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愛しの花  作者: ぽち子。
三章
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花の行方は

 むせ返るような花のにおいがエリクシェスの鼻腔をくすぐる。

 美しいその白い花は懐かしさを与え、同時に決意を思い起こす。

 それを与えた、主と決めた人は今、自身の味方だとは決して言えない相手を茶会に招いた。

 視界には入るぐらいに遠い主達が何を話しているかは聞こえないが、おそらく聞く権利もない。


「エリクシェス」


 声をした方を見ると騎士団とは違う近衛団の制服を纏う男がいつの間にかに横に並んていた。

 貴族としては珍しくない淡い茶色の髪を持つヴォルフェルムは、本来は騎士団に居るはずなのに何故か近衛団にいる。

 アウリス国は、大概色素の薄い色の髪の毛だ。

 陛下やベアティミリアは美しい金であるし、寵妃と噂されるアルディアンナも茶毛である。

 しかしエリクシェスは違い、この白い花に囲まれていると更にその色は違和感を増す。

 そっとヴォルフェルムから視線を外し、遠くの二人を見た。

「やっぱり気になるか」

 からかう様な軽い口調のヴォルフェルムを軽く睨む。

 こういう何を考えているのか解らない笑みは昔からだから今更だが、遊ばれる気も更々ない。

 それにいくら護衛する対象が視界に入るぐらいに居るとはいえ、こうやって私語をするのは厳禁だ。

 この離宮が陛下の管轄下にあって安全とはいえ、相手が何をするかもわからないという思いもある。

「アルディアンナ様はベアティミリア様に何かすることはないさ。あの方は自分の立場を心得ている」

 僅かな時間ではあったが、アルディアンナは決して勘違いするような女ではなかった。

 ましてや国王陛下を虜にするほどの美貌を持つわけではなく、ただ素直な人。

 正直どこに惹かれたのかはヴォルフェルムには解らなかったが、クラウディアードだけが知っているのだろう。

「それに気になるのは……」

 アルディアンナはどうみても地方貴族の娘だ。

 それなのに名乗った名前から色々と見抜き、教えても居ないのに正しい礼儀作法を知っていた。

 その礼儀作法は完璧で、地方ではそういった教育は受けにくい。

「……もしかしたら、アルディアンナ様は取っておきなのかもしれない」

 どういう意味だ、とエリクシェスが視線をやるとヴォルフェルムは肩をすくめるように見せた。

 誤魔化すわけではなくヴォルフェルムとて、全てがわかっている訳ではない。

 それに元々ベアティミリアは幼馴染のようなもので、二歳年下の彼女は妹のようにも思っていた。

 今まではベアティミリアのことを思うと、アルディアンナのことは面白くないと思っていたが。

「……陛下の心の安寧になるならばそれもよし、か」

 ヴォルフェルムは、クラウディアードに忠誠を誓っている。

 それは幼い頃からのクラウディアードの人柄や決して環境に甘えることをしなかった努力を知っているからだ。

 即位してから禄に休むこともなかったのに、垣間見た寵妃との逢瀬の中で安らいだ顔をしていたのを見た。

 もしかしたらクラウディアードもベアティミリアのことを自身と同じように思っているのかもしれないとヴォルフェルムは思う。

「だめだ」

 今まで言葉を発することのなかったエリクシェスが硬い声でヴォルフェルムの考えを遮る。

 珍しく感情の乗った声に内心驚きつつも表情を伺うと、反して無表情だった。

 それに怪訝に感じつつも、エリクシェスの言葉を待つ。

「……ベアティミリア様には必ず王妃になっていただく」

「エリクシェス?」

「それがベアティミリア様のお幸せに必ず繋がる……そのためならば」

 その言葉は続かなかった。

 ヴォルフェルムがエリクシェスの本意を知ろうと伺うが解らない。

 その漆黒の瞳は全てを隠し、何の感情も映し出そうとしなかった。

「……エリクシェス、お前はベティが何を思っているのか知っているのか?」

 ベアティミリアは一番エリクシェスに懐いて、そして慕った。

 その思いの行方はいまのヴォルフェルムには計り知れない。

 しかし、もしあの頃と何にも変わっていないのだとしたら。

「……時間だ」

 エリクシェスの言葉とともに、ベアティミリア達に視線を向けると二人は席を立っているのが見えた。

 どうやら茶会はお開きになったようだ。

 今までの会話などなかったように、エリクシェスはまた従順な騎士へと戻っている。

 ヴォルフェルムも今までの考えをとりあえず留め置き、アルディアンナの元へと近寄った。





「何を話されていたんですか」

 宮に帰るアルディアンナを見送った後、珍しくエリクシェスから話しかけてきたことに内心驚きつつもベアティミリアは笑顔を返す。

 そして楽しそうに人差し指を口元に当てる。

「女同士の秘密、ですわ」

「……秘密、ですか」

「ええ、でも貴方にはきっと解らないわ」

 ベアティミリアは白い花を一つ摘み取る。

 懐かしいその花は、きっと目の前の人には届かないのだろう。

「……やっぱり想い合えているなんて、羨ましいですわね」

 誰にも聞こえないように、小さく呟く。

 聞こえなかったはずなのに、エリクシェスはベアティミリアの花を見つめる切ない笑みを見なかったふりをした。



遅くなってしまい大変申し訳ございません!

次はおそらく久々の陛下とアディの話になりそうです。

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