敵は転トラ【企画競作スレ】
俺は死に場所を探している。
いきなりDQNのタワゴトかとか言わないでくれ。
これでも大真面目だ。
絶望した。
ああ、人生に、世界に絶望したんだ。
俺は生きていても仕方ない男なんだ。カノジョには振られるし。
それでなくても落ち込んでどん底な気分を味わっていたところへ、本日めでたくトドメを刺されたってわけさ。ははーん。
カノジョには振られたし。
生きている意味なんかない。もうね、本当に生きてる意味ないよ。
カノジョに振られたし。
……死のう。
おおっと!
あぶねぇ、うっかり油断して轢かれるところだった。
え、死にたいのなら轢かれりゃいいのに、だって? そうはいかない。
俺は人生の幕引きをして、消えてしまいたいんだ。
終わりにしたいんだよ。
だけど、アレはダメだ。アレは幕引きどころか、やり直しを強制するんだから。
角を曲がって走り去ったあのトラックは、あれはダメなんだ。
転生トラックだから。
嫌なヤツに目を付けられちまったなぁ。アレに轢かれたら、なんか面倒くさいことになるらしいって、もっぱらの噂なんだ、俺が出入りしてるウェブサイトの。
とか思ってたら、後ろから来やがった!
ハリウッドジャーンプ!
キキキキ、とかってトラックは派手なブレーキ音を響かせ……ユーターンした!
ちょ、待て、それ反則!
どこまで俺を殺したいんだ、うわぁ! 間一髪で避けた、奇跡だ、神様ありがとお! て、神様が仕掛けてるんだっけか、誰に感謝するべきなん、また来た!
こうなったらビルの中へ避難だ、ガラスの回転扉を威勢よく回して飛び込んだ。
どぉだ! 来るなら、来い! て、何の迷いもなく突っ込んで来るのか!?
色々、アカンだろ、それ!
誰か、誰か助けてくれー!
ガッシャーン、て、ホテルの玄関口、フロントあたりにまでトラックは突っ込んで、なおドリフト状態で俺を追いかけてきた。ギャリリリ、ギアかなんかの音が周囲に響く。何人かその場にいた人間が跳ね飛ばされてくのが見えた。
階段を駆け上がる俺に、なおもトラックは追いすがり、あろうことかフルパワーで昇ってきやがる。
壁と手すりに側面が摺れて、火花が散る。
なんでそんなに俺に執着するんだよ!
ちょうど良く目に飛び込んだエレベーターの扉、開いた瞬間に飛び込んだ。トラックの進行方向に対して側面だったのが幸いだ、猛スピードで走り過ぎる軽トラ。突き当たりに位置してたら突っ込まれてアウトだったな。
ふぅ。
とにかく屋上まで行くか。こうなりゃ飛び降りてやる。他に選択肢がなくなっちまったよ、クソトラックのせいで。
俺の決意は固い。
この世に未練なんかない。
カノジョに振られちまったし。
静かに、エレベーターは屋上へと到着し、俺を終焉の地へと運ぶ役割を終えた。
厳かに扉が開く。死者を運ぶ葬列はないけど、俺のための葬列は俺一人でも十分だ。
扉が開く。
目の前に軽トラ。
うお、あぶねぇぇ!!
横っとびに飛び出して難を逃れた俺は、即座に走り出した。
グワッシャン、てすげぇ音がしたが、見るのは嫌だ。きっとヤツは無傷だ。
ちったぁ、余韻ってモンをくれてもいいだろが!
死んでやる! 絶対死んでやる!
テメーなんかに捕まってたまるか! 華々しくジャンプして、大空を羽ばたいてやる!
トラックとの距離、5m、4m、3m、……胸ポケットの携帯が鳴った。
金網に取りすがる。
ふははは、俺の勝ちだな、転生ヤロウ。ここへ突っ込んだところで、俺を轢き殺すことは出来まい!
お前に押されて、ハイジャンプするだけだからな!
ざまぁみろ!
余裕かまして、俺は携帯を取った。
「あ、もしもし? え?」
『あ、やっくん? あたし。あのね、ごめん、あたし勝手なことばっかり言ってて。
もう一度やり直したいんだけど……ダメ?』
人生がばら色に変化したその時、転生トラックが金網をギャリギャリいわせながら真横から突っ込んできた。
しつけぇ……。
俺は、どうやっても、生きて人生をやり直す!
それもこの地で!
カノジョ居ない暦ゼロ年の俺に恐れるものなど何もなーし!
愛という最強パワーがみるみる充填され、俺は今、TUEEEを実感しているぅ!
転生トラックの顔なし運転手の口が動く。
ヤツの言葉にならない言葉を読み取った。
『 も げ ろ 』
来やがれっ……!!