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夢見る世界のたいらんと  作者: ポンディライウォン
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1ポーズ

夢見る世界のたいらんと



ある日、転生をした。


学生を終えてから、十余年。いつの頃からか、若かりし頃のアニメや小説に出てきたヒーローの言葉に感銘を受けなくなっていた。


時に、悪役に、時に脇役に。何より、物語自体を文章の巧さや物語の秀逸さに感動を覚え、そこで生きる人々の心に心を重ねることが出来なくなっていた。


綺麗ごとばかり、理想ばかりを追いかける輝く理想に恋い焦がれ、おぞましい憎悪にも似た感情を抱くようになっていた。


こんな筈じゃなかった、こんなあり方では無かった。


悔恨と、諦念と決意を胸に社会人(サラリーマン)としての日々を努めていた。


そう思っていた日々が、ふっと無くなってしまった。


このいびつな世界で、今までの積み上げたものが取り上げられ寂寥感だけが残されている。


貧しい村の、三男坊。


一日を、土と草と泥にまみれて一生を過ごすのだろう。実にシンプルな日々だ。




この村で、育って8才になる。三男だから、比較的自由に時間が取れるおかげで残念なことに考える時間だけはたくさんあった。村の事、家族の事、国の事。大きな国の1地方でちっぽけな村のちっぽけな畑を耕す私は、残念ながらこの世界の端の端、隅の隅でひっそりと生涯を全うするのだろう。


無聊を慰める為に、私は筋トレを始めた。


常に、身体の動きを意識し朝起きたらランニング、昼前には軽く体操、寝る前には前世で行っていた科学的筋肉トレーニング。五才の頃から始めたこの習慣は、私と筋肉の対話である。呼びかければ答え、答えれば呼びかける、三年間のトレーニングで私は自分の体の隅々の筋肉に意識をむけることが出来るようになった。同時に、同い年の子供と比べれば3回り程体格が大きくなり身長は大人とあまり変わらなかった。


十二歳の頃、身長は200センチ程になり腕は子供の体ほど太ももはその倍、硬くしなやかな筋肉にしあがり、思わずリラックスからサイドチェストとポージングを決めてみた。恐ろしく深い隆起が生まれ確実に良い切れをもたらしている。ああ、誰かに見せたい。


兄と姉に見せてみた、兄は普通に驚愕しスゲースゲーと褒めてくれた。姉は顔を真っ赤にしてどこかに行ってしまった。筋肉に照れるとはなかなか業の深い姉である。


村の仕事を手伝い、筋肉を育て、定期的に年の近い友人たちに筋肉を布教しポージングの見せ合いをした。だれも私のモストマスキュラーには勝てない。


そんな、楽しい日々を送っていると村に一匹のモンスターが襲ってきた、はぐれのオーガらしく村の柵を破り自警団を蹴散らしている。君たちには筋肉が足りない。見ればオーガは私と同じぐらいの身長であるが、食糧事情が悪いのか筋肉が薄い、つまり私の敵では無いのだ。


私は雄叫びと共にオーガの前に身をさらし、アブドミナルアンドサイを決めた、両手を頭の後ろにやり、腹筋から腰部、脚の筋肉に力を入れて如何にオーガの腹筋が薄いか、太ももが薄く彫が浅いか思い知らせてやるのだ。


確かに、オーガは筋骨隆々だしかし、その筋肉は上半身に集中している全体のバランスが悪く特に足の彫が浅すぎる。貴様の筋肉より私の筋肉の方が優れている。故に、恐れるに足らず。


私の鋭利な筋肉の切れに恐れをなしたかオーガは怯み、此方に棍棒を振り上げてきた。純粋に筋肉で負けたからと暴力に訴えかけるとはなんと嘆かわしい事か。私は、全力で右手を振りかぶり、オーガの振り下ろす棍棒に拳をぶつける、棍棒は粉砕されその先にあるオーガに届き上半身を破裂させた。


やはり、私の筋肉の方が優れていたのだ。


後になり、村人たちにめっちゃ感謝された。



オーガの一件以来、村の若者集が一緒に筋トレとポージングを熱心にするようになった。私もつい、熱が入り正しいフォームを指導したり、それぞれのトレーニングメニューを考えていた。前世以来の充足感が私にこんな世界も悪くないと思わせる。



さぁ、筋肉と対話しよう。


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