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愛しの花  作者: ぽち子。
二章
11/27

王都での再会


 シェルファイスの館から再び野馬車は快適だったが、王都に入るなり窓は目隠しがされて結局どこに連れてこられたか解らない。

 あたり見渡しても全体が見えてこないほどの立派な宮殿のようなところで降ろされ、見たこともない豪華絢爛な建物にアルディアンナは恐縮していた。

 アルディアンナの部屋だと通された部屋でさえ、実家の何倍の広さだろうかはかり知らない。

 テラスからは緑溢れる美しい庭園が見える。それだけが、唯一故郷の自然を思わせて心が和んだ。

「お気に召されましたか、アルディアンナ様」

「私には勿体無い部屋です……」

 珍しく楽しげなリザの問いに、半ば茫然と呟く。何もかもが想像以上だ。

 一目でシェルファイスの別荘より、内装は高雅であり凝ってあるのは解った。

 実家からの道中ずっと一緒だった侍女のリザはどうやらそのままアルディアンナに付くらしい。

 本来ならアルディアンナが侍女側になってもおかしくないというのに、という困惑があった。

 戸惑うアルディアンナの言葉にいつも決まってリザはにっこり笑う。

「いいえ、アルディアンナ様は我が主の大切なお方ですから」

「……でも」

「さあさあ、旅でお疲れでしょう。湯浴みの用意が出来ております」

 この話は仕舞いだといわんばかりに手を叩くと、控えていたほかの侍女がリザの後ろに控える。

 それを見てアルディアンナは嫌な予感がして後ずさりしそうになるが、無論リザが許してはくれない。

 貧乏貴族で自分のことは何でもしてきたアルディアンナにとって恥ずかしくてたまらない入浴となった。



 それから数日経っても、皆が口を揃えて言う『主様』は姿を見せなかった。

 初めの頃、何かの合間に挨拶に来たシェルファイスの言葉によると今多忙らしいくこちらでアルディアンナと対面する時間はないらしい。

 何とか時間を作るので待っていただきたい、と懇願されるが、元よりそのつもりでここに居る。

 少々安堵したという本音もあるが思いがけずに出来た時間はアルディアンナにとって、ゆっくりと流れた。

 まず何から何までしてくれる侍女がいつも身近に控えているので、直ぐに世話を受ける側行う側の差など気にせず仲良くなった。

 また時間はあるので、自然に囲まれていた領地を思い出しては庭園を散歩する。

 そこを管理している庭師と仲良くなるのも早かった。

 自身が稼ぎに出たことはないが、趣味は貴族の娘らしからぬ庭園いじりであり領民の田畑の世話なども良く手伝っていたので草木の世話には詳しい。

 深窓の令嬢ではなく、ましてや王都にいるような姫のようでもないアルディアンナは不思議だとリザは思う。

 明るく優しいアルディアンナの存在は、まるで花が咲いたようだった。



 その日ももしかしたら来訪があるかもしれない、という理由で多少着飾った。

 なんとしても宝石類は固辞したので、服装は見た目こそ質素だが薄橙色のドレスは良く似合っていると褒められた。

 それでもこの質素に見えて高級なドレスも、今までアルディアンナは縁がないはずのものだ。

 実家を出発してから、アルディアンナでは到底考えられない値段のドレスを着せられているが、未だに慣れず汚さないように気を配って張り詰めている。

 侍女たちの半ば人形のように成すがままになりつつ用意してもらうも、結局待ち人は来ずアルディアンナは一人庭園を散歩ししていた。

 ここに来てから初めの頃は何をするにも侍女の誰かが付いて回ったが、今は信用されているのか一人でも許されている。

 庭園に備えられている木製のベンチに座ると、ふうっと小さくため息が零れた。

 正直この最近のこの生活は、何もかもがアルディアンナの身の丈にはあっていないと感じている。

 アルディアンナはただあの自然溢れる領地で、みんなと暮らせればよかった。手を伸ばせば、草花が摘めるそんな地を愛していた。

 この庭園はそんな領地に少し似ている。

 だからこそアルディアンナの部屋はここなのかもしれない。その考えが間違っていなければ、『主様』も決して悪い人ではないはずだ。

 そう思うも、やはり正体不明な不安で時々押しつぶされそうになる。『主様』の正体や望みもシェルファイスやリザ達の秘密めいた言動や期待も、アルディアンナには解らないことばかりだ。

 ぼんやりとアルディアンナが物思いにふけっていると、かさりと草木を踏みしめる音がした。

 リザが呼びにきたのだろうか。慌てて音のほうを見るが、リザではなかった。

 長身で貴族の礼服に似ているが少々違った服を纏っていて、一目見るからに高貴な雰囲気を漂わせている。

 日に当たりキラキラと金色に輝く長く束ねている髪が視界に入り、次にその男の顔を見ようとそちらに移った。

 男の端麗な作りの面立ちを見たときに、アルディアンナは息を呑む。どこかの完璧に美を追求した芸術品を見ているような感嘆がもれそうだ。

 アルディアンナも一瞬見惚れて、こちらを穏やかに見つめるアイスブルーの瞳と目が合った瞬間に思い出が重なる。

 あの最後にあったときはまだ少年の幼さを残していたが間違いない。

「クラウ……?」

 何度会いたいと望んだことか、数知れない。

 待つのではなく会いに行こうか迷うところで、一体どこの誰なのかを知らないことに気付いては後悔していた過去が過ぎる。

 あんなにも話していたのに自身が何も知らないことに気付き、大人に近付くにつれ自然と諦めもついていた。

 それでも今だけは何もかもを忘れ、アルディアンナはその人物の元へ駆け出していた。




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