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愛しの花  作者: ぽち子。
二章
12/27

花の檻



 気が付いたらドレス姿にも関わらず、その人物まで駆け寄っていた。

 その人物もアルディアンナを受け止めるかのように、柔らかく微笑んだ。

 記憶にあるよりも落ち着いている印象だが、間違いないと確信し名を呼ぶ。

「クラウ!」

「そうだ、アディ……久しいな」

 クラウが腕を広げアルディアンナを包み込む。

 一瞬だけ固まるも素直にアルディアンナもクラウの腕の中に納まり背に手を回した。

 最後に会ったときはアルディアンナの拳一つ分の高さだったが、今はクラウの胸の辺りに頭がある。

「クラウ、あれから大きくなったのね」

「アディは大分淑やかになったみたいだな」

 からかう様な口調のクラウに、アルディアンナは顔を上げ軽く怒って見せた。

 しかし直ぐにそれが笑い声に変わって、二人とも名残惜しそうにしてから一歩離れた。

 それでも二人の手はつながっていて距離も近い。

「でもどうしてクラウが……」

 アルディアンナが無邪気な笑顔のまま疑問を問いかけて、はたと今の自身の状況を思い返した。

 咄嗟に手を離し距離を置こうとしたが、クラウがしっかり握って離れない。

 愕然とした様子で見あげるアルディアンナを予想していたのかクラウは苦笑を返した。

「まさかクラウは……」

「陛下!」

 問い詰めようとしたアルディアンナの声は突如クラウの背後から遮られた。

 アルディアンナに向けられていた穏やかな眼差しは呼びにきた兵士に移され、それは冷たく鋭いものだ。

 その視線を直に受け、自身の過ちに気付いた兵士はすぐさま地に膝をつけ頭を下げる。

「申し訳ございません!」

「よい、不問と致す。しかしこの場から即刻立ち去れ」

 厳しいクラウの言葉に兵士は礼をとって、急いで立ち去っていくのがクラウの姿越しに見える。

 アルディアンナも距離をとろうとしたが強く手をとられたままだ。

 鋭さのなくなったクラウの視線がまたアルディアンナへと向けられる。

「クラウ……陛下って!」

 アルディアンナはできるなら声をあげて泣き出したかった。それかいっそ気を失いたい。

 クラウの威圧的な先程の態度に違和感はなく、また『陛下』をさすのは考えられる中で一人しか居なかった。

 それでも逃げ出すことが出来ないのは、蜂蜜色の面影から悲しそうに揺れていたアイスブルーから目が放せないからだろうか。

 見つめるクラウは、アルディアンナが知りたがっていて知りたくなかった真実を告げる。

「そうだ、私はクラウディアード・フィルディール……アウリス。この国の王だ」

 予想にしていたが、本人から直接言われると改めて現実であることに衝撃を受けた。

 頭が真っ白になっているアルディアンナは辛うじて呟く。

「……ここはどこなの?」

「ここは王宮、後宮の中だ」

 後宮が王の妃が住まう宮だというのは、アルディアンナだって知っている。

 そしてここに居ることの意味も。だけどどうしても自身がここに連れてこられた理由は解らない。

 叫ぶようにクラウに縋りつく。

「どうして!?どうして……」

「ずっと会いたかった、アディ」

 クラウがアルディアンナの頬にそっと触れる。

 愛しそうにこちらを見つめる瞳にアルディアンナも飲まれそうになるが、ぎりぎりのなかで自身を保つ。

 蕩けそうなクラウの声は、アルディアンナにそっと囁く。

「私の元に、傍に居てくれ」

 懇願にも似ているが、拒否を言わせぬ声色だった。

 咄嗟に、かぶりふって自身の心を強く叱咤する。

「無理です!」

「無理ではない。アディが結婚をすると聞いたときから決めていた。いっそ、誰かの者になるぐらいなら私が貰う」

 頭を横に振りはっきりと拒絶するも、クラウは益々アルディアンナを腕の中に閉じ込めた。

 到底受け入れがたく、信じられなかった。

 クラウのことはずっと好きだった。初めて出会った幼い時、一目で落ちて囚われていたのかもしれない。

 それでも、アルディアンナには身分制度やこの国のことが頭から離れない。

 何よりも愛する故郷さえも捨てられないという思いは強かった。

「……私のことは嫌いか?」

 寂しげなクラウの声にアルディアンナは俯いた顔を上げる。

 あの日と変わらないアイスブルーがかち合う。

 思わず本心が少し漏れた。

「き、きらいではないわ。でも」

 受け入れることはできない。

 王の妃など、側妃でもアルディアンナには考えられない。

 困惑しているアルディアンナに、クラウは優しく穏やかな笑みを向ける。

「ならばよかろう。こちらでは不自由はさせぬ……愛している」

 決まってしまっていることに唖然とするアディに顔を寄せ、自身の唇を重ねる。

 突然のことになされるままで、満足したのかクラウは離れる。

「さて少々抜けてきたから行かねばならぬ」

 いつの間にかに傍には侍女のリザが居て、頭を下げて待っていた。

 そちらにクラウが違和感なく指示を出すと、リザは心得ているかのように頷く。

 もう既に為政者の顔をしている。やはり、これは夢でないことをアルディアンナに突きつけているようでもあった。

「またすぐに来る、アディ」

 そっと頬を撫でて耳元で囁く言葉は甘いのに、背筋がすっと寒い気がした。

 いつの間にかに遠くには近衛兵はおり、そちらの方へ向かう。おそらくクラウを迎えに来たのだろう。

 アルディアンナは声も出ないほど、固まったまま見送くるしかなかった。




 そしてやがて気付く。

 この宮はアルディアンナを囲うものだと。

 ひっそりと、花は囚われていく。






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