第9話 二度目のざまぁ ―救援の名を借りた懇願
王都の大広場。
邪竜討伐の準備が着々と進められる中、人々は一人の英雄の周囲に集まり続けていた。
ルーク。
無能と追放された青年は、今や国中が期待する最強の冒険者として讃えられていた。
彼の隣には、紅のマントを纏う女騎士イリーナと、聖印を胸に下げた巫女リリィが立つ。
英雄と二人の仲間。その姿はまさに絵画のようで、群衆からは憧れの眼差しが注がれた。
だが――その場の片隅に、惨めな姿で立ち尽くす者たちがいた。
勇者エドガーと、そのかつての仲間たちだ。
* * *
「ルーク!」
群衆を掻き分け、エドガーが叫ぶ。
声に反応して、広場全体が一瞬ざわめいた。
ルークは冷静な表情で振り返る。
「……エドガー」
旧仲間たちの姿は、かつての輝きを失っていた。
甲冑は傷だらけで、剣は刃こぼれし、顔には疲労の影が刻まれている。
群衆の視線が突き刺さる中、彼らは必死に虚勢を張った。
「俺たちも、邪竜討伐に同行させてくれ! かつての仲間として、共に戦うべきだろう!」
声は大きかったが、どこか震えていた。
群衆がざわめく。
「勇者パーティが……?」「また英雄様に頼るつもりか」
「追放しておいて、どの口が言うんだ」
エドガーの顔が引きつった。
それでも、彼は言葉を続けた。
「……俺たちには経験がある。お前一人に背負わせるわけにはいかない! だから――」
その言葉を遮ったのは、ルークの低い声だった。
「背負わせるわけにはいかない? 笑わせるな」
静寂が広がった。
ルークは一歩踏み出し、群衆の前で旧仲間を見据える。
「お前たちは俺を“無能”と呼び、追放した。荷物持ちすら不要だと切り捨てた。あの時、お前たちは自分で選んだんだ。俺を仲間ではなく、ただの足手まといとして」
エドガーの顔が青ざめる。
セリナが必死に口を開いた。
「ち、違う! あの時は誤解だったのよ! 私たちだって後悔してる! だから、今度は――」
「遅い」
その一言は鋭い刃のように突き刺さった。
ルークは保存庫に意識を向け、光を引き出す。
手に現れたのは、先日得た白銀の鎧。
彼がそれを纏った瞬間、群衆からどよめきが広がった。
「これが……神代の鎧だ」
ルークは広場に響く声で言った。
「剣も、魔導書も、鎧も。俺の保存庫には、この世界に眠る秘宝が集い続けている。お前たちには到底扱えなかった力だ」
エドガーが震える声を上げる。
「……俺たちだって! もし一緒に戦えば、きっと……!」
「一緒に戦う?」
ルークは冷笑した。
「お前たちと組む理由は、どこにある?」
群衆がざわめきから怒号へと変わった。
「そうだ!」「英雄様にすがるな!」
「無能を追放しておいて、今さら戻してもらおうなんて、どれだけ厚かましいんだ!」
人々の声は止まらなかった。
それはかつてルークが浴びせられた嘲笑の反転だった。
今度は旧勇者パーティが、王都全体から嘲笑と侮蔑を浴びる番だったのだ。
セリナが涙を流し、僧侶リシェルが俯いて嗚咽した。
斥候カインは唇を噛みしめるしかなかった。
そして、エドガーはとうとう膝をついた。
「……俺たちが……間違っていた」
かすれた声が、群衆の前で吐き出される。
その瞬間、広場を埋め尽くす人々の中から嘲笑が湧き起こった。
「英雄を追放した無能どもだ!」
「勇者パーティなんて名ばかり!」
「国を救うのはルーク様だ!」
ルークは剣を握りしめ、冷たく言い放った。
「二度と俺の前に立つな。お前たちにできるのは、俺が成すことを遠くで見て悔やみ続けることだけだ」
その言葉は、もはや刃よりも鋭く旧仲間の胸を抉った。
* * *
その夜。
宿舎に戻ったルークは、静かに息を吐いた。
イリーナが隣で笑みを浮かべる。
「見事な“ざまぁ”でしたね。彼らには、もう逃げ場すら残されていません」
リリィも小さく頷き、真剣な瞳でルークを見つめる。
「あなたは……本当に、この国を救う英雄です」
ルークはしばし黙し、やがて低く呟いた。
「英雄か……。俺はただ、追放された無能のまま終わるのが嫌だっただけだ」
だが、保存庫に眠る光は今も強く輝き続けている。
その奥には、まだ誰も知らない秘宝が――邪竜を打ち倒す“決定的な力”が眠っていた。
そして、旧仲間たちは群衆の前で屈辱を味わった。
だが本当のざまぁは、これで終わりではない。
――決戦の時こそ、最大の逆転劇となるのだから。




