2ポーズ
突然だが、この世界には魔法がある。スキルもある。レベルもあるらしいのだが、田舎では確認のしようがないらしい。もちろん、ジョブもあるのだが田舎では確認できない。
この世界特有のジョークで、ど田舎で勇者と魔王と聖人が出会うとどうなるかと言うのがある。落ちは、貴族と教会が衰退するだ。理解できないがそんな世界観だと思ってもらえればいい。
なぜ突然このような話をしたかと言えば、私にスキルが発現したのである。剣士には剣術スキル、農夫には農術スキル、そして私には筋肉スキルである。
例によって、田舎ではスキルの詳細は解らないが。ある時、私の日課である筋肉との対話の後にポージングをしていると、突然体が黒光りしたのである。
色々な検証の結果、ポージングするたびに利いてる筋肉の力を恐らく二倍ほどにしているのではないかと思われる。
例えば、基本ポーズのリラックス。足を肩幅に開き垂直に立ち、両腕を自然に開きます。これは、全てのポーズの前段階であるが名前とは違い全力で全身に力を入れている。この時点で、私の筋肉は黒光りし全身が二倍の強さになる。
その後に、例えば、ダブルバイセプスをする、リラックスの体制でそのまま腕を上げ上腕二頭筋を主に見せるが、この時点で腕から肩にかけてと背中の強さが二倍になる。リラックスの効果と重複するので四倍である。
ここから更に、サイドトライセプス、身体をひねり後ろに回した腕に力を入れることにより上腕三頭筋を強調するこのポージングで腕の力が更に倍、累計八倍になる。
そして、ポーズの締めにモストマスキュラーをする、身体をやや前傾にして腕を体の前で輪にするように構え、腕、肩、僧帽筋に力を入れて強調する。此処で腹筋から上に二倍の強化が発生、実に十六倍にまで加算される私の膂力。
試しに、ひとしきりポージングをしてから近くの大岩に殴りかかってみたところ。岩に腕が刺さり、そののちに打点の反対側が破砕し大岩は砕け散った。破裂でも、粉砕でもなく貫通だったのだろう。
身体も、黒くオイリーに肌が輝きだすのであまり多用するまいと心に誓う13才の夏であった。
この年の変化と言えば、村で共有の奴隷を購入した。あのオーガの迷い込みからちょくちょくはぐれの魔物が散見するようになった。中には、オーガやサイクロプスのような凶悪な魔物も見かけるので無駄に強靭な肉体を持つ村の若者に戦うすべをもたらす為に購入したようだ。なにより辺鄙な村過ぎて、冒険者を長期に雇うより安く着いたらしい。
購入されたのは、アダマスと言う赤毛の戦闘奴隷であり。元は冒険者として第一線で活躍をしていたらしいがとあるクエストで体を損傷、仲間を助けるためになけなしの装備と自身を金銭に変えて仲間の命を救ったらしい。
腕と片目が欠損し、身体には無数の古傷が走り娼館にも行けず、普通の雇主には倦厭されていたため、うちの村の購入理由は大変助かると。彼女は明るく笑っていた。
女性としては大きい、170後半の身長、逞しく引き締まった体につく豊かな隆線。野性味あふれる美女とは彼女の事を言うのだろう。長大な爪に体の右半分を撫でつけられたのだろう、身体に深く刻まれる傷跡は彼女の美しさを際立てていると、私は感じた。
初めて、彼女に出会ってから私の生活に変化が現れた。戦闘訓練をすると彼女に会えるのだ。思春期の青年のように私は、訓練場に通い。使い古された雑巾のようにボロボロにされた。
恐ろしいことに、ポージングで強化された私の肉体にダメージを通すのである。サイクロプスの全力すら微動だにしないこの私が、傾ぎ揺らぎ圧倒されるのである。片腕隻眼の女性に。
私の筋肉が馬鹿にされている。私はより一層筋トレと彼女にのめり込んでいく。
このままでは、私の費やしてきた時間が無意味になってしまう。積み上げてきたものが無くなってしまう寂寥感が私を焦らせる。
さあ、もっと私と対話してくれ・・・