初接触
私たちは今、必死に創造主であるグリーベル様に祈りを捧げていた。もう私たちにはこうするしか方法がなかったのです。刻一刻と大いなる厄災は私たちの元に近づいている。王国はどうやら優秀な冒険者や軍人からなる討伐団を結成したようですが、それだけではあの厄災を遠ざけることはかなわないでしょう。何とかして神の人を招かなくてはこの国が滅んでしまう。
それでも私たちはこの不確実な方法を取ることしかできない、この方法で神の人を召喚したのはもう500年もの昔のこと。このやり方と同じであったと伝承はされはいるが、500年もの歳月があればどんな間違いがそこにはいるかわかりません。でも、今はこれで神の人が現れてくださることを信じるしかないのです。
そう言って必死の形相で祈りをしていうのは絶世の美少女であった。見たものの心を捉えて離さない深く温かみのある綺麗な青色の髪、まるで人形のように整った目鼻立ち、吸い込まれそうになる深い翡翠色の目、スタイルの整った体。世界でもほんのひと握りのものしか持てない美が確かにそこに存在していた。
しかも、今の彼女はその職責においても、個人としても国のこの先を憂う立派な人であった。もちろん、彼女の周りにいる者たちも国を想う気持ちでは負けていないものがあるが、いかんせん彼らには己の命や得た利権を厄災から守りたいと願う気持ちのほうが強い者が多かった。それでも、これまでに彼女を含めた人々は半日ほどの時間を祈りに費やし、残りの半日も費やそうとしていたのだ。
そんな彼女らの願いが創造神とされるグリーベル神に届いたかは分からないが、少なくともこの儀式は成功を迎えようとしていた。急速に光を帯びていく魔法陣から閃光が発せられるとそこにはひとりの男がいたからだ。もちらん、彼が期待された神の人かどうかは分からなかったが……。
周りから歓声があがった。私も思わず声をあげてしまいそうになりました。私たちの願いが通じたのです。そう、祭壇の中心に神の人がおられたのです。あぁ、グリーベル様感謝致します。これで、この国は厄災を退ける力を手にすることが叶いました。早速ですが、事情をお話しなければなりませんね。もう、あまり多くの時間はないのですから……。
「聖なるお方。神の人。我らの願いをお聞き入れくださり、その御身をお現しくださり、誠に感謝いたします」
体がビック!!となった。えっ?急になんのこと?閃光がはしった後、気づいたらよく分からないところにいて、急に話しかけられたのだ、驚くなというのが無理な話。でも、これは明らかに異常な事態としか思えなかった。さっきまで会社にいたはずが、よく分からない場所、なんか、気味の悪い建物の中にいるし、明らかにおかしいほどの人が周りにいる。これは一体???
「あの聖なるお方……。どこかお体のお加減でもすぐれませんか?」
こっちに向かってきた人が急に話しかけ、っ!!!……超美少女!?へっ?何これは一体どういう展開??うちの会社にこんな娘いたっけかな?
「あの~?」
「あっ!すいません。つかぬ事をお伺いしますが、ここはどちらで、あなたはどちら様ですか?」
ここは正直にこの娘に事情を聞いたほうがいいだろう。まぁ、なんかのドッキリだったとしても笑って誤魔化せばそこまで恥ずかしくはないし、とりあえずこの事態を理解しないことには何もできない。
「これは大変な失礼を!遅ればせながら名乗らさせていただきます。私はグリーベル教の大法主、エリス・グルデン・ノイスバインと申します。ここは、グリーベル教の聖神殿でございます。この度は、聖なるお方にこのような場所にお越しいただき大変恐縮しております」
「はっ?えっ?いや、もうドッキリとかはいいんで、本当のところを教えてくれませんか?」
「ドッキリ?いいえ、嘘などではございません。あなた様に我らを厄災からお救いしていただくためにお呼びしたのです。とにかく、部屋の方にご案内させていただきます。さあ、お立ちになってください」
「へっ?あぁ、はい……」
とりあえず、言われた通りに移動をし始めるが、さっきのこのノイスバインさん?が行っていたことを考えてみるとあながち嘘ではないような気がしてきた。まず、この建物が会社でないことはすぐに分かった。神殿みたいなことを言っていたが、確かに大学自体に旅行した時に見たヨーロッパの大聖堂に似ている。それに、大勢いる人々も皆伏しているが、
髪が金髪だったり、赤髪だったり、日本人じゃない感が伝わっくてくる。そこまで、考えて急に顔から血の気が引いていった。
ま、まさか、あのペンで書いたことが本当に起こったこのか?まさか、ありえない!でも、状況はそうとしか言えない。ここが“異世界”だっていうことを示すことが多すぎる。いや、まだそう考えるのは早計だ。なんてったって日本語が通じたじゃないか。そう思うと少し気が楽になった。だけれども、安心はできない。最悪のことを考えておく必要があるかも。
「どうぞ、こちらに」
「あぁ、ありがとうございます」
そういって案内された部屋に入ると、驚きのあまり言葉が出なかった。豪華なんて言葉が霞むほどの部屋で、調度品といい照明といい凄いとしかいいようがない。まぁ、俺はそんな価値がわかるほど目が肥えてなんていないから価値は分からないが、多分目玉が飛び出るほどの高価な品物だろうことは容易に想像がつく。正直に言って最悪な予想の信憑が高まってしまった。
「どうぞ、お座りください。なにか、お飲みものでもお持ちしましょうか?」
「いや、それよりも一つ聞きたい事がある。正直に答えてください。ここは俺が元からいた世界ですか?」
「……いいえ。聖なるお方がいらっしゃった世界とこの世界はもちろん別の世界ですが」
この日、この時、蝶間 優輝は人生で最も大きいため息をついた。