ながら、顧問である司馬先生にも取材をお願いしたのですが、「レベル上げに忙しいから無理」と断られてしまいました。
「先生は新しく始めたオンラインゲームに夢中なようです。あんな顧問でごめんなさいね」
――――いえいえ。それにしても小折さん、すごく女性らしくてイイ匂いがしますね。さぞおモテになることでしょう。
「あら? ありがとうございます。ふふ、どうでしょうね」
――――彼氏とかいるんですか? あ、実はこの質問、聞いて来いとうちの部長が五月蠅くて……。あの高校生に見えないオッサン部長は、どうやら小折さんのファンらしいんですよ。
「よく講演を見に来てくれますもんね、またお礼を言っておいてください。……さて、彼氏ですか。いますよ、実は」
――――嘘!? マジで!? 部長ドンマイ!
「しかも大学生で、頭良し顔良し家柄良しの、ハイスペック彼氏です。ちょっとヤンデレなのが玉に傷ですかね」
――――部長ますますドンマイ!
「まぁ、嘘ですが」
――――えええええ!?
「嘘というのも、嘘かもしれませんけど」
――――どっちなんですか!?
「演技の基本は『嘘』みたいなものですからね。ちょっとからかって遊んでみちゃいました。ごめんなさい」
――――なんか煙に巻かれた気分です……結局本当か嘘かも分かんないし……。
「ふふ。私なんかよりもっと面白い話が、きっとこの後聞けますよ。次の空花ちゃんには、是非この質問をしてみてくださいね……ボソボソ」
――――ボソボソって口で言ってる! で、でも分かりました。了解です、聞いてみますね。小折さん、ありがとうございました!
ケース⑤ 演劇部のエースさん
――――さて、ラストは時里空花さんです!
「よろしくお願いします!」
――――空花さんは、とっても演劇が大好きなんだとお聞きしました。しかもあの人気者の、時里海音さんの双子のお姉さんなんですよね。話題いっぱいですね!
「はい、演劇大好きです! あと海音と双子だってのは、似てなさ過ぎてよく驚かれますよ」
――――確かにお二人とも顔は似ていませんが……なんとなく、私は姉妹だって納得しますよ。若干ですが、こう、根本的な雰囲気? が似ているというか……。
「そうですか? 初めて言われました。あ、海音に関する質問は、あんまり答えられないかもです。それもよく聞かれるんですけど、答えていると切りがないので……すみません」
――――あ、いえ! これはあくまで、空花さんへのインタビューなので、海音さんのことはこのくらいにしておきますよ。それよりその、実は空花さんに是非聞いて欲しいという質問がありまして……。
「私にですか?」
――――はい。あの、空花さんは今、気になる人はいますか?
「気になる人って……恋愛的な意味ですか? でも私、彼氏と別れたばかりだからな。うーんと…………」
――――空花さん?
「! あ、いえ、ちょっと考え込んじゃいました。今のとこは居ない、ですね」
――――そう、ですか。いえ、ちょっとした質問ですので気にしないでください。演劇活動、がんばってくださいね!
「はい、がんばります!」
――――お答え頂きありがとうございました!
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「………………なんだ、これは」
大地は手にした校内新聞を見つめ、低い声でそう呟いた。
部室のドアを開けば、部員たちが円になって盛り上がっており、何かと思い尋ねてみれば、渡されたのはこの新聞だった。
そこには先日、部員たちが答えたインタビューの記事が、イイ感じに編集されて掲載されていたのだが。
「俺、こんなん知らないんだけど」
「言ってませんからね」
「何でだ!? 俺は部長だぞ!? どうして話すら来てないんだ!?」
「だって全部私が、新聞部さんと話をつけましたから。大地くんに内緒にしていたのは……ドッキリを仕掛けたかったからです。ビックリしました?」
「ビックリ以前に、これ只の仲間外れだろ!?」
畜生! と、床に新聞を叩きつける大地に、遠くから朝陽の「俺も取材スル―されたんスよ!?」という嘆きが飛んできた。
そんな二人を、芹香はいつものふんわりとした笑みで見守っていたが、ふと、彼女は部室の隅に目を留める。そこには皆の輪に加わらず、難しい顔で首を捻る空花が居た。
「どうしたんですか? 空花ちゃん」
「あ、芹香先輩。あのですね、私はインタビューで、『気になる人は居ますか』って聞かれたんです。それで、最初は居ないって答えようとしたんですけど。その、一瞬だけ浮かんだ顔が、あの……」
――――不思議そうに瞬きを繰り返す、空花の視線の行く先は。
「…………すみません。やっぱり何でもないです。自分でも、あんまり良く分かっていなくて」
「そうですか。それじゃあ、今はそれでいいですよ」
しゃがみ込んでいた空花に手を差し伸べ、芹香は意味あり気に微笑んだ。「みんなのとこに行きましょか」と優しく言う彼女に、空花も気を取り直したように、元気よく返事をする。
何処かでまた、新しい劇の開幕ブザーが鳴る音を、芹香だけは観客席で聞いた気がした。