第7話 英雄の凱旋とざまぁの始まり
王都の城門前。
石畳の広場には人々が集まり、ざわめきが波のように押し寄せていた。
「本当に竜を倒した冒険者が来るのか?」
「一人で森竜を斬ったって話だ。まさか嘘じゃないだろうな」
「いや、騎士団副団長イリーナが同行してるらしいぞ」
ざわめきはやがて大歓声に変わった。
紅のマントを翻して進むイリーナと、その隣に立つ青年の姿が見えたからだ。
――ルーク。
昨日まで誰もが知らぬ無名の青年だった男は、今や王都全体が注目する英雄へと変わっていた。
群衆の間を進むたびに、賞賛の声が飛び交う。
「ルーク様!」「救世主だ!」「我らの希望!」
胸に突き上げる感情を、ルークは静かに押し殺した。
かつてこの街を去るとき、彼は無能の烙印を押され、嘲笑と侮蔑を浴びせられていた。
だが今は――。
「……お前ら、見ているか」
小さく呟いた声は、雑踏に紛れて消えた。
* * *
城門の前には、既に勇者パーティが立っていた。
リーダーのエドガー、魔法使いセリナ、僧侶リシェル、斥候カイン。
かつての仲間たち。彼らの顔は青ざめ、群衆の視線を恐れるように俯いている。
ルークの姿を見た瞬間、彼らの表情が凍りついた。
「……ルーク……」
エドガーがかすれた声を漏らす。
王都の役人が声を張り上げた。
「勇者パーティよ! 貴様らは竜討伐に失敗したと聞く。しかし辺境の村では、ルーク殿が単独で竜を斬ったとの報告がある! 真偽を明かせ!」
ざわめきが広がる。
群衆の目は、今やルークと旧仲間を見比べていた。
英雄と、無能者。
その構図は残酷なほど鮮明だった。
「ち、違う! 俺たちだって戦った! 竜は……竜は群れだったんだ!」
エドガーが必死に叫ぶ。
だが群衆の反応は冷たかった。
「群れ? 言い訳だろ」「ならなぜルーク殿は一人で勝てた?」
「勇者よりも、彼の方が強い!」
セリナが蒼白な顔でルークを見つめた。
「……ルーク、本当に……竜を……」
ルークは視線を返さなかった。ただ一歩前に進み、静かに剣を抜いた。
銀光を帯びた刃が月光を受け、広場を照らす。
その瞬間、群衆が息を呑む。
「これが、俺の保存庫から得た力だ」
ルークは低く告げ、剣を振り抜いた。
空気が裂け、雷鳴が轟く。
稲妻が走り、城門前の石畳が真っ二つに割れた。
「ひっ……!」
僧侶リシェルが悲鳴を上げ、セリナは尻餅をついた。
エドガーの額から汗が滴る。
彼らが束になっても届かなかった力を、ルークは片手で示したのだ。
「俺を追放したこと、今でも正しい判断だと思うか?」
ルークの声は冷たく響いた。
エドガーは答えられなかった。
その沈黙こそが、全てを物語っていた。
群衆からざわめきが起こる。
「勇者パーティは間違っていた!」「英雄を追放した無能者たち!」
怒号が飛び交い、旧仲間たちは群衆の罵声に晒される。
「やめろ……俺たちは……!」
エドガーが必死に叫んでも、誰も耳を貸さなかった。
その中で、ルークはただ静かに立っていた。
復讐の言葉を吐く必要はなかった。
真実は既に、全員の目に映っている。
――ざまぁ、だ。
* * *
謁見の間。
王と重臣たちの前に立ったルークは、改めて呼び出された。
「ルーク殿。卿の力をもってすれば、迫り来る邪竜の脅威を退けることができよう。どうか我が国の英雄として、力を貸してはくれぬか」
その言葉を聞いた旧仲間たちは愕然とした。
勇者として王に仕えていたはずの自分たちが、今や役立たずとされ、代わりに追放した仲間が“英雄”として讃えられているのだ。
「ルーク……俺たちと、もう一度――」
エドガーが言いかけた瞬間、ルークは鋭い眼差しで遮った。
「二度と同じ道を歩むことはない」
短い言葉。
だがその響きは、彼らにとって死刑宣告に等しかった。
* * *
謁見の後。
イリーナが隣に立ち、静かに笑みを浮かべた。
「見事でしたね。彼らに、これ以上の“ざまぁ”はないでしょう」
ルークは小さく首を振った。
「いや……本当のざまぁは、まだこれからだ」
王都の夜空に、雷鳴の残響が微かに響いた。
それは、新たな戦いと更なる栄光の予兆でもあった。




